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ちょっとおいしいトーストずかん

『恋なんてカンタン』

まずは好きな匂いの液を選ぶ。
爽やかな柑橘系、甘いハニー系、南国のようなココナッツもいいかもしれない。

1つ選んだらタップしてカートに入れる。
ピンとスマートフォンが鳴り、液はすぐに届いた。ひと昔前と違い、届いたと言っても今時は三次元化した物体が取り引きされることはほとんどなく、スマートフォンに液の画像が送られてくるだけだ。

次に、好きなひとのSNSからプロフィールをスクリーンショットして液の中へドロップする。
これで準備はオッケーだ。
あとは毎日アプリを開いて様子を見て必要なら液を時々買い足す。
ピンクペッパー、シナモン、ジンジャー、カルダモン…
課金して、後からスパイスなんかを好みで足すこともできる。
無料で楽しむこともできるけれど、グレードを上げていこうと思うとやっぱり課金は必要になる。
そうして自分好みに恋を育てていくのだ。

スマートフォンやアプリが発達していなかった昔は外へ出かけていき、三次元で触れ合ったりしていたそうだ。
今は便利になった。寝起きのままの姿でベッドでゴロゴロしながらでも、少し慣れれば完璧な恋だって可能なのだ。
失敗したところでそれほど傷付かなくても済む。

いい時代になったなぁ。


『過保護』

周りから見れば完全に過保護だった。彼女は。

17歳になっても門限は18時。
1分でも過ぎると彼女のお母さんは玄関から出てきて、立ち話をしている僕を追い払うようにして彼女を家の中へ連れて行った。
僕は彼女の両親に好かれないまでも、せめて嫌われないようにと18時までには彼女を見届けて帰るようにしていた。
それでも、育ちが悪いだとか父親がどこの誰だかわからないだとか僕についての好ましくない情報を彼女に言っていたようだ。
確かにきびしくされず放任主義の家庭で暮らす僕は、彼女の母親からすれば育ちは良くないのだろう。
父親がどこの誰だかわからないということも悲しいけれど否定はできない。
時々会いにくる人がきっと父親なんだろうと思うけれど、本当にそうなのかは確認をしたことはない。ただ僕は信じている。僕の母と父親は今は一緒に暮らしてはいないけれど、その時は心から愛し合っていたのだと。

時々どうしようもなく会いたくなって僕は夜にそっとまた彼女の家の前まででかけていく。
「エリィ、ごはんよ」
ピアノの音が止み、食卓を囲む家族のシルエットがカーテンに映る。
彼女はとても恵まれた家庭で愛情をたっぷりと受けて育った。
正直なところ、もし僕が彼女をこの家から連れ出したとしても、愛すること以外には何もあげられはしないだろう。そんなことを思うと、ついため息がもれる。

「ニャー」

つぶらな瞳にふわふわとした茶色い毛のエリィ。
野良猫の僕が愛した彼女はゴールデン・レトリーバー。

【チェリービスケット】

=材料=
リングビスケット
チェリーコンポート
ホイップクリーム
さくらんぼ

=作り方=
リングビスケットを横半分にスライスしてチェリーコンポートとホイップクリームをはさみ、さくらんぼをのせてホイップクリームでデコレーションします。

コンポートの甘酸っぱさとフレッシュなさくらんぼの瑞々しさの二通りのさくらんぼを楽しめます。
ふわふわのクリームのあとからやってくるビスケットのしっかりとした噛みごたえに寝起きの脳がじわじわと目覚めてきます。


『記憶』

母親のおなかの中にいた時の記憶があると、まだ少ししか知らない言葉を、ありったけ並べて幼い子が言った。
子供にありがちな妄想なのだろうと思ったけれど、そういえば…

俺は眠っていた。
ドクドクと全身に響いてくるリズム、布の擦れる音を感じながら。
ぷかぷかと浮遊しながら手を伸ばしてみると、まあるくやわらかな壁に触れた。
温かな液体に包まれて、それ以外の世界があることなど知りはしなかった。
何がしあわせで、何がそうでないのか、そんなものがあることさえもわからず、ただひたすら眠っていた。
たぷんたぷんとゆれる小さな世界、それが全てだった。

ざわざわと世界の外が騒がしくなって、誰かに押されるように、いや、引っ張られたのかもしれない。何かわからない力である日とつぜん眩しい光の中へ放り出された。
ザーっという音が聞こえた瞬間に全身が何かにぶつかって記憶が途切れた。

