ジョン・カサヴェテスの映画の熱量にはいつも圧倒される~『ラヴ・ストリームス』愛を求めて見放され
『ラヴ・ストリームス』(c) MCMLXXXIV Cannon Films, Inc.
なんという映画だろう。予想もつかない登場人物たちの行動、その危うい不安定な感情、寂しさや孤独や不器用さの裏返しの空騒ぎ。その感情の緊張と強度がずっと続くジョン・カサヴェテスの映画にいつもながらに圧倒された。
ジーナ・ローランズが演じるサラが娘と元夫をプールサイドで笑わせようと必死になる馬鹿々々しい狂気のようなテンション、さらにジョン・カサヴェテス演じる弟のロバートには愛情を注ぐ存在が必要だと、サラがポニーやヤギ、犬や鶏やアヒルにインコなどたくさんの動物たちを買い込んでくる。その驚くべき滑稽な展開に、もう笑うしかない。そんな動物たちの相手をしないロバートを見て、今度はサラが突然倒れる。そして暴風雨の中でロバートが動物たちを家の中に避難させて、「ちゃんと世話をするから、ずっとここにいてくれ」とオロオロする。医師が危険な状態だと言っているのに、医師を追い出しロバートが看病していると、サラは元夫と娘と和解をする舞台の夢を見たことで、「今夜、発つ」と突然言い出し、荷物をまとめ出す。嵐の中で先日出会った若い男に車で迎えに来てもらって出て行くのだ。さっきまで卒倒していた女が、なぜここまで変われるのか?観客はその感情の変化についていけない。それでもどこかに心を揺さぶる真実のような切羽詰まった何かがあるから、目が離せないのだ。
ロバートという 中年のダンディな流行作家は、享楽的であり、いつも女たちに愛され、女たちと共同生活をしている。そこへ「あなたの子供よ」と元妻から会ったこともなかった息子を預けられ途方に暮れる。女の子たちを家から追い出し、息子と酒など飲んだりして関わろうとするが、うまく行かない。そんな時に姉のサラ(ジーナ・ローランズ)が大荷物を抱えて彼の家にやって来る。15年連れ添った夫と離婚協議中のサラは、娘と夫を愛していたが、その愛の過剰さが夫や娘には窮屈で拒絶されてしまうのだ。ロバートはサラの訪問を喜んで歓迎するが、すぐに息子とラスベガスに旅立ってしまう。さらに旅先のホテルで息子を一人置いて、女たちと遊びまわるのだ。このロバートの行動は理解しづらいのだが、愛と向き合うことを避けているようなのだ。享楽的な空騒ぎを興じ続けている男。結局息子はママのところに帰りたいと言いだして送り届けるのだが、扉に必死でママを呼び、頭をぶつけて血を流した子供の姿を見て、元妻の夫にボコボコにされるロバート。そんな倒れた父を見て、息子は「パパ、愛しているよ」と呼びかける。子供のようなダメな男はなぜか愛されるのだ。帰ってきて、まだ眠くないというサラを置いて、今度は別の女のところに遊びに行くロバート。息子ともサラともゆっくりと時間を共にしない男。一方でサラは、一人男を求めて、ボーリング場に行って、ボールから手が抜けなくなって倒れるのだ。ジーナ・ローランズはこの映画で何度も倒れる。 愛から逃げて空騒ぎしかできない不器用で寂しき男と、愛を強く求めるも愛に見放される寂しき女。そんな愛に不器用な姉と弟が嵐の夜に奇矯な動物たちと一緒に時間を過ごすというヘンテコな映画だ。弟は嵐の夜に姉を本気で求める。しかし、姉はそんな弟の思いに気づかず出て行ってしまう。
まぁ物語はどうでもいいのだ。その瞬間瞬間のジーナ・ローランズとジョン・カサヴェテスの芝居の強度から目が離せない。予測不能な行動がスリリングであり、登場人物たちの不安定な揺れ動く気持ち、ある種の熱の高さに圧倒されてしまうのだ。
ベルリン国際映画祭金熊賞を受賞。ジョン・カサヴェテスは、彼の出演している犯罪喜劇『ビッグ・トラブル』(86)の監督を途中交代で引き継いだが、 製作会社側と衝突して 最終編集権を奪われる不本意な作品となった。それを遺作と呼ばなければ、本作が事実上の彼の遺作となった。
1984年製作/141分/アメリカ
原題:Love Streams
配給:ザジフィルムズ
監督:ジョン・カサヴェテス
製作:メナハム・ゴーラン、ヨーラン・グローバス
原作:テッド・アレン
脚本:テッド・アレン、ジョン・カサヴェテス
撮影:アル・ルーバン
編集:ジョージ・ビラセノール
音楽:ボー・ハーウッド
キャスト:ジーナ・ローランズ、ジョン・カサヴェテス、ダイアン・アボット、 ジェイコブ・ショウ、シーモア・カッセル、マーガレット・アボット、ミシェル・コンウェイ