NFTアートの二次創作とKawaii SKULLへの礼拝【WEB3の建築-KawaiiQR】
Kawaii SKULLは日本のNFTアートで、4ヶ月で10,000点制作されたハンドメイドのコレクティブ作品です。
2022年2月15日突如一次流通が完売して話題を呼びました。簡素なドット絵を求めて、24時間で300ETH、つまり当時のレートで1億円ほどが動きました。
彼の作品制作への集中力は狂気すらうかがえます。この作品のストーリーやアプローチを参照することで、NFTアートのもつ特殊性が見えてきます。
今回の記事ではKawaii SKULLの二次創作として私が制作した、Kawaii QRの解説を通して、NFTアートとWEB3のあり方を考えます。
NFTアートの二次創作
◆ Kawaii QRとは
「Kawaii QR」は、マーケットプレイスOpensea上にある私の保有するNFTのURLを符号化して、デジタル・アセットに埋め込んだコレクティブ作品です。
また本作品はデジタル空間において所有者への商用利用が認められたNFTアート作品を用いて、所有者自身がQRコードを埋め込んだ二次創作物です。
ピクセルアートという個性を活かし、「Kawaii SKULL #4416」の画像データとQRコードから一つ一つ生成しました。
その際にProcessingというビジュアルデザインのためのプログラミング言語を用いているため、同様の元データを入れ替えると全く新しい作品に生まれ変わる拡張性があります。
◆ 画像単体でのトレーサビリティ
WEB3への過渡期にいる私達は、プラットフォームに依存したNFT表示方法に従わなくてはいけません。
NFTアートの表示データは単体で容易に拡散され、最終的には誰が作り、誰が所有しているかを追跡できなくなる危険性があります。
特に「Kawaii Skull」を始めとした何千何万と類似したアセットの並ぶコレクティブ作品において、画像データだけでは特定が非常に困難です。
生成した画像データは単体で紐付けが起こっていなくとも、QRコードを読み取ることで、一次作品ならび二次作品の情報を追跡可能です。
人間と機械のためのアート
◆ URLの構造
QRコード生成には短縮URLはあえて使わず、URLにあるブロックチェーンの複雑なコントラクトアドレスやトークンIDをそのまま符号化しています。
プロトコル://ドメイン/ディレクトリ
https://opensea.io/assets/
NFTマーケットプレイスopensea.io上でのアセットを管理するフォルダ。
プロトコル名・ドメイン名・ディレクトリ名は人間にも分かりやすい表記になっています。短縮URL だとbit.ly のようにどのサイトを表示しているか判断できない危険があります。
コントラクトアドレス
0x495f947276749ce646f68ac8c248420045cb7b5e
イーサリアムでのスマートコントラクトを行う際に使用されるアドレス。契約内容が置かれています。0x以降は16進数(0~f)で表記されています。
ブロックチェーン・エクスプローラーのEtherscanで調べると、様々な取引がこの契約を使って行われていることをリアルタイムで確認できます。
トークンID
57920695457072532059112617018159441295166854042840448471990455065685990047745
トークンに一意性を与えるID。同様にEathrscanでコントラクトアドレスと共に調べることで確認できます。
◆ QRコード
1994年に日本の原 昌宏(株式会社デンソーウェーブ)によって、QRコードは開発されました。
当初はトヨタの生産システムへの導入が目的でしたが、現在ではライセンスフリーとして世界中で使用されています。
近年では中国を始めとしたQRコード決済として再注目されました。また暗号化や、画像を扱った顔認証用QRコードなどが開発され、セキュリティ用途でも使われるなど、いまなお進化し続けています。
QRコードの特徴は、情報量の多さと、誤り検出・誤り訂正能力の高さです。そのため煩雑で長いURLを符号化でき、表示が歪んだり欠損していても復号することができます。
また読み取りを速くするために特徴的なパターンを使い、機械の処理時間を短縮し、自由なアングルから読み取ることができます。
◆ サイバネティクスな鑑賞体験
Kawaii QRのコードは一部が削られ不完全です。そのためリードソロモン符号を用いて誤り訂正を行う必要があり、読み取りに時間を要します。すると鑑賞者は、様々な距離・角度からKawaii Skullを捉え始めます。
この場合の鑑賞者は、人間だけでなく、スマートフォンなどの機械を含みます。
