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【ショートショート】 ニュートン

「ここにリンゴがある」
「なんだ、突然」
「リンゴは俺の手から、まっすぐに地面に落ちた」
「なんだ、ニュートンの真似事かい?」
「これを万有引力の法則というのだそうだ」
「知ってる。理科の授業で習ったよね、お前と一緒に」
「リンゴはなぜ落ちたんだろう?」
「重力に引っ張られたんじゃないの」
「落ちるのではなく、引き寄せられた」
「まあ、そういう解釈だね、俺も」
「では、なぜ引き寄せられたのだろう?」
「リンゴが美味そうだから?」
「それではリンゴだから、引き寄せられたということになる。万有引力ではなかろう」
「だけど仮にリンゴが美味そうだから、という法則が成立するとしたら?」
「美味そう、は個人的主観に基くものだから、科学には馴染まない」
「地球に意思があるとしたら、成立するかもしれない」
「地球に意思はあるだろうか?」
「生命の集合体ならば、ありえなくもない」
「ということは、仮に地球に意思があるとして、俺たちも地球に引き寄せられている?」
「まったくだ。俺たちは地球に愛されているようだ」
「逆に嫌われていると、空が飛べるかもしれない」
「反重力?」
「まさしく」
「嫌われた方が得なのかな?自由に空が飛べるとか」
「やってみるといい」
「どうやって?」
「環境破壊とか?」
「個人の力なんて知れてるよ」
「試しに空き缶を投げ捨ててみようか」
「いいね、何ごとも実験からはじまる」
「それ!」
「いいコントロールだな。どこ狙ったの?」
「川の中洲にある岩」
「あれ?」
「どうした?」
「ふわっと宙に浮かんだような浮遊感」
「浮遊感じゃなくて、本当に浮遊してるぞ」
「バカな。地球に嫌われた?」
「おいおい、風船みたいに浮かんでいくぞ!」
「助けてやろうか?」
「当たり前だ、早く降ろしてくれ」
「ちょいと待ってな。紐を探してくる」
「馬鹿やろ!紐なんか探してる間に…」
「あ、遅かった」
「空の彼方へと消えて行きましたとさ」
「誰?」
「プラネットアース」



(785字)

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