先ず隗より始めよ

先日、20数年かぶりにローマ教皇が来日したそうだ。

教皇というのは、大体各地でタメになるスピーチをされるそうで、今回も被爆地広島と長崎を訪れて、平和に関するスピーチをされていた。

そこで少し話題になったのが、教皇が「日本の難民受け入れ」の訴えを行ったことへの、とある住職の反論である。

ローマ教皇
「日本は #難民の受け入れ を」
「核兵器廃絶」
「真の平和は非武装の平和」

天弘和尚
「隗より始めよ。難民はバチカンから受け入れ、次にカソリック圏、キリスト教圏」
「核兵器廃絶は大量の核保有国に対して言うべき」
「平和維持に武器は不可欠、チベット、ウイグルの現実を見るべし」 pic.twitter.com/rbjsVgjnEd

— しもむら天弘 (Buddhist priest) (@shimomuratenkou) November 26, 2019

「隗より始めよ」

まあつまりは、「あなた方のところから難民を受け入れれば良いじゃないですか」という話なのだが、正直言ってそこら辺は私にはどうでも良い(良くはないけどね。移民問題は心配です)

この「隗より始めよ」って使い方合ってるの？？？

隗より始めよ　とは先ずどういう意味なのか

先ず隗より始めよ　というのは中国の昔々の戦国時代のお話である。

”燕”という小さな国の王、昭王は、”斉”という大きな国にやり返すために、賢者を国に招こうと画策する。

そこで、家臣の郭隗に相談すると、郭隗はとある例え話を昭王に聞かせる。

この、”例え話”というのは臣下が君主に献策する際の一つのテクニックだ。
あまりに直接的に、「君主様、あなたの言っていることは間違っている」という口の聞き方をしてしまえば、王の機嫌を損ねて最悪首チョンパまであり得る。
そこで、臣下は分かりやすい例え話をして、君主にそれとなく本意を悟らせるのだ。

郭隗の用いた例え話はこうだ。

昔、王から千里の馬を買ってくるように申し付けられた家臣がいた。
その家臣に千金を持たせて、お使いに出したところ、家臣は五百金で死んだ馬の骨を買ってきたそうな。
もちろん、これを見た王は怒った。
しかし、その家臣の思惑はこうだった。
「死んだ馬の骨にすら、五百金を出して買ったんだ。もし、千里の馬ならばどれほどのものだろう」と思わせて、良い馬を各地から集めようという思惑だった。
その思惑は見事に当たり、一年もしない内に千里の馬は三頭もやってきた。

その例え話をした郭隗は、こう導き出す。

「賢者を求めるのなら、先ずこの郭隗からお始めください」と。

そして、王は郭隗に邸宅を与えたり、好条件を与え、郭隗に師事した。

すると、本物の賢者たちは「郭隗ごときがそんな高待遇ならば、俺はもっと良いに違いない」と確信し、燕の国に続々と集まってきたそうだ。

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故事成語としての「先ず隗より始めよ」

この逸話から転じて、慣用句・故事成語となって使われている「先ず隗より始めよ」の意味は、

先ず自分の身の回りにいるものを厚遇するところから始めなさい。

ということだ。

平たく言えば、「優秀な人材が必要なら、先ず高待遇の職場であることをアピールしなさい」という意味なのだ。

だが、しかし、、

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誤用される「先ず隗より始めよ」

冒頭の住職氏の発言にもあるように、「先ず隗より始めよ」は現代日本では、

「言い出しっぺが自分でやれ」
だとか、
「先ずは自分から行動を起こせ」

という誤用があまりにも多い。

Twitterで検索をかけてみてもほとんどがこれ。（あと政治に関するツイートが多いのは気のせいかな？）

ちなみに、辞書や国語便覧を調べてみても、この誤用の意味が併記されている。

まぁいわゆる、良くある故事成語の誤用である。

故事の誤用は今に始まったことではなく、誤用の方が正しい意味にとって変わっているということも多々ある。

例えば、「役不足」なんかもその一例で、本来は文字通り「役の方が不足していて、その人の実力に見合っていない」という意味のはずが、現在は謙遜するときに「私の実力が不足していて、役に見合っていない」という意味に取られている。

これは目くじらを立てるようなことでもないし、もし誤用していてもちょっと恥ずかしい思いをする可能性があるというだけの話だ。

でも、何か「先ず隗より始めよ」に関しては違和感を感じてしまう。なんでだろう

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日本的に都合の良い解釈をしすぎじゃない？

「先ず隗より始めよ」もそうだし、「情けは人の為ならず」もそうだけど、『得たいものがあるなら、ギブ＆テイクの”ギブ”から始めなさい』という言葉を、”自己責任論”の裏付けとして用いてしまうのって、今の社会の悪いところをよく表しているような気がする。

「先ず隗より始めよ」に出てくる、”厚遇を与えよ”なんていうのは今の企業にしてみたら耳の痛い話かもしれない。
貧困は貧困に陥った人の自己責任論だという人も多いかもしれない。

だから、なんか違和感があった。

言葉というのはよく時代を映す鏡なのかもしれない。

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結論

このローマ教皇の発言に関して、それっぽいことを引用したいなら、

１.　syamu_gameの「ほならね理論」から引用する

２.　「先ず隗より始めよ」日本は移民労働者への手薄い待遇で知られているから移民は来ないよ

のどちらかにすることをオススメしたい。