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第31回 拡大を続けるアレルギー対応市場

2022年1月26日掲載

企業のCSOと言うとこれまではChief Strategy Officer(最高戦略責任者)を指していました。それが昨今はChief Sustainability Officer(最高サステナビリティ責任者)を指すようになりました。サステナビリティー対応を求める投資家の声が大きくなっているのです。SDGS(国連の持続可能な開発目標)への理解は必須でESG(環境・社会・企業統治)にも万全でなければならない。とはいえ企業によってはテーマが大きすぎます。「飢餓をゼロに」「すべての人に健康と福祉を」といっても食べてもらえない事情もあるからです。そこで今回は、消費者にとっては食べたくても食べられない食物アレルギー対応について考察します。

■世界市場は拡大傾向、日本も例外ではない。

本コラム第14回では「アレルギーもフードダイバーシティ(食の多様性)」と題して食物アレルギーについて考察しました。世界的に食物アレルギーに悩む人が増えていること、アレルギーは加齢とともに多様化していること、一方でそれらに対応している店舗が人気になっていることを述べました。その市場はさらに拡大しているようです。

上図は、世界市場におけるアレルギー対応食品の規模の予測と各国の予想成長率を示しています。2020年に224億米ドル(約2.5兆円)だった市場は、27年には320億米ドル(約3.5兆円)と7年で1.4倍に拡大すると予想されています。その間の年平均成長率は世界では5.2%、日本も例外ではなく4.9%と堅調な拡大が予想されています。

そういえばスーパーマーケットでも小麦粉に含まれるたんぱく質の一種のグルテンを含まない「グルテンフリー」や、大豆を使わない「ソイフリー」、砂糖を用いない「シュガーフリー」といった食品を目にする機会が増えたと感じます。海外ではこれらに加え、「GMO(遺伝子組み換え作物)フリー」「エッグ(卵)フリー」「ラクトース(乳糖)フリー」なども見受けられます。こうしたフリーフロム(原材料由来ではない)食品を求める消費者が増えていることは肌感覚で理解できます。日本ではこれまで富裕層にこうした個別対応を求めることが多かったのですが、今では庶民レベルでも求められるようになっています。

■消費者はマイナーブランド志向

アレルギー対応食品がフードダイバーシティの一つだと考えると、参考になるのはハラール(イスラム教徒も消費できるもの)やベジタリアン(菜食主義者)、ヴィーガン(動物性を食べない人)対応の事例です。新型コロナウイルス禍前はインバウンドが盛り上がる中、全国でそれらに対応する食品や店舗が増えましたが、その多くは中小企業によるものでした。大量販売が前提の大企業よりも機動性に優る中小企業の方が機会を捉えるのが早かったのです。地域の名物であるラーメンやたこ焼きが人気を博しました。

需要と供給のバランスが崩れているところに商機はあります。コロナ禍でインバウンド需要は消滅しましたが、先行した事業者の食品や店舗は今でもリピーターを獲得しています。消費者に他に選択肢がないという事情があるからとも考えられますが、実際はどうなのでしょうか。

図はアレルギー対応食品を求める消費者へのアンケート結果を示しています。彼らがいかに少ない選択肢の中から商品を選び、新しい商品を探しているのかがわかります。そして、大規模なブランドよりも小規模なブランドやアレルギーフレンドリーなブランドを信頼していることがわかります。

察するにこれは、企業やブランドの大きさを信頼しているのではなく、市場参入が早かった商品やブランドに馴染みがあるためではないでしょうか。市場では少ない「自分たち向けの商品」をいち早く提供してくれたというのは消費者にとっては有り難いもの。エンゲージ(愛着心)も高まりますしロイヤリティ(忠誠心)が高まるのも当然です。

そう考えると、現在世界の食品市場を席巻しているのが新興企業であることにも符号します。商機が見えても動けない大企業をよそに、新興企業は自ら商機を創り出しているのです。植物性肉メーカーの米ビヨンドミート社やインポッシブルフーズ社の快進撃からも機を見るに敏な新興企業の躍動が見て取れます。中小企業こそこうした需給バランスが崩れている点を逃すべきではないと思います。

■コロナ禍における日本での渇望ニーズ

これまでフードダイバーシティ対応は外国人客向けとして考えられてきました。その啓蒙に努めてきた私としてはそうした意図はなかったのですが、当時喫緊のニーズとして大きかったのは確かにインバウンド客でした。しかしながら先述のように、本コラムでは一昨年に「アレルギーもフードダイバーシティである」と述べ、日本におけるその問題の進行を指摘しました。

あれから2年で環境はどう整備されたのでしょうか。ある調査(※)では、園や学校のアレルギー対応に不満がある家庭は4割弱で、アレルギーを持つ子の家庭の3割以上は頻繁に弁当を持参させるとの結果が出ています。同調査では園・学校給食のアレルギー対応は自治体や施設による差が大きいことも指摘されており、課題解決は道半ばのようです。

アレルギー対応は、ハラールやベジタリアン、ヴィーガン対応とともにわかりやすいSDGSの実践になります。CSOにとっては、脱炭素のような大きなテーマよりも身近なテーマの方が取り組みやすいはず。家族や仲間の誰かに食物アレルギーがあるというのは一般的になっています。その一人を排除するのではなく皆で包含できるようにすることは、ブランドのファン育成にも繋がります。企業も施設も自治体も一過性ではない長期的な取り組みが求められています。

※:「保育園・幼稚園・学校の給食におけるアレルギー対応に関する実勢調査」株式会社CAN EAT、NPO法人アレルギーっ子パパの会

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