群馬の名湯『草津温泉』を#マーケティングトレースしてみた
こんにちは、げんきです。
前回のパンパースに引き続き、今回は草津温泉のマーケティングトレースを行います。
前回のパンパースマーケティングトレースはこちら↓
今回、草津温泉を選んだのは、
・バブル崩壊以降、右肩下がりだった草津温泉の観光者数がV字回復を遂げ、2019年に過去最大の328万人に
→ やや古い話ではあるが、V字回復の要因を整理したい
・2020年は、コロナで客数が大幅減(対前年▼3割)
→ ウィズ/アフターコロナの打つべき施策を考えたい
といった背景からです。
当然、出身が群馬のわたし個人として、応援したいな~、落ち着いたら行きたいな~という気持ちがあるのは間違いないですが・・・
それでは、さっそく行ってみたいと思います。
草津温泉ってどんな温泉?観光客数は?
草津温泉とは、群馬県にある日本を代表する名湯の一つといわれていて、江戸時代の温泉番付では当時の最高位である大関(東大関)の常連でした。
毎分3万2300ℓ以上の自然湧出量は日本一!
草津町のビジョン(町民憲章)は、
訪れた人に癒しの時間を与える、帰った後まで余韻を残す、そんな想いを感じます。
温泉の泉質としては、ph2.1とかなり強い酸性で、その薬効から「恋の病以外効かぬ病はない」と言い伝えられています。
群馬県民ならだれでも知っている上毛かるたでも「草津よいとこ薬の温泉(いでゆ)」と詠われています。
さて、そんな強烈な個性を持った草津温泉ですが、バブル崩壊以降観光客が減少し続け2010年にはピーク時(300万人程度)から40万人も少ない266万人程度まで減少します。
そんな中、2010年に就任した黒岩町長が再生に着手し、打ち手が当たったことで2019年には328万人と過去最高の観光客数を記録します。
※スキャンダルでもめてますが、一旦脇に置いておきます。
現在は他の観光地と同様、新型コロナの影響で対前年▼3割減と苦しい状況です。
参考までに草津町の観光客数の推移を以下ご参照ください。
①外部環境分析(PEST分析)
まず、外部環境分析です。
コロナ前、コロナ流行後と分けて考えたいと思います。
コロナ前
観光業としては、政府支援の後押しもありインバウンドによる海外旅行客の盛り上がりやアベノミクスによる好景気により国内観光客数も増加傾向にありました。
国内旅行や温泉というとどうしても年配の方のイメージがあったのですが、国内観光は若年層ほど活発なのだそうです。
https://www.mlit.go.jp/statistics/content/001348580.pdf
後述しますが、V字回復期の草津温泉はボリュームゾーンである若年層へリーチするような施策を次々と出していきます。
コロナ以降
感染防止対策が取られる一方で、政府としてGo To トラベルなどの観光業振興のための施策も取られています。
また、特筆すべきなのは観光庁の提案する「新たな旅のスタイル」です。
具体的には、リゾートや温泉地等で仕事を行うワーケーションや出張先で滞在を延長して余暇を楽しむブレジャーなどが挙げられます。
出典:観光庁ホームページ https://www.mlit.go.jp/kankocho/workation-bleisure/
また、コロナによって起きた変化としては、観光業特有の変化ではありませんが、動画視聴時間の増加や個人のインフルエンサー化などが挙げられます。
このあたりも、プロモーションの切り口になる可能性があると考えます。
②競合の定義
続いて、競合です。
まず直接的な競合としては、関東圏の温泉地でしょう。
関東圏が商圏である草津温泉としては、西の雄 別府などが直接的な競合とはなりえず、鬼怒川、那須、伊香保、箱根、熱海を業界競合としています。
次に、価値競合を定義する前に、草津温泉が提供している価値を定義したいと思います。