光を感じてまぶたを開くと銀色の天井がめくれ上がっていて、誰かがこっちを見ていた。
そのまぶしい光の中が本当の世界なのか。そう思ったのも束の間、次の瞬間にまたどこかへ放り込まれた。
湿った生温かい闇の中で溶けてゆく。俺の体が、ドロドロととけてゆく。
これは記憶なのか、それとも夢なのか、もうそれすらも、きっと考えることはないのだろう。


「お母さん、チーズ、おいしいね」
「そうね。牛さんに感謝しないとね」

【いちじくクリームチーズ】

=材料=
食パン
(タカキベーカリー長時間発酵ブレッド)
いちじく
クリームチーズ
はちみつ
ブラックペッパー

=作り方=
食パンをトーストし、いちじく、クリームチーズをのせてはちみつとブラックペッパーをかけます。


ザクッと切ってのせるだけ。
おいしいものはそれだけでじゅうぶん。
長時間発酵の食パンのもっちりとした食感もおいしいです。


『魔法使い』

「おばあちゃん、魔法使いになったのよ」

祖母とコミュニケーションがうまくとれなくてイライラしていた幼い私に母がそう言った。
「魔法使い?じゃあ、ホウキに乗って空中を飛べるの?」
「魔法使いっていったっていろんな人がいるから、みんながみんなホウキで飛ぶとはかぎらないけどね」
「え?じゃあ、おばあちゃんは何ができるの?」
「おばあちゃんの得意なのはタイムトラベルとかかな」
「タイムトラベル?」
「そう。ずっと昔に行けたり、おじいちゃんと話ができたり」
「あ!この間、戦争が終わったねって急に言ってたの…」
「おばあちゃん、散歩がてら昔に行ってたんじゃないかな」
「私には見えなかったけれど、おじいちゃんと話もしてたかも」
「でしょ」
「私もおじいちゃんに会いに行きたい」
「それはまだ無理かな。あの魔法はおばあちゃんみたいに長く生きた人だけが身につけられる力だから」
「ふ〜ん…」
「今はおばあちゃんのタイムトラベルのみやげ話をたくさん聞いておくといいんじゃない?」


「ねぇ、お母さん、おばあちゃんがなんかちょっと変なんだけど…」
「あぁ、おばあちゃんもそろそろ魔法使いになってきたんだわ」
「え?魔法使い?」
「そう。私のおばあちゃんもそうだった」

