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記事一覧

小松菜

小松菜

麦茶を飲もうと冷蔵庫を開けたら小松菜が入っていた。
取り出してテーブルに置く。椅子に座って腕組みしたまま小松菜を見つめる。小松菜は、ぐるっとビニールに包まれたスーパーなんかで売っている普通のヤツだ。
わたしに買った覚えはない。そしてわたしはひとり暮らしだ。
小松菜が自分で冷蔵庫に入るわけはあるまい。だれが?わたしが夢遊病で?

そうだ、値札。
値札を見ればなにかわかるはず。小松菜を手に取り、前

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やさしい嘘

ぼくは濡れた頭にバスタオルを巻いたまま、パソコンの前に座った。時間ピッタリだ。パソコンから呼び出し音が鳴った。マウスをワンクリックするとテレビ電話が立ち上がる。いつもの長い髪、変わらない妻の柔らかい笑顔が画面に表示された。
「あなた、元気?」
画面に向かって、ぼくは無理に笑顔を作った。
「今日もなんとか生きてるよ」
少し嫌味っぽくなってしまったか。画面の先の妻の表情が曇ったような気がした。

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蜥蜴

わたしたちは、ソファーにふたりならんで腰を下ろしていた。付き合い始めて約ひと月。この部屋に来たのは何回目だろう。部屋が整理整頓されすぎているせいだろうか、わたしはまだ慣れなかった。白で統一された部屋には観葉植物の緑が映えている。わたしは、隣に座っている彼の肩にもたれながら、目の前の大画面を見つめる。彼の指がわたしのウェーブした髪をもてあそんでいた。
わたしの目は、目の前の画面に惹きつけられていた。

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りくろーおじさんとわたし

今日久しぶりに「りくろーおじさんのチーズケーキ」を食べた。新大阪まで出かけていた妻が、買ってきてくれたものだ。
関西に住んでいて、りくろーおじさんのチーズケーキを知らない人は少ないんじゃないだろうか。
ふわふわの、いわゆるスフレタイプのチーズケーキだ。お店のホームページで確認すると、6号、直径18cmのサイズで一台税込み725円である。安い。

ぼくがりくろーおじさんのチーズケーキをはじめて食

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「理想の暮らし」解説

映画でも小説でも、ミステリやサスペンスと呼ばれるジャンルが好きです。
個人的にはこれらのジャンルの肝は、伏線とその回収にあると思っています。
うまいミステリやサスペンスはそれが絶妙で、
「そうだったのか!」
とか、
「そこはそういう意味だったのか!」
などと、声を上げてしまいそうになります。
反対に、書くとなると伏線を見せすぎると興ざめだし、伏線が弱いと失望されてしまうと思うので、そのあたりのさ

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理想の暮らし

ベッドの枕元の目覚ましが鳴った。
まだ早い時間だったが、休みの日こそ有意義に使いたい。となりでいびきをかいている夫を置いてベッドから出た。
洗面所で顔を洗い、パジャマから部屋着に着替え、化粧する。今日は休日、ウイークデーと違う、薄化粧に見える化粧をしなくちゃ。
朝食はフレンチトーストとコーヒー。お気に入りのダイニングテーブルにはクリーニングしたてのテーブルクロスがかかり、その上に昨日生けた花が飾っ

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「英語の上達法」解説

学生は夏休みがはじまっているのでしょうか。町でも平日の昼間、学生さんらしき人を見かけることが多くなってきました。
飼い犬の掛かりつけの獣医さんに行ったところ、待合にお母さんらしき人と一緒にきている男の子が受験生なのでしょうか、参考書を読んでいました。
それをながめながら浮かんだのが、この作品です。
いったい、どうやったら勉強は、はかどるのでしょう。

学生時代の勉強って、なぜあんなに苦痛だった

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英語の上達法

帰りの通学電車は空いていた。イスに座ってスマホをながめていると母からメッセージが届いた。帰るついでに、駅のそばのパン屋で食パンを買ってきてほしいらしい。
『了解です』
ぼくは送信ボタンを押した。

電車が駅に着いた。電車を降り、駅からパン屋に向かって歩いていると、後ろから声をかけられた。
「ハーイ!」
ぼくが振り向くとそこには金髪の外人の女の子がいた。白い肌に青い瞳の彼女は、同じ年代くらいだろう

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「残り香」解説

先日投稿した、自己紹介アンケートのなかで、自分の作品の中で好きな作品を、3作品挙げるというのがありました。
自分の過去の投稿を、順番に繰ったのですが、大好きなこの作品が、見つかりません。
今までに、ぼくが書いた作品全てをnoteに投稿したつもりでしたが、漏れていたようです。

作品のなかの季節は、金木犀のころなので、秋口でしょうか。そのころまで待ってから投稿しようか、とも思ったのですが、先日の、

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残り香

襖の向こうの猫の鳴き声で目が覚めた。枕元に手を伸ばし、鳴る前に目覚まし時計を止める。
下宿の大家さんの飼い猫は、毎朝目覚ましが鳴る直前に鳴く。まるで僕が起きる時間が分かっているようだ。
今日は週末で大学は休みだがデートの予定だった。布団から這い出しスエットのまま襖を開ける。鳴き声で起こしてくれた黒猫が、きちんとお座りしてこちらを見上げていた。長い尻尾がゆっくりと左右に揺れている。
黒猫の後をついて

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「想い残り」解説

呪術的な音楽で相手に催眠にかける、というアイデアはかなり前からもっていたのですが、ぼくが書くとどうしても悲劇的な結果、要するに恨みを晴らす的な、どちらかというと暗い筋立てになってしまいます。
ぼくが書く作品は、そんな傾向の作品が多いことを自覚しているので、なんとかもうすこし方向性の違うものがたりを書きたくなりました。
まあアンハッピーエンドですので、結果的には同じようなものなのかもしれませんが。

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想い残り

チャイムが鳴った。2階にいるわたしより、下にいた母が先に出た。
わたしもすぐに階段を降りる。母の声が聞こえてきた。
「あら、お久しぶりねえ。元気にしてたかしら。結婚するんですってね。てっきりあなたは、うちの子をもらってくれるんだと思ってたわ」
わたしは、廊下を走り割って入った。
「お母さん!変なこと言わないで!もともとただの幼馴染なんだよ!」
自分の顔が赤くなっているのがわかる。
彼はいつものよう

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「ちょっとした失敗」解説

みなさんは映画、好きでしょうか。
ぼく自身は、本も好きなのですが、読み始めるとそれに集中し過ぎて、なにも手につかなくなりがちです。映画の場合は、大体の作品が約2時間程度で完結しますので時間が読めて、気持ちが楽なのです。

この作品は、映画「地球が静止する日」をヒントに書きました。
ぼくが見たのはつい先日なのですが、公開は2008年です。キアヌ・リーブス、ジェニファー・コネリー主演の大作だったの

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ちょっとした失敗

ある晴れた日、大観衆と軍隊が見守るなか、宇宙船らしき飛行物体が地響きを立てて着陸した。
地響きがおさまった。固唾をのんで見守る群衆たち。
ひとりの兵士が手をあげた。彼はミサイルの発射装置に指をかけている。
「司令官、発射の許可をください」
司令官はクビを横に振る。
「ダメだ。まだ敵と決まったわけではない」
にらみ合いが続いた。
「もうダメだ」
さっきの兵士が耐えきれずボタンを押した。ミサイルが白い

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