第40回:ムスリム旅行者の動向
2022年10月26日掲載
訪日団体旅行が解禁されて約3カ月、個人旅行解禁から約3週間が経過しました。インバウンド復活への期待が高まる中、全国旅行支援も相まって、観光業界は一気に活気が戻ったようです。実際国内旅行各社へも海外から訪日旅行に関する問い合わせが増えており、インバウンドの早期復活はにわかに現実味を帯びてきています。そこで今回はムスリム(イスラム教徒)旅行者はどう動くのかについて考察します。
■ムスリム旅行者の心配事
世界が新型コロナウイルス禍の影響を受けるまで訪日ムスリム客は年々増え続け、2018年には100万人に至ったと推定されます。13年にマレーシアとタイからの訪日観光ビザが緩和されたことをきっかけに、円安と格安航空会社(LCC)の増便が重なり、日本に行きやすい環境が整ったのです。
当時日本のフードダイバーシティ(食の多様性)対応に関する情報を扱うメディアはほぼなかったため、14年に開設されたハラール(イスラム教の戒律で許されたもの)情報を発信するポータルサイト『ハラールメディアジャパン(HMJ)』はムスリムにとって貴重な情報源になりました。当初HMJは日本の文化・習慣に関する情報を扱っていましたが、間もなく食事とお祈り場所に関する情報をメインに扱うようになりました。それはムスリム旅行者からの問い合わせが多かったためです。
訪日旅行者が最も楽しみにしている代表格が「日本での食事」であることは知られています。それが彼らにとって必要不可欠であるハラールの流儀で提供されるのかどうか。また生活の一部であるお祈りのための場所を確保できるのかどうか。ムスリム旅行者にとってこの二つは旅行の重要なポイントだったのです。
■ムスリム旅行者の最新動向
HMJ開設から8年が経過し、いま再び訪日しようとしているムスリムは何を期待し、どんなことを予定しているのでしょうか。その動向を掴むため弊社は今月アンケート調査を実施しました。これはフードダイバーシティ社が運営する会員制交流サイト(SNS)コミュニティ『Muslim Friendly in Japan』(メンバー6万人超)によるものです。約3年のコロナ禍を経て彼らのニーズはどうなっているのか、早速見てみましょう。
「いつ訪日を予定していますか?」の質問では、1年以内が全体の36%と最多であったものの、2位は1〜2カ月以内で27%となっています。回答者に聞くと「訪日は秋がベスト。紅葉はもちろんだが東南アジア諸国連合(ASEAN)と違って日本が涼しい時期。それに今年の日本はそんなに混んでいないはずだから」といったコメントが得られました。
「訪日に際して心配していることは?」の質問では、コロナ禍前と同じ「食事とお祈りスペース」が上位に挙げられています。回答者の4人中3人が挙げていることからも、これら課題の大きさがうかがえます。「お気に入りだったあのお店はまだやっているか」「ハラールメニューはまだ提供しているか」について、問い合わせが増えている状況にあります。
次は「訪日したら、何を食べたいですか?」「訪日したら、どこへ行きたいですか?」を聞きました。何を食べたいかで注目すべきは、以前は抜群の人気であった「和牛」「焼き肉」が首位ではなく、今では「ローカルフード」が1位になったことです。これはムスリム旅行者がゴールデンルートと言われる東京・京都・大阪から地方への関心を高めていることを示唆しています。その一例として回答の中に「もつ鍋を食べたい」が数%ありました。これは数年前福岡県でハラールメニュー化され、その後東京にも波及したハラールもつ鍋を指していると思われます。ムスリム旅行者も地方でオリジナルのローカルフードにトライしたいニーズが垣間見えます。
■地方にこそチャンスあり
今回のアンケート調査から、訪日ムスリム旅行者の懸念は食事とお祈り場所であることがわかりました。8年前からの懸念と変わらないことに、受け入れ側としては改善の余地を感じずにはいられません。
一方で、対応すれば喜ばれることも事実としてあります。行きたいのに情報がない。行きたいのに対応されていない。という状況が、行きたいところに情報がある。行きたいところが対応している。となれば、ムスリム旅行者を呼び込める可能性は高まります。
ハラールを含むフードダイバーシティ対応は難しいものではありません。何を使ってどう作っているのかを伝えるだけで、まずは良いのです。自信がないままにハラール対応していますよと言う必要はなく、繰り返しますが、何を使ってどう作っているのかを伝えることが第一歩なのです。
アンケート結果によると、「どこへ行きたいか」についても地方への関心が高まっていることがわかります。食と地元の名所をPRすることはインバウンドの基本ですが、PRする対象を広げることで、つまりフードダイバーシティ対応もPRすることで、より大きな市場にリーチできるのではないでしょうか。
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