『スペル』サム・ライミ~飛び出すお化けと真っ向対決~
『スパイダーマン』シリーズの大ヒットでメジャー監督となったサム・ライミだが、私はあまり見ていない。『シンプル・プラン』を見たぐらいか。ホラー映画も苦手なせいであまり見ていないのだ。だから有名な『死霊のはらわた』も見てない。サム・ライミがその『死霊のはらわた』の原点に立ち返ったような作品と言われているのが本作『スペル』だ。『スパイダーマン』シリーズ後の2009年に撮った作品。
監督自らインタビューで「『弾ける幽霊物語』『飛び出すお化け』のような作品が大好きだ」と言っているように、まさにお化け屋敷のようにガーナッシュ婆さん(ローナ・レイバー)の目玉が飛び出してきて、口から汚物をまき散らし、変幻自在のお化けがアリソン・ローマンに襲いかかる。昇進がちらついている銀行員のクリスティン(アリソン・ローマン)は、老婆のガーナッシュが懇願する不動産ローンの延長を冷たく拒否する。そのことで恨みを持ったガーナッシュ婆さんがクリスティンにお化けとなって襲いかかるという単純な物語。
ガーナッシュ婆さんの汚れた爪、机を叩く音、口から出す入れ歯、そして義眼という不気味なもののオンパレード。そして夜の駐車場に舞うハンカチの布きれが車のフロントグラスに貼り付く。さらに後部座席に座っている黒い影、後ろから襲いかかり、髪を引きちぎる老婆・・・といった具合だ。風、光、ハンカチの布、音、白いカーテン、蠢く影などありとあらゆる不気味なものを総動員。寝ている間にハエが口や鼻から身体の中に入ってしまうのも怖い。婆さんの口から吐き出される汚物や蛆虫。アリソン・ローマンの鼻血がドバーと吹き出すし、彼女が作ったケーキからも蛆虫のようなものが出てきたりもする。このお化けに果敢に対決するのが、金髪美女のアリソン・ローマン。決して負けていない。持ち前の気の強さで立ち向かっていく。霊を鎮めるために生け贄として猫まで殺して彼氏にも内緒にしている。そして豪雨の中で泥だらけになって老婆の墓を掘り起こして、死んだ老婆と対決し、霊を鎮めようとする。その泥だらけの姿から、翌朝の彼氏との旅行では晴れやかなコートを身に纏って変身。最後のオチまで見事な体当たり演技だった。体が吹き飛ばされたり、地獄の炎に飲み込まれたり、もうやりたい放題。不気味で気持ち悪くて驚かせて、それを楽しむようなカラッとした映画だ。決して湿った忍び寄るような恐怖ではない。
2009年製作/99分/G/アメリカ
原題または英題:Drag Me to Hell
配給:ギャガ
監督:サム・ライミ
脚本:サム・ライミ、アイバン・ライミ
製作:ロバート・G・タパート、グラント・カーティス
製作総指揮:ジョー・ドレイク、ネイサン・カヘイン
撮影:ピーター・デミング
美術:スティーブ・サクラド
編集:ボブ・ムラウスキー
音楽:クリストファー・ヤング
キャスト:アリソン・ローマン、ジャスティン・ロング、ローナ・レイバー、ディリープ・ラオ、デビッド・ペイマー、アドリアナ・バラッザ、チェルシー・ロス、レジー・リー、モリー・チーク、ボヤナ・ノバコビッチ、ケビン・フォスター、オクタビア・スペンサー