草津温泉に限らず、「温泉」が提供している価値としては、
・温まりたい、のんびりしたい、疲れを癒したい
というものだと思います。
加えて、草津特有で病を治したい(湯治客)というものもあると思います。
これらの価値を提供する競合としては、エステやマッサージ、スーパー銭湯などでしょうか。
一方で、V字回復の草津温泉の提供している価値としては、
・ほかにはない街並みや景観を楽しみたい
・ほかでは楽しめないエンターテイメントを楽しみたい
・(夜間の)幻想的な雰囲気を楽しみたい
といったものだと考えます。
このようにとらえると、
・テーマパーク
・シティホテル
なども競合になってくるのかな、と思います。
③ターゲティング/重点顧客
V字回復のターゲットとしては、
・群馬県外/首都圏在住の宿泊客
・20~40歳代の女性
・カップル
が、主な対象になったと考えられます。
※国内旅行を活発にする若者が対象ですね。
・景観を楽しみたい
・のんびりしながらもエンタメ性も重視したい
・伝統を楽しみたい
このような嗜好性を持った層だと考えられます。
これらのターゲットを対象とした施策が黒岩町長ももと次々と実行されます。
具体的には、
・草津のシンボルである湯畑への巨額投資で景観を整備
・湯もみショーの活性化
(会場である熱乃屋を大正ロマン風にリニューアル、地元サッカーチーム選手による『男だらけの湯もみショー』)
・有名な照明デザイナーによる湯畑の夜間ライトアップ
などが中心となります。
(他にも、足湯カフェや落語ショーなどの施策が続きます。)
④ポジショニング
温泉地の中では、
国内観光客 × 宿泊客
といったポジショニングになります。
西の雄である別府温泉と比べてみます。
まず国内/海外の切り分けですが、観光客に占める海外客の割合は、
・別府市 7%程度
・草津町 1%程度
と国内偏重となっていることがわかります。
(一方でコロナの影響にもかかわらず、2020年の観光客数が対前年3割減でとどまったのは、国内偏重で県内観光客も多い草津温泉のしぶとさが出たということかもしれません。)
次に宿泊/日帰りの比率を見ていきます。
・別府市 宿泊客3割
・草津町 宿泊客7割
と宿泊客が非常に多いのがわかります。
なお、低迷期には宿泊客比率が6割強程度まで下がっていいて、群馬県内の日帰り客の比率が高めでした。
施策により群馬県外の宿泊客を呼び込んできた、という過程が見て取れます。
⑤マーケティングミックス
まず、プロダクト
従来の売り物は、
・泉質に特徴のある温泉
でした。
それ一択だったために、バブル崩壊や団体旅行客の減少といった外部環境にあらがえず、観光客が年々減少の一途をたどりました。
ここに、巨額投資での景観の整備や湯もみショーのリニューアル、夜間ライトアップ等を行うことで、プロダクトを
・温泉街の情緒あふれる景観
・他では味わえないエンターテイメント
・幻想的な夜景 ➡ 大切な人と過ごす”とき”
のようなものに変化させてきたことが、V字回復につながってきた要因かと思います。
次にプライス(価格)
宿泊プランを確認したところほかの温泉地に比べてやや安いことがわかりました。
宿泊プランのラインナップベースですが、独自調査したところ、競合に対し、2人1泊のプランで30,000円弱と
2000円~3000円程度安い
といった状況です。
(観光調査も見ましたが、実際の消費額は確認できず)
プレイス
旅行の手配といった観点では、旅行予約サイト経由が8割、旅行会社窓口が2割未満だそうです。
また、アクセスの観点では、主に車でのアクセスとなり東京から3時間程度と、競合となりうるほかの温泉地よりアクセスが悪いことがわかります。
最後に、プロモーション
観光局によるYouTubeチャンネルによる魅力の発信や各種メディアへの露出が主な施策となっています。
