「ピカソとその時代 ベルリン国立ベルクグリューン美術館展」の感想 (写真あり)
今年一番最初の美術館は国立西洋美術館。実は初めて。
お目当てはピカソ展。会期が今月までなのであわてて予約していってきた。
数日前の天気予報では曇り。雨も降るかもしれないと言われていたのに、歩くと汗ばむぐらい、晴れた天気に恵まれた。
当然、老若男女問わず来場者でにぎわっている。
本展覧会はユダヤ系ドイツ人の画商であるベルクグリューンがコレクションしていた作品の展示がされている。ベルリンにあるベルクグリューン美術館の設立後、館外でまとめてコレクションを紹介する展覧会は今回が初めてらしい。
ピカソの他、パウル・クレー、アンリ・マティス、アルベルト・ジャコメッティ、ポール・セザンヌといった画家の作品があり、展示の97点のうち76点は日本初公開となっている。わたしを含めた美術展初心者にとってやさしい企画である。
感想をひとことで言うと
「美味しいところを詰め合わせた、ボリューム感たっぷりの福袋」という表現がうかんだ。
要は大満足。
感想をもう少しくわしく
ピカソといえば、人物や動物が四角形や三角形のような直線的な造形で描かれたキュービズムの絵だと思う。でも、最初からその画風だったわけではなく、その変遷を伝える展示になっている。
なぜそういう画風になったのか、その色づかいは何を表しているか、だれに影響を受けたのか、その時代背景は何であったか。美術史や世界史を知っている人からすれば常識かもしれない話を、会場の奥に進むにつれて理解をうながしてくれる展覧会といえる。
ピカソとマティスとジャコメッティとセザンヌにどう関係しているか?についても、答えてくれている。それこそ、ベルクグリューンの審美眼というか画商としての腕の良さだったのかもしれない。個々の絵単体の良し悪しだけでなく、どの建物のどこの位置に配置してどういう額縁に入れるのがよいかまでを考えながら収集したという。実際、額縁は目を見張るものがあり、描かれた絵を飾る額縁を含めて絵をとらえると魅力が増すように思う。
印象に残った作品とエピソード
音声ガイドを借りて館内を巡ったので、印象に残っている話をいくつか。
ピカソの青の時代
「青の時代」の始まりと言われるようになった一枚の絵があるらしい。友人の死にひどく落ち込んだピカソの陰鬱な深い悲しみを深い濃い青で表しているらしかった。
そのエピソードを知るまでは濃い青色が美しいともおもっていたので、背景情報によって良くも悪くも見方が変わってしまった。とはいえ、あたらしい解釈を得られたのは素直にうれしい。
「闘牛士と裸婦」という絵があってピカソは一時期、闘牛士のモチーフに関心があって使われていたらしい。解説では闘牛士の女性に対する情熱的な様子が描かれているような話だったけど、闘牛士が背負っている青い部分の意味を考えると女性には見せていない裏向きの感情があるようにも思える。女性の方は赤黒い色で描かれており、表向きとか違う感情を持っているかのよう見えてくる。
ピカソのキュービズムとドラ・マール
ジョルジュ・ブラックという人との対話からキュービズムが生まれたという逸話や、付き合う女性が変わるたびに画風が変わったという話もおもしろい。
1936年ごろから40年ごろまでつきあっていたドラ・マールという女性がモデルになった絵が何作か飾られている。一枚ずつ描かれ方が異なるので注目してほしい。おもわず行ったりきたりして作成年を確認しながら見返した。
マティス
マティスの作品といえばポップな作風で名前にピンと来なくても、見たらああこれかと気づくと思う。
必ずしも順風満帆とは言えなかったマティスの切り紙絵をベルクグリューンが評価して展覧会のチラシに採用したという。国立西洋美術館ではベルクグリューン画廊の展覧会のカタログを所蔵しているらしく、そのコレクションも一緒に公開されていた。
「ニースのアトリエ」は透明感のある、奥に広がる淡い綺麗な海が特徴。
さらにその奥にある大きな雲のようすから、ニースという場所を知らずとも気候のよさそうな雰囲気が伝わる。
音声ガイドは必聴
上に書いたエピソードはほとんど音声ガイドで紹介されていた話から抜粋した。作品の解説といっしょに吹き込まれている話はどれもおもしろく、展覧会をより深く楽しむ必聴のアイテム(600円)。
国立西洋美術館の人がベルクグリューンについて解説してくれるサブパートもあり、こちらも聴き逃せない。
ナビゲーターは俳優の長谷川博己氏が担当してる。
行く前に目を通しておくと理解が深まる予備知識
もし興味を持ったなら、下のリンク先を見てから行くのをオススメしたい。自分自身はあとから気づいたけど、本展覧会をより楽しく解釈するための予備知識に触れられると思う。内容も簡単。
会場に着くまでの電車内で読むだけでもきっとテンションを上げてくれるだろう。入場料の元は十分取れるだろう。
東京会場は2023年1月22日まで。
時間と体力が残っていれば常設展も
この企画展のチケットで常設展への入場もできる。常設展も多種多様な展示品があって、ルーベンスやモネの絵があって入りやすいのでおすすめ。