【ブルーベリー小倉トースト】

=材料=
山型食パン
あんこ
クリームチーズ
ブルーベリー

=作り方=
食パンをトーストし、あんことクリームチーズをぬってブルーベリーをのせます。


フルーツ大福の登場以来、この世に一つ増えたあんことフルーツの組み合わせというおいしいもの。
フレッシュなブルーベリーの甘酸っぱさとあんこがよく合います。


『サイノ目』

サイの目の夢は サイになる夢
自分がナニモノかもわからず
コロコロ転がる夢の中

サイの目の夢は サイになる夢
カドで立ったらどっちへ行こうか

コロコロ転がる夢の中

サイの目は 何を見る目
サイの目は 明日を見る目
サイの目は 運を天に任せるような
サイの目は 何も気づいてないような

自分がナニモノかもわからず、
コロコロ コロコロ夢の中
コロコロ 夢の中

サイの目の夢は サイになる夢
コロコロ コロコロ夢の中

【黒糖ういろうシナモンクランベリートースト】

=材料=
全粒粉100%食パン
クリームチーズ
黒糖ういろう
ドライクランベリー
シナモン

=作り方=
全粒粉食パンをトーストし、クリームチーズをぬってサイの目に切った黒糖ういろうとドライクランベリーをのせてシナモンをふります。


黒糖ういろうの甘さをクリームチーズとクランベリーの酸味が爽やかに包み込みます。
黒糖ういろうとシナモンの相性は最高です。


『駅』

連日の残業で疲れ果ててうっかり乗り過ごした。
肩を叩かれて目を覚まし、反射的にドアへ駆け寄り、転びそうになりながら電車を降りた。
いったい幾つの駅を通り越したのか、そこは全く知らない田舎町だった。
時刻表を確認したけれど、今夜はもう電車はないらしい。
寂れたような商店街にはすでに灯りはなく、他にこの駅で降りた人も見当たらない。
タクシーが一台もいないタクシー乗り場で「タクシー乗り場」という看板だけが悪びれる様子もなく、やけに堂々と立っていた。
現在地を調べようとポケットから出したスマートフォンはすっかり電池が切れて何の役にも立たないただの長方形の物体でしかなかった。
「どこなんだ、ここは…」
とにかく誰か人はいないだろうかと思いながら真っ暗な商店街を歩いていくと、ぼわんと曇ったような灯りに照らされた一つのドアがあった。
「クラブ クイーン」
田舎に一軒はありそうなスナックのようだった。
きっと常連客しか開けることのないだろうそのドアをおそるおそる開けると、チリリンとドアの上でベルが鳴り、
「いらっしゃい」
と、女性の声がした。
「どうぞ」
初めて見る顔に特別に反応する訳でもなく、ごく普通に手のひらをスッと出してカウンターの席へと促した。
「あの、ここは何時までやっていますか?」
「何時でも」
「何時でも?」
「そう、居たい人がいれば何時まででも」
「あぁ」
「何にします?」
「ビールをください」
「はい、どうぞ」
流れるようなスマートな動作ですぐに冷えたグラスに絶妙な泡の量で注がれたビールが出てきた。
とりあえず落ち着くために三口飲んでひと息ついた。
「こんな場所だけれど、毎晩ひとりは来るのよ。お客さんみたいなひと。やっちゃったでしょ」
「え?」
「乗り過ごし」
「あぁ…実はそうなんです」
「だからね、何時でも。だってこんななんにもないところで追い出すわけにいかないでしょ?」
「助かります」
頭の上で団子にした髪が1束たれ下がり、紫色のノースリーブのロングワンピースに赤い口紅。
一歩間違うといかにも田舎の…というセンスだったけれど、話し方や仕草、クラブクイーンのママはそれがとてもしなやかだった。
「ママさんはずっとこの町のひとですか?」
「そうといえばそうかな…」
あまり深く聞いてはいけないような気がして静かにまたビールを口にした。
「ママはねぇ、この町の女王様だから」
カウンターの一番奥の席にいた常連客らしい男性がそう言った。
「ほら、表に書いてあったでしょ」
「あ、クラブクイーン」
「そう。こうやっていつでも話に耳を傾けてくれる、俺たちの女王様だ」
「あはは…そうね。ちょっと大きな名前つけすぎちゃったけれど、このお店の中では間違いなく私は女王ね。だって他に誰もいないものね。女王様とお呼び!なんてね(笑)」
「ははぁ、女王様、それでひとつお願いがあります。俺にウイスキーロックのおかわりをいただけますでしょうか」
「よろしい。カトやん、さぁ、もう一杯召し上がれ」
「ありがたきしあわせ〜」
「あははは…」
常連客のカトやんさんとママさんの素人のコントみたいなやりとりは妙にいごこちが良かった。
「じ、じょ、女王様、僕にもビールのおかわりをください」
「あ、今噛んだ(笑)」
「人生で初めて女王様って呼びました」
「あはは…これからはもっとお気軽に」

うっかり乗り過ごしてたどり着いた知らない町で、たまたまみつけたクラブクイーンは、次にはわざわざやってきたくなるようなお店だった。
そんなこんなでその夜の乗り過ごし客の僕と常連客のカトやんさんはママさんの言うように居たいだけいさせてもらった。そろそろ始発電車の時間になり、支払いを済ませてママさんに見送られてカトやんさんと二人で駅へと向かった。
切符を買おうと財布から出して販売機へ入れようとしたお札とふと目が合った。

「あ、女王様…」
「だから、言ったでしょ」

にやりと笑ったカトやんさんはポンと僕の肩を叩いて線路沿いの道を歩いていった。


【クランベリークリームチーズトースト】

=材料=
食パン
クリームチーズ
レモン果汁
はちみつ
カルダモン
ドライクランベリー

=作り方=
1.クリームチーズ、はちみつ、レモン果汁、カルダモンをまぜあわせます
2.食パンをトーストし、1をのせてドライクランベリーをちらしてカルダモンをひとふりします


クリームチーズにレモン果汁とはちみつを使うことでチーズケーキのような味になります。
生姜に似た風味のカルダモンがスーッと爽やかな感触を舌にのこしていきます。
そしてクランベリーの赤色に気分が上がるトーストです。


