【本の話】おそるべき子どもだまし
人も本も、めぐり合わせには”きっかけ„がある。
この『お江戸の百太郎』(岩崎書店)の場合、昨年夏の著者の訃報だった。
『ズッコケ三人組シリーズ』で知られる児童文学作家・那須正幹氏。
原爆(戦争)を題材にした作品も含め、その筆力に感服し、これまで多数目を通してきた。
だが時代物だけは別で……子どもだましの内容にガッカリしたくない。
その思い込みで長年スルーしてきたこの作品。
今回、著者を悼む意味で初めて手に取ってみた。
で、率直な感想。
面白い!!
子どもだましなどと決めつけていた自分が、心底恥ずかしい。
いまひとつパッとしない岡っ引きの父親を手助けする利発な息子・百太郎。江戸の町で起こる大小さまざまな事件を周囲の人々の力を借りて解決していくのだが――まずは登場人物たちが個性豊かで、悪人も含めて生き生きと、確かな温度を持って描かれている。
人物描写も事件の種明かしも、大人向けの時代小説に決してひけをとらない。(なるほど、そうきたか!)と感服できる上質のミステリーなのだ。
なおかつすごいのは、きちんと時代考証をした上で、子どもにもわかりやすく表現してあること。
例えば「ニックネーム」「チャンス」「〇メートル」などカタカナも使用。うん、これなら子どもも難しいと顔をしかめず、どんどん読み進めていくはず。
それでいて当時の江戸の暮らしぶりや季節の情景が随所にちりばめられ、そのわかりやすさに(なるほどねえ)と、何度うなずいたことか。
もし自分が子どもの頃にこの作品を読んだら、江戸時代の歴史に興味を抱いたかも?
それくらい面白くて、ためにもなる内容だった。
この1冊で火がつき、全6冊を読破。
成長し、本物の岡っ引きになった百太郎の活躍も読みたかったなぁとつくづく残念。
子どもだけを楽しませるのは勿体ない!
長引くコロナ禍と不安定な世界情勢に疲れた大人たちよ、ちびっこが活躍する捕り物帖にワクワクしてみませんか?