『くじらのまち』鶴岡慧子~水の中から陸の世界へ~
第34回PFF(ぴあフィルムフェスティバル)グランプリ受賞作。飛行機の機内上映で見た。鶴岡慧子監督は、『バカ塗りの娘』がそこそこ面白かったので、この立教大学の卒業作品を見た。鶴岡慧子は、立教時代は万田邦敏に師事し、卒業後に東京芸術大学大学院映像研究科映画専攻監督領域に進み、黒沢清監督に師事するという経歴の持ち主。
まさに自主映画という感じの70分の短い作品。仲良し高校生3人組の物語。6年前に失踪した兄のことが気になるまち(飛田桃子)は、水の中にいることが好きな女子高生。プールで魚のように泳いでいる。男の子の朝彦(片野翠)はまちのことが好きで、もう一人の女子高生ほたる(山口佐紀子)は朝彦のことが好きだというよくある三角関係。3人は、夏休みにまちの兄を探しに東京へ小旅行をする。
最初の方で校舎の窓の下にいる朝彦、プールに向かうまち、窓を乗り越えて飛び降りるほたるの3人の動きと構図がいい。「何か食べに行こう?」というほたるの誘いを断る2人。その後プールで気持ち良さそうに泳ぐまち。まちのことが気になってプールに来る朝彦。動きの演出で見事に3人の関係を表している。教室の扉の戸をわざわざ閉めて、朝彦に告白するほたる。なにも答えない朝彦。まちの家に兄の友人と名乗る人からリンゴが送られてくる。兄が東京にいるかもしれないと思うまちは、東京へ兄を探しに行くことを決める。ある夜、まちが寝ていると、階下で何か気配がする。階段を下りていくと、兄が幽霊のように玄関に座っている。兄は「クジラは地上にいると内臓が圧迫されるらしい」とかなんとかクジラのことをつぶやいて出て行く。それはまちの夢だったらしいのだが、東京でもクジラの話が何度か出てくる。「陸上での生活に適応したクジラは、なぜあえて新天地を目指す試練を選び、海へと還ったのか…。」
東京で縦に3人が並んで歩く姿を横移動で捉えたショット。ほたるがゴミか何かを朝彦の頭に投げて、2人の追い越して前に行く。そんな動きの演出がいい。夜ホテルの一室で喧嘩して、まちが1人出て行く。まちを探す2人。駅前で空き缶を蹴っているほたる。夜の町を歩き回って公園のクジラを見るまち。翌日、兄が住んでいた部屋を教えてもらい、まちは古いアパートを訪ねていく。誰もいない部屋。天井から水がポタポタと落ちており、まちは兄の気配を探す。その後ろ姿。死の世界に吸い寄せられようとしているようなまちを朝彦が連れ戻す。夜のプールに飛び込む3人。兄がいるであろう海を見つめるまち。
生命の源である海から陸へ、そして海へ=クジラ=水=死(不在の兄)と連想させながら、陸上で生きていくことがまだハッキリと輪郭を持ち得ない思春期の3人。そんなあやふやな存在でしかない高校生たちが、瑞々しく初々しい。魅力のある作品だった。ただ、自主映画の限界か、セリフが聞き取りずらかった。
2012年製作/70分/日本
監督・脚本・編集:鶴岡慧子
撮影・照明:佐々木健太
キャスト:飛田桃子、片野翠、山口佐紀子、佐藤憲太郎、中嶋健