『三人』

むかしむかしカリブ海には七人の神が住んでいました。その中の一人、スパは常に沈着冷静で、どんなに困難な時であろうと悩める人々を見守り、静かに導いていました。
ただ、そんなスパにも困ったことに一つ悩みがありました。シーナ、メグ、クロブとスパには三人の子供がいました。三人は今はまだ修行中ですが、いずれはスパの後を継いでカリブ海を守っていかなければなりません。それなのに三人はとても仲が悪いのです。顔を合わせれば喧嘩をしていました。

「なぜお前たちは仲良くできないんだ。そんなことでこのカリブ海を守っていけるのか?」
「大丈夫ですよお父様。メグやクロブには無理でしょうから私がちゃんとお父様の後を継ぎますから」
「なに言ってるのシーナ、あなたこそ無理でしょ。いつも忘れごとばかりで。この間だって雨を止ませるはずの日にすっかり忘れて土砂降りのままだったじゃない。運動会をするはずだった子供たちはみんながっかりしていたわ」
「あ、あれはたまたまついうっかり…。でも予備日はちゃんと晴れにしたわ」
「そういうメグだってシーナと同じようなもんだと思うけど?そろそろひと雨降らせなきゃいけなかった時に3日間蛇口を閉めたままだったでしょ。私が気付いたから良かったものの、危うく人々が育ててた作物が全滅するとこだったじゃない」
「そ、それは…」
「お父様、シーナもメグも頼りになりませんから私にお任せください」
「そうじゃないんだ。誰か一人が継ぐのではなく、三人で協力し合ってこのカリブ海を守っていかなければいけないんだ」
「だって、シーナもメグも本当に頼りなくて…」
「クロブ、アンタのそういうところに腹が立つのよ。自分だけはみんなと違うみたいに思って。確かにあなたはしっかり者だけれど、そんな考え方で人々の気持ちがわかるの?」
「気持ちとか必要?状況を的確に判断して正しい方へ導くことが仕事でしょ?」
「正しいことだけが正解じゃないわ」
「え?」
「シーナ、メグ、クロブ、お前たちは一人ずつはみんな良い子なのになぜ三人が集まるとそんなふうになってしまうんだ。言いたいことはあるだろうけれど、まずはちゃんとお互いの話を聞きなさい。そして協力すればきっとこのカリブ海をしっかり守っていける。三人で一緒に、だ」
「でも、お父様…」
「協力し合う気がないならお前たちの誰にも後は継がせない。隣りの四丁目の神にこの三丁目も任せることにする」
「そ、そんな…」
「嫌なら今ここで誓いなさい。どうだ、シーナ」
「は、はい…私はいいけど二人は…」
「メグはどうだ?」
「私も…いいけど、クロブは…」
「二人がいいって言うなら私はいいんですけど…」
「三人で協力して一緒にやっていくと誓うんだな?」
「はい、お父様」

というカリブ海の神話から生まれた、3つの味を併せ持つというスパイスがオールスパイスと言われています。

【小倉トーストサンド】

=材料=
イングリッシュマフィン
クリームチーズ
あんこ
アプリコットコンポート
オールスパイス

=作り方=
イングリッシュマフィンを半分にちぎってトーストし、クリームチーズ、あんこ、アプリコットコンポートをのせてオールスパイスをふります。


あんこの甘さをクリームチーズやアプリコットの酸味が爽やかにつつみます。
シナモンとナツメグとクローブの3つの味を併せ持つといわれるオールスパイスは小倉トーストにもおすすめです。



『砂の家』

あの日、私は全てを捨てた。
夫も子供も仕事も全部、捨てた。
そして知らない街へと逃げ込んだ。

てっぺんまで仕上がった、砂場で作ったお城を急に壊したくなる。
私には子供の頃からそういうところがあった。
なんでもないようなことがしあわせだとか誰かが言っていたけれど、そんな輪郭が見え始めると、どうしようもなくぐしゃぐしゃに壊して逃げ出したくなってしまうのだ。
夫が悪いわけでも、もちろん子供にはなんの罪もない。ただ私が壊して逃げ出してしまうのだ。
ほら、またうずうずと気持ちがふくらみはじめる。
手に持ったスコップを砂のお城に突き立ててゆっくりと…

