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異世界転移流離譚パラダイムシフター

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数多の次元世界<パラダイム>に転移<シフト>して、青年は故郷を目指す──
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2020年1月の記事一覧

【第12章】龍たちは、蒼穹に舞う (9/12)【勝者】

【第12章】龍たちは、蒼穹に舞う (9/12)【勝者】

【目次】

【鉄杭】←

「グゲラグゲラ、叡智は無情にて! ずいぶんと粘られたが……手前たちの勝利ダナ、ヴラガーン!!」

 白髪のギルド魔術師が、岩肌にゆっくりと墜ちていく側近龍を見おろしながら、調子外れに手をたたきつつ、哄笑する。

 初老の魔法使いを背に乗せた暴虐龍は、不機嫌そうに首をよじる。ヴラガーンは、ぼそり、とつぶやく。

『……そうとは、言いきれんようだぞ』

「なに……!?」

 

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【第12章】龍たちは、蒼穹に舞う (8/12)【鉄杭】

【第12章】龍たちは、蒼穹に舞う (8/12)【鉄杭】

【目次】

【妨害】←

『いまの吐息<ブレス>……なるほど、アリアーナか』

「なんと、あの側近龍の!? これは、丁重にお相手せねばならないようダナ」

 煙幕の向こう側から、龍と男の声が聞こえてくる。

 目隠しが晴れると、焼け焦げた岩のような肌を持つ、獰猛な目つきの巨龍と、白髪を頭部の後ろで一本にまとめ、魔術師ギルドのローブを羽織った初老の男が現れる。

『暴虐龍、ヴラガーン……それに、ギル

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【第12章】龍たちは、蒼穹に舞う (7/12)【妨害】

【第12章】龍たちは、蒼穹に舞う (7/12)【妨害】

【目次】

【暴虐】←

「こちら、ニードル1……了解した。ターゲットの狙撃態勢に入り、待機する」

 通信機をかたわらに置いた男は、迷彩シートをかぶりながら、うつ伏せの姿勢になる。あらかじめセットしておいたスナイパーライフルを、手元に引き寄せる。

 黒い防弾ジャケットに、軍用のゴーグルを装備した男は、この次元世界<パラダイム>の人間ではない。セフィロト社の実働部隊……アンダーエージェントだ。

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【第12章】龍たちは、蒼穹に舞う (6/12)【暴虐】

【第12章】龍たちは、蒼穹に舞う (6/12)【暴虐】

【目次】

【先駆】←

『シュー、シュー、シュー……』

 焼け焦げた岩のような肌を持つ巨龍の鼻から、間欠泉のごとき吐息が、不機嫌そうにこぼれる。巨体のドラゴンは、わずらわしそうに上空を見あげる。

 森の上空で、それぞれ、赤、青、緑の鱗を持った三頭のドラゴンが、巨龍の行く手を遮るように前方に回りこみ、敵意に満ちた視線を向けている。

 巨体のドラゴンの背に立つ、魔術師ギルドのローブを目深にかぶ

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【第12章】龍たちは、蒼穹に舞う (5/12)【先駆】

【第12章】龍たちは、蒼穹に舞う (5/12)【先駆】

【目次】

【幻術】←

 龍の乙女の庭園における情事から、三日後。『龍都』の東側に広がる湾奥の砂浜。競技会のスタート地点となるこの場所に、多くの人と龍が集まってくる。

 事前登録をすませた人龍の組が、続々と砂のうえに着地していく。

 屈強な体躯のドラゴンと、そのうえにまたがる一癖も二癖もありそうな乗り手が、『龍都』より動員された衛兵たちによってスタートラインに誘導される。

 互いを威嚇しあ

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【第12章】龍たちは、蒼穹に舞う (4/12)【幻術】

【第12章】龍たちは、蒼穹に舞う (4/12)【幻術】

【目次】

【庭園】←

「俺が、婿取りの競技会とやらにエントリーする。セフィロトの参加者を抑えて優勝すれば、龍皇女さまとやらと、直々に交渉できる。そういうことか?」

「はい。相違ありません」

「だが、競技会に参加するためには、龍と人が一組になる必要があると聞いたぞ。パートナーのドラゴンは、どうすればいい?」

「このアリアーナが、務めさせていただきます」

 側近龍のふたつ返事に、アサイラは

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【第12章】龍たちは、蒼穹に舞う (3/12)【庭園】

【第12章】龍たちは、蒼穹に舞う (3/12)【庭園】

【目次】

【側近】←

「結界魔法をめぐらせてあります。もし侵入者があれば、すぐに気がつくでしょう」

 龍皇女の側近を名乗るアリアーナは、振り向きながら、金色の髪を揺らす。『龍都』の北方に鎮座する台地のふもと、その一画が側近龍の『庭園』だった。

 波ひとつ立てず透き通った水をたたえる池を中心に、木立が広がり、柔らかな日差しが頭上から注ぐ。足下には、上等なじゅうたんを思わせる柔らかい下草が茂る

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【第12章】龍たちは、蒼穹に舞う (2/12)【側近】

【第12章】龍たちは、蒼穹に舞う (2/12)【側近】

【目次】

【龍都】←

「街の人たちも、言っていたが……『競技会』とは、なんのことか?」

「くすくす。この時期に、競技会のこともご存じなく『龍都』に来る旅人がいらっしゃるなんて!」

 アサイラの質問に対して、ヴェールの女は大げさに驚き、口角に上品な微笑みを浮かべる。目前の女に、アサイラは警戒心を抱く。

 ヴェールの女から、敵意は感じない。しかし、薄布で隠された目元から表情をうかがうことはで

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【第12章】龍たちは、蒼穹に舞う (1/12)【龍都】

【第12章】龍たちは、蒼穹に舞う (1/12)【龍都】

【目次】

【第11章】←

「ドラゴンが、飛んでいる……」

 馬にまたがったアサイラは、頭上を仰ぎ見る。抜けるような青空に筋を引くような雲の合間を縫って、巨大な龍の飛翔する影が見える。

「なんだ、若いの。龍を見るのは初めて、みたいな顔をして」

 黒髪の青年の横を徒歩で進む旅人が、けらけらと笑いながら声をかける。

 男の反応を見るだに、この次元世界<パラダイム>の住人にとって、ドラゴンの存

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【第2章】鴉、兎、そして豚 (2/2)【無常】

【第2章】鴉、兎、そして豚 (2/2)【無常】

【目次】

【牝兎】←

「……フンッ」

 ひしゃげ、ひび割れた天板に、暗殺者の血が付着したテーブルに背を向けて、子豚のような体格の男は別の席に移動する。

 オーナーが別のソファに腰をおろすと、なにも言わずとも、周囲のバニーガールはシャンパンをグラスに注ぎ、葉巻に火をつけて男に手渡す。

 そうするように、再調整<インプリント>してある。

 小太りの男は、葉巻を吸い、天井に向けて煙を吐き出す

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【第2章】鴉、兎、そして豚 (1/2)【牝兎】

【第2章】鴉、兎、そして豚 (1/2)【牝兎】

【目次】

【第1章】←

──カラン、カラン。

『Rabbit Rose』と描かれた看板の店の扉が開き、魔物除けの魔法がかけられたドアチャイムが鳴る。

 店内には、落ち着いた調度品が整然と並び、穏やかなリズムのジャズがBGMとして奏でられ、高級なレストランか喫茶店のようなたたずまいだ。

 そんな店のドアをくぐって入ってきたのは、よれよれの黒いコートにくたびれた帽子を深くかぶった、剣呑な、お

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