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第29回:国際会議でも「プラントベース」

2021年11月24日掲載


「採択までのプロセスについて深くお詫びします」—気候変動対策を協議するCOP26(国連気候変動枠組み条約第26回締結国会議)は、シャーマ議長の涙の謝罪で閉幕しました。石炭の使用をめぐる表現について、大幅に譲歩した内容で「グラスコー気候協定」を採択せざるを得なかったからです。新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的大流行)で1年延長された今年のCOPでは脱炭素化に関する食についても注目が集まりました。そこで今号は国際会議での食について考察します。

■メニューに『二酸化炭素排出量マーク』

英国グラスコーで開催されたCOP226は「プラントベース(植物性由来)食品」に注目が集まりました。食産業は世界全体の3分の1の温室効果ガスを排出しているとして、その対策として環境負荷が少ないプラントベースメニューが積極的に採用されたのです。これはCOPのような国際会議では近年主流になっていますが、今回際立っていたのは地産地消と低炭素メニューでした。

図はCOP26で提供された食事メニューの内容を示しています。食材は95%英国(うち80%はスコットランド)産食材を使用、メニューの40%はプラントベースだけで作ったもの、60%以上は低炭素排出量のものといった内容です。これら食材の納入業者についても再生可能エネルギーを使用しているかといった、サステナブル(持続可能)な取り組みについて厳しく選別されています。加えて、これまで使用していた使い捨てカップは1,000回洗浄できるリユース可能なカップへ変更され、結果25万個のカップを節約できたとのことです。

メニューには「冬カボチャのラザニア(0.7キログラムCO2E)」、「有機ケールと季節の野菜パスタ(0.3キログラムCO2E)」、「有機スペルト小麦の全粒ペンネパスタ(0.2キログラムCO2E)」と、各メニューに係る二酸化炭素の排出量が記載されています。これはそれぞれのメニューが完成するまでにどれくらい二酸化炭素(CO2)を排出しているのかを示しています。具体的にイメージさせるためにメニューにはこうも記されています。「今日英国では平均的なメニューを作るのに1.7キログラムの二酸化炭素を排出しています。世界自然保護基金(WWF)によると、私たちがパリ協定での合意を実現させるには、これを0.5キログラム未満にまで削減しなければなりません」

■シンガポールでも「脱炭素化のためにプラントベースを」

シンガポールでは国の主導による脱炭素化への挑戦が続いています。本コラム第23回でも紹介した「30バイ30(2030年までに食料自給率を30%に)」の一環として、先日シンガポール国際アグリフードウィーク(SIAW)がオンラインとオフラインで初開催されました。

イベントに対する同国の力の入れようは大きいものがあります。同国のヘン副首相は基調講演の冒頭で、「世界を養うには段階的な変化が必要だ」と訴えました。「世界では食料の安全保障問題が深刻になっている。地球温暖化は作物の収穫に悪影響を及ぼしており、毎晩8億人が空腹のまま眠りについている。持続可能なシステムを作るにはイノベーションが必要だ」として、ゼロ飢餓、ゼロウェスト(廃棄)、ネットカーボンゼロの「3つのゼロ」に取り組む考えを表明しました。

今後も増加し続ける人口、それに伴う食糧不足、一向に減らない食料廃棄への対策を講じるとともに、食の消費行動を変えていく必要性も指摘しました。炭素排出が大きい肉や魚から野菜、フルーツ、ナッツをより積極的に食べること、そして品質が向上しているプラントベース食品へのシフトを推奨しました。

その一例として、夕食会でプラントベース食品のメニューを出席者に振る舞いました。これらは同国に拠点を置く企業の商品で、「こうしたメニューは従来の畜産よりもはるかに持続可能なもの」と紹介しました。加えて、「テマセク(シンガポールの国家ファンド)は過去10年間で80億シンガポールドル(約6,800億円)以上を農業食品セクターに投資してきた。今後3年間で代替タンパク質関連の新興企業には3,000万シンガポールドルを投資する」とし、この分野への投資を継続していくことを表明しました。

■食は「冷笑される日本」の切り札になるか

日本の岸田総理にとってCOP26は初の外遊となりました。現地での滞在はわずか8時間、異例とも言える弾丸日程には、それで成果を得られるのかと疑問視する声がありました。そして残念ながら、首脳級会合での3分間のスピーチでは成果は得られませんでした。それどころか日本は「化石賞」という不名誉な賞を受賞してしまったのです。

世界は脱火力発電への流れを加速化させていますが、日本は火力発電の維持を表明しています。「火力発電のゼロ・エミッション化」という計画を自国だけでなくアジア諸国にも広げようとしていることが厳しく評価されたのです。COPを欠席すれば国際社会から日本は環境問題を軽視していると思われかねないと強行参加した岸田総理でしたが、結果は冷笑されることになってしまいました。

福島第一原発の事故以来、日本はエネルギー政策について迷走を続けています。再生可能エネルギー分野を得意としていた状況が一変し、事故後は原発推進が実質不可能になってしまったからです。そういった状況では国際社会にコミットするのは不可能で、約束できるとしても火力発電が前提となる施策しかないわけです。

そんな日本が脱炭素化に貢献できるとすれば何があるでしょうか。私はせめて食で貢献できる可能性はあると考えています。実際世界市場では「もしプラントベース食品がもっと種類が豊富で、おいしくて、手頃な価格であれば、肉食の人たちもプラントベース食品を買うだろう」と言い始めています。日本発世界的なプラントベース食品はまだまだ少ない状況ですが、今後はうまみや発酵といった日本企業が得意とする技術で、プラントベース食品をもっとおいしくさせることが期待されます。

来年のCOP27はエジプトで、再来年のCOP28はUAE(アラブ首長国連邦)での開催が決定しています。中東地域にある両国がどういった手腕で国際社会をとりまとめるのか。その場で提供される食事はどういったものなのか。「化石賞」を連続受賞しないためにも、日本は食での貢献が期待されます。

※写真は出席者が撮影したもの

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