YouTube動画は、四季ごとの草津の魅力を表現する内容のものや草津で大切な人と一緒に過ごすことを提案する内容のもので見てて飽きさせません。
観光協会提供の動画で197万回再生(21年5月現在)なのは、なかなかすごいですよね。
一方で、YouTube動画が観光協会発信の年数本と少なく、そのほかのメディア(HPやブログ)での情報発信はやや少なく感じます。
⑥『草津温泉』のコロナ前の成功要因を整理
成功要因としては、
ということではないでしょうか。
有名観光地、珍しい泉質ということに胡坐をかかず、価値を見極め、投資によって磨き上げたというところがポイントだと思います。
加えて、
していきました。
ターゲットに見合うようなイベント(男だらけの湯もみショーや足湯カフェ、湯畑のライトアップなど)を整備していき、新たな草津での過ごし方を提供していった点も見逃せませんね。
強烈な泉質から「恋の病以外効かぬ病はない」といわれた草津温泉ですが、それを逆手に「手をつなぎたくなる街づくり」を行ってきたのですね。
3部構成になっている『大切な人と紡ぐ物語』(上記リンク)は見ると、子どもたちと行きたくなってしまいますよね~
(分析視点ではなく、個人的な感想・・・笑)
⑦『草津温泉』の次なる打ち手は?
コロナ影響で対前年客数3割減と苦境にあえぐ草津温泉ですが、CMO仮説として以下の2点を提案したいと思います。
施策の観点としては、V字回復期に獲得した新たな顧客層は維持しつつ、以下の施策でさらに別の顧客層を開拓することを目的とした内容となります。
1つめは、ワーケーションの受け皿としての機能強化です。
ワーケーションを行っている個人ブロガーやワーケーションを推奨している企業と連携し、長期滞在を提案します。
草津温泉は、湯治客のために長期滞在するためのお宿がたくさんあるといった特徴があります。ですので、他の温泉地ではなく草津温泉こそ、ワーケーションに向いているのです。
加えて、地域の住民しか使えない共同浴場をワーケーション対象者へ開放したり、地元食材を自分で料理することのできる部屋を用意したりするなど、長期滞在に向けた旅館のプランや地域での滞在の仕方の提案も行います。
ブロガーを介し、草津の様々な魅力を発信してもらいプロモーションを強化するといった観点でも有効かと思います。
(例えば、草津温泉の酸性はコロナウイルスの不活化力がアルコール並みであるとか、草津温泉の共同浴場ごとの特色・魅力などを発信する、などが考えられます。)
2つめは、コロナ後のインバウンド回復に向けて訪日外国人向けの長期滞在型温泉の提案です。
近隣自治体と連携したアグリツーリズムや四阿山・草津白根山・浅間山といった山岳資源の活用など、地域観光資源を楽しみながら長期の滞在をしてもらえる仕組みづくりを行っていきます。
近隣の観光資源としては、夏であれば雄大な星空や清涼な夏山が、冬であれば雪質のよいスキー場が楽しめます。
(参考)群馬西部のスキー場の雪質は、みなかみなどの群馬北東部や新潟県湯沢などよりも良好
コロナ前で外国人観光客比率1%程度とほぼ国内客向けとなっているのが、草津温泉です。
インバウンドの機会を享受できるよう、メインの観光スポットでの多言語化の強化や外国人観光客向けのモデル旅館を募り街全体として支援する仕組みづくりが重要と考えます。
加えて、外国人観光客を対象とするには旅館のプランが安価すぎるのが難点です。
モデル旅館を中心に高価格帯のプランを充実させることが求められます。
また、外国人とひとくくりにするのではなく、雪国・山岳地帯といったことを評価してくれる台湾からの訪問者や長期滞在の傾向が強いヨーロッパからの観光客などある程度ターゲットを絞った形で進めるのがよいかと思います。
まとめ↓
いかがだったでしょうか。
分析が不十分であったり、的を外した提案になっているかもしれません。
何かあれば、コメントを頂けると嬉しいです!