人間はカタチや文脈を楽しみます。機械は文字コードやアドレスを楽しみます。そして人間と機械は、鑑賞できたかフィードバックします。
つまり芸術鑑賞を共に行えるパートナーとして機械を捉えることができます。これはノーバート・ウィーナーの提唱したサイバネティクスの構築です。
人間にしかできない鑑賞と、機械にしかできない鑑賞を行い、お互いの目線を共有し、処理時間では測れないサイバネティックスなアート鑑賞を行います。
またデジタル・アナログ変換の繰り返しは、干渉縞などフィジカルな鑑賞への影響も生みます。無機質なピクセルアートにより、ディスプレイの質感は強調されます。
鑑賞者ごとにメディアに差異があるため、ドナルド・ジャッドの提唱した「スペシフィック・オブジェクト」のようにメディアとオブジェクトが混ざり合っていきます。
◆ NFTアートのための空間設計
ル・コルビュジエが黄金比を参考にしたモデュロールを発表する以前から、日本家屋の構造は人間スケールな「尺貫法」により設計されていました。
日本の建築設計は畳をモジュールとし、平面的に配置を計算してから柱などの配置を行っていました。
メートルは地球を基準に作られ、従来ピクセルもディスプレイを基準に作られます。しかし記号的な意味でのピクセルアートは物理的スケールから開放されたメタスケールを可能とします。
ピクセルアートは単にレトロスペクティブなものではなく、二次元の非常に純粋なバーチャル空間を提供してくれます。したがって再び居住者のためのスケールに回帰することができます。
Kawaii QRでは、ピクセルアートとQRコードは同じメタスケールで存在します。つまり、メタバースのQR建築に住む可愛いスカルたちの様子として鑑賞できます。
WEB3と禅
◆ 複製技術時代の芸術
ヴァルター・ベンヤミンが「複製技術時代の芸術」で語った礼拝価値と展示価値については、NFTアートを考える上で参照すべきでしょう。
礼拝価値とは、宗教的な儀式などに見られるように精霊など超常な対象に向けられた価値です。原始時代は礼拝価値に重心がおかれていたため、アート作品は呪術の道具でした。
一方で展示価値とは、作品が儀式から開放されることで生まれ、芸術としての機能を持ち始めます。芸術のための芸術はここに入ります。
複製技術により展示可能性が飛躍的に伸び、オリジナルのもつ儀式に裏付けされたオーラ(真正性)はなくなっていくとベンヤミンは語っていました。
Kawaii SKULLは、作者の念(オーラ)が込められた、自然的で呪術的なものです。それは彼の作品や、noteの解説文を読むと強く伝わってきます。
◆ 侘び寂び
私はこの髑髏のもつ礼拝価値に、茶道の陶器に見られるような侘びを感じます。侘びとは、簡素で不完全なものへの崇拝です。
そしてその大切な髑髏は、保管されながら小さなコミュニティの中で価値を高めていきます。
一方で二次作品は、景色を詠んだ俳句のようなものであると考えて制作しています。そこには展示価値があり、寂びの思想があります。寂びとは、再帰的時間の流れにより物が自然の中で朽ちていく孤独な諦めです。
拡散と忘却が繰り返されるインターネットにおいて、風景を詠む詩的で非対称な2次元コードが、祈りへのアプローチとして存在します。
◆ 思弁的実在論と再魔術化
芸術から呪術へ戻る傾向は、建築のパラメトリシズムを批判するオブジェクト指向建築とも類似性があります。
パラメトリシズムとは、大量生産を合理化の背景としたモダニズムを脱し、土地の文脈や環境によってパラメーターを操作し、最適な建築を導き出そうとするデジタルデザインの流れの一つです。
一方でオブジェクト指向建築(OOO-派)とは、カント以降の相関的なモノの見方に異議を唱える最新哲学を導入した流れです。コンセプトやダイアグラムでなく、オブジェクトそのものを重視し、建築に人間の知覚を超えた魔力を取り戻そうとしています。
実際Kawaii SKULLのホルダーたちの中には、アルゴリズミックでジェネラティブなNFTプロジェクト増加に飽き飽きして、より有機的な手触り感をもつハンドメイド作品に人身御供的な価値を見出す人が多くいます。
◆ 大地性のあるWEB3
西洋哲学は論理により組み立てていきます。カントはモノと思考は直接関係を持てず、見たものから分析するしかないと考えました。
東洋哲学における禅は、瞑想という内的なイメージとは裏腹に、モノに執着します。そして複雑で錯綜したモノを直接扱うには、論理を超越した直観をするべきであるというのが禅の姿勢です。それは「一即多、多即一」という華厳経の考え方からも理解できます。
またモノとは観念的ではなく具体的であり、大地に宿る生命の経験を通してこそ霊性的直観が出てくるとして、鈴木大