「何してるの?早く切ってよ。僕の誕生日ケーキ」
「あぁ、ごめん」
「また何か妄想してたの?お母さん」
「あはは…そう」

こうして私の頭の中には書きはじめばかりの小説が、また溜まっていくのだった。

【塩トマトトースト】


=材料=
全粒粉食パン
オリーブオイル
フルーツトマト

ブラックペッパー

=作り方=
全粒粉食パンにオリーブオイルをぬってスライスしたフルーツトマトをのせ、さらにオリーブオイルをかけてトーストし、塩とブラックペッパーをふります。

シンプルな味付けですが、全粒粉100%のパンにしみたオリーブオイルと熱々のトマトがよく合います。



『ゆらゆらゆれる』

むかしむかし、どっかの国のちょっとしたお金持ちの間で庭にブルーベリーを植えるのがブームになりました。
木々がしなるほどにどっさりと実がなった様は、いかにもお金持ちが好きそうな豊かな風景でした。
おいしいジャムになったり、時には薬としても使われるブルーベリーの木が庭にある家は滅ぶことなく永遠に続いていくと考えられていました。
お金持ちたちは競い合ってブルーベリーの木を庭にどんどん植えていきました。
ただ、自分の家の敷地内にたくさんブルーベリーの木があっても、それを街の人々に見せびらかすことはできません。
ある家のお金持ちは考えました。
「そうだ!ブルーベリーで服を染めて、それで街を歩けば自分の家にはたくさんのブルーベリーがあることをみせつけることかできる」
と思い付き、さっそく使用人に実を収穫させ、染め職人を呼んで生地を染めさせ、仕立て屋を呼び、服を作らせました。
ほんのり甘い香りを纏ったブルーベリー色の服はそれはそれは美しく仕上がりました。
そしてそれは瞬く間にお金持ちの間でまたブームになりました。
自分こそは誰よりもお金持ちだと見られたい人たちはブルーベリーを大量に使い、どんどん濃い色の服を着るようになりました。
中でも特にお金持ちに見られたたがりのマダムは
「もっと、もっと!誰よりも濃いブルーベリーの生地を作ってちょうだい。もっと、もっと」
と染め職人に要求しました。
「これ以上はもう、無理ですよ奥様」
「いいえ、まだいけるはず。これでは一番のお金持ちだって伝わらないじゃない。かしなさい。私がやるわ。ほら、ブルーベリーをもっともっと…」
そう言いながらブルーベリーにまみれていまマダムはやがて生地だけじゃなく、自分までブルーベリー色に染まっていきました。いや、もうブルーベリーというよりほとんど黒に。

「おや?奥様はいったいどこにいかれたのかな?」
「ここよ」
「はて、声は聞こえたような気はしたけれど、姿は見当たらないぞ」
「痛い!ちょっとあなた、私を踏むとはどういうつもりなの?」
「奥様?どこにいらっしゃるんですか?」
「ここにいるじゃない」
「おかしいなぁ…空耳か…」
マダムを探してウロウロする染め職人の足元でゆらゆら動く黒い影。
やがてその声も届かなくなりました。
それ以来マダムの姿を見た者はありませんでした。

おや?ひょっとして、あなたの足元でゆらゆらしている黒いのは…

【クリームブルーベリー】

=材料=
ミルクブレッド
(ほんのり甘い食パン)
ホイップクリーム
ブルーベリー

=作り方=
小さな食パン、ミルクブレッドをスライスして中をくり抜き、ホイップクリームをしぼり、ブルーベリーをのせてまわりをホイップクリームでかざります。

ほんのり甘いミルクブレッドにホイップクリームのやさしい甘さとブルーベリーの甘酸っぱさがおいしいです。


『夏の君』

夏の景色に変わるたび
思い出してしまうひとがいる
誰かに言わせればありふれたようでも
彼女との出会いは
偶然というよりも奇跡だった

茹だるような名古屋の夏に
涼し気な顔をして現れた
まるで暑さを知らないように
「彼女はいつでもそうだよ」と言われても
その微笑みを信じていたかった

“いつでもそう”でも、今ここに
隣にいるのは間違いなく僕だけの彼女だと
途切れ途切れの時間の端と端を
超高速速乾瞬間接着剤で引き寄せて
笑ってみせる
そんな特技も身に付いた

