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『プレステージ』クリストファー・ノーラン~騙し合いの果ての狂気~

(C)2006 TOUCHSTONE PICTURES All rights reserved.

この映画はまさにクリストファー・ノーランらしい観客を騙しと混乱に陥れる作品と言えるだろう。なんでもアリのダーク・ファンタジー。観客の拍手喝采のステージに魅せられた男たちの狂気の物語だ。マジックにはタネがあるはずなのに、映画を引っ張っていくサスペンスのネタばらしが、えっ?そんなのアリ?なんて思ってしまった。瞬間移動の最終的なネタがそんなことなの?・・・。観客を騙して作り手がほくそ笑んでいるような気がして、なんだがなぁと私は思ってしまった。

いつものように時間を巧みに編集で操りながら、観客を混乱させる。しかも騙すこと、嘘をつくことが日常の男たちの話なのだ。何が本当で何が嘘なのか?誰が誰なのか?わからなくさせている。ステージ上の建前と舞台裏の真実の二重性をテーマにしながら、人間そのものの二重性が浮き彫りになっていく仕掛け。誰にでも本音と建て前があり、表の顔と裏の顔がある。裏の顔もまた自分であり、どちらが本物でどちらが偽物?ということもない。ステージで観客を騙して拍手喝采を得たいばかりに、マジックはどんどん過激に危険なものになっていく。そして妻をそのマジックの最中で事故死させてしまった男アンジャー(ヒュー・ジャックマン)の恨みが、物語の発端になっている。ロープを結んだボーデン(クリスチャン・ベール)が、「どう結んだか覚えていない」と言うのだから、妻を死なせたアンジャーがボーデンに恨みを持つのもよく分かる。そしてボーデンは妻サラ(レベッカ・ホール)と娘を手に入れながら、マジックをどんどん成功させていく。アンジャーもボーデンをライバル視しながら、カッター(マイケル・ケイン)と様々な仕掛けを考えていく。物語を語ることはすべてネタバレになるので、詳しく書きようがない。ヒュー・ジャックマンとクリスチャン・ベールのライバル関係は、それぞれの分身が登場し、女性のレベッカ・ホールとスカーレット・ヨハンソンも絡んでいくことにより、ますます複雑になっていく。そして最後に出てくる怪しげな電気実験科学者にデビッド・ボウイまで登場する。

まぁ、まさにマジックを観るようで楽しめると言えば楽しめるのだが、どんどん男たちの狂気が露わになっていく。妻をも騙し、日常をすべて嘘(虚構)で塗り固めていく男の人生。これはどういうことなのだろう?という謎だけを興味にしながら、意外なマジックならざるものへと観客を導くという話。舞台の底、水槽に閉じ込められる恐怖、街の闇や路地や階段などを使いながら、自分も他人も欺く虚構の騙し合いの世界が繰り広げられている。


2006年製作/130分/アメリカ
原題または英題:The Prestige
配給:ギャガ・コミュニケーションズ

監督:クリストファー・ノーラン
脚本:クリストファー・ノーラン、ジョナサン・ノーラン
製作:クリス・J・ボール、バレリー・ディーン、チャールズ・J・D・シュリッセル、ウィリアム・タイラー
原作:クリストファー・プリースト
撮影:ウォーリー・フィスター
音楽:デビッド・ジュリアン
美術:ネイサン・クロウリー
キャスト:ヒュー・ジャックマン、クリスチャン・ベール、スカーレット・ヨハンソン、マイケル・ケイン、パイパー・ペラーボ、レベッカ・ホール、アンディ・サーキス、デビッド・ボウイ

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