第7回: フレキシタリアンとSDGs
2020年1月29日掲載
オーストラリアの森林火災、ドバイの洪水、ロシアの異常に温かい冬――。新年早々世界各地で気候変動による異変が続いています。日本でも昨年は九州北部の豪雨、台風15号、続いて台風19号による自然災害が続き、「気候変動」ということばは日常的に見聞きするようになりました。数年前まで使われていた「異常気象」はすでに異常ではなくなり、誰もが「このままではまずいんじゃないか」と感じていると思います。今月は、こうした気候変動と食とインバウドがどう関連しているのかを考察します。そういえば、今年の日本は雪不足ですよね。
「自分にも地球にも優しい」フレキシタリアンが増加中
米国では代替肉だけで既に1,500億円の市場規模となっている「プラントベースド(植物性由来)」の食品が日本でも市場へ投入され始めています。日本ハム、伊藤ハム、大塚食品といった大手食品企業が相次いで市場への参入を発表しました。そもそも大手食品企業は肉食品の取扱高が大きいだけに、対極にあるプラントベースド食品は競合になるのではないかと考えられていました。しかし各社は新たな商機と判断して、肉と植物性のいわばハイブリットでの商品展開を始めました。海外では「肉を半分に減らさないと地球に壊滅的な被害が出る」という衝撃的な論文も発表されており、「肉離れ」は加速化しているようです。海外機関による調査結果から詳しく見てみましょう。
左のチャートは肉食に関するアンケート結果で、右はその理由です。英国の調査機関によると、世界の消費者の約半数はすでに肉食を止めたか肉食を減らしているという結果が出ています。その理由の多くは、「自分の健康のため」としていますが、「動物愛護」や「環境保護」を目的とした人も少なくありません。海外では気候変動の原因は環境破壊で、その最大原因は畜産業にあるといった論調を多く見かけます。環境問題は人々の食生活にも大きく影響していることがわかります。
世界的に注目されているヴィーガンはまだ少数派ですが、「ペスクタリアン(肉類は食べないが魚介類は食べる)」、「ベジタリアン(菜食主義者)」以上に多いのが、少しまたは多めに肉食を減らしているというベジタリアン予備軍の人たち「フレキシタリアン」です。いわゆる「ゆるベジ」や「にわかベジ」ともいわれるこの人たちが「食の制限なし」に次ぐシェアを占めているのには注目すべきです。なぜなら、これからも健康に配慮する人は増え続けるでしょうし、SDGs(持続可能な開発目標)が重要視される中では環境へ配慮する人も増え続けると考えられるからです(かくいう私も昨年からフレキシタリアンです)。
食で評価されるSDGsへの取組み
食にまで影響を及ぼしている環境問題を、私たち事業者はどう捉えたらよいのでしょうか。消費者は品質、価格、デザイン、機能性といった色々な要素から判断します。先述のような世界の動きから、今後は事業者の環境面への配慮も重要な要素になるでしょう。訪日客の一番の楽しみは日本での食事ですので、環境を軽視していると判断されるとインバウンド全体に影響します。日本は「モッタイナイ」文化が有名ではあるものの、近年は国内で出たゴミを海外へ輸出しようとしたり、ゴミの分別が厳しい割にはリサイクル率が低かったりと、必ずしも海外での評価が高いわけではないのです。
その一例としてあるのが、SDSN(国連持続可能な開発ソリューション・ネットワーク)による「世界のSDGs達成度ランキング2019年」です。日本は世界で15位。アジアでは首位だったものの、世界ではデンマーク、スウェーデン、フィンランド、フランス、オーストリアといった上位5カ国の欧州勢からは引き離されています。日本の課題は「ジェンダー平等を実現しよう」「つくる責任つかう責任」「気候変動に具体的な対策を」といったところで、男女格差や再生可能エネルギーの少なさに加えて、輸入食料・資料に伴う窒素排出量や水産資源の乱用が大きな課題とされています。ゴミを海外へ輸出するなどは「つくる責任つかう責任」を果たしていませんよね。
世界はこうした問題をテクノロジーと意識改革で克服しようとしています。本コラムでも頻出しているフードテック系企業の躍進やそれを支える消費者の意識が市場を変えようとしているのです。日本はかつて高度経済成長期の公害という環境問題を克服しましたが、今はそれよりも広範で、複雑で、多様化した新たな環境問題に直面しています。日本でもプラントベースド食品が増えれば、フレキシタリアンは増える可能性があります。また海外と同じように環境意識は今後さらに高まるでしょう。取組みやすい食から環境問題と向き合う企業や消費者が増えるのではないかと、私は考えています。
大阪2025はSDGsのショーケースに
今年は日本の食とインバウンドにとって大きな山場を迎えます。昨年3,188万人を記録した訪日客は過去最高だったものの成長率は鈍化しており、2020年の政府目標4,000万人の達成は難しいのではないかと考えられています。そうした中いよいよ五輪・パラリンピックが東京で開催され、日本のホスピタリティが問われることになります。それに加え、環境面への配慮もSDGsと共に急激にクローズアップされてきました。
SDGsは2030年の地球のあるべき姿を示しています。それは今から10年後ですから2025年はその中間に当たります。5年後なんてまだ先だと思われるかもしれませんが、東京2020が決まったのは7年前です。すぐにやってきそうな5年後に大阪万博を「SDGsのショーケース」にできるか。フレキシタリアン向けでさえ十分なメニューを提供できていない今の状況をどう変えていくか。ポストSDGs(2030年後の世界)について議論が始まるのも25年。ビックイベントが続く間、日本は世界から注目され続けることになります。絶好機到来です。
掲載誌面: https://www.nna.jp/news/show/1999087