潤んでゆれる瞳も、その匂いも
しっとりと手のひらに吸い付くような
やわらかい肌も今はぜんぶ、ただ僕のため

「彼女は誰にだってそうだよ」と言われても
聞こえやしないから、僕にはもう

「もっと自分をたいせつに」って
誰かが言うけれど、
自分よりたいせつなものが現れてしまったら
どうすりゃいいのさ

夏の景色に変わるたび
思い出してしまうひとがいる
潤んでゆれる瞳も、その匂いも
しっとりと手のひらに吸い付くような
やわらかい肌も今はぜんぶ、ただ僕のため

「ねぇあやちゃん、めっちゃいい詩を思い付いたよ!今度こそ俺、売れると思わない?」
「ゆうちんさぁ、出会ったハタチの頃からずっとそれ言ってるけどさ、無理じゃないかなぁ。30年経っても売れてないから。とりあえずさ、眺めてないで早く食べなよ。そのわらびもち」

【わらびもちクリームチーズトースト】

=材料=
全粒粉100%食パン
クリームチーズ
わらびもち
くるみ
シナモン

=作り方=
食パンをトーストし、クリームチーズをぬってわらび餅とくるみをのせ、シナモンをふります。


ほろ苦い深煎りの京きな粉を使ったわらび餅とクリームチーズの酸味が絶妙です。
サクサクのトーストとわらび餅のぷるぷるの食感の違いも楽しいトーストです。
これはマスカルポーネを使ってもおいしそうです。

夏の朝、アイスコーヒーとともに。



『蛸のぶつ切り』

二十歳で最初の子を産み、母親となった母はそれを基準とするには高すぎた。

働いているからだとか若いからダメな母親だとか言われまいと、家事も育児も手を抜くことをしなかった。
床にはいつでもゴミひとつ落ちていることはなく、髪が一本でも落ちているのに気付けばすぐに拾った。
ジャガイモをつぶしてコロッケを作り、挽肉をこねてハンバーグを作り、小麦粉をといてドーナツを揚げ、パウンドケーキを焼いた。
ハンカチやシャツにはいつもピシッとアイロンがかけられ、私の寝ぐせはきれいに整えられて保育園へと送り届けられた。
当たり前のようにそうしている姿を幼い頃から見ていて、これは私には無理だと、いつの頃からか感じていた。

就職してまもなく、家賃がもったいないからと彼と暮らし始めた。
「そろそろさ、結婚しない?」
3年後、25才の誕生日にそう言われた時、母の母親としての姿が浮かんだ。
「え、もうちょっとさ先でもよくない?」
「もうちょっとって?来年とか?」
「う〜ん、いつっていうか、まだもうちょっと…」
そんな曖昧な返事で3年ほど引っ張った。
「何が嫌なの?どうせ一緒に住んでるんだから同じじゃない?」
彼の家族と自分の家族vs私の戦いのようになり、根負けする形で結婚をした。
そうすると次に始まったのは「子供はまだ?」攻撃だった。
3年、5年と「まだいいかな」と伸ばし続けるうちにさすがにどちらの家族からも言われなくなった頃、
「2人に似た子供がいたらさ、なんか楽しそうじゃない?」
そう彼がつぶやいた。
「優也、別れよう。私たち。優也はちゃんと優也の子供を産んでくれる人と結婚した方がいいよ」
そして私たちは結婚して10年後に離婚をした。

「おう、梨恵」
スーパーで私の名前を呼ぶ声がして振り返ったら、蛸のぶつ切りのパックとスーパードライの缶を持った優也が立っていた。
刺身のコーナーで「何が食べたい?」と聞くと決まって「蛸」と返ってきた優也は相変わらずだった。
「やっぱり蛸なんだね」
「おう。この歯ごたえがたまらないんだよな」
「変わらないね」
「変わらないよ」
「ふ〜ん。じゃあね」
「あのさ俺、梨恵がいらないっていうんなら別に子供はいなくても良かったんだよな。梨恵が…」
「あー、じゃあねー」

15年以上も同じ時をすごした優也が次に何を言うかは分かりすぎていた。

【チョコミント小倉トースト】

=材料=
食パン
マーガリン
あんこ
チョコミントアイス
ホイップクリーム

=作り方=
食パンにマーガリンをぬってトーストし、あんことチョコミントアイスをのせてホイップクリームをそえます。


夏の小倉トーストはこれで決まりです。
ひんやり爽やかなチョコミントアイスとあんこがとってもよく合います。
ひとときのすずしさに癒されます。


おはよう。
さぁ、召し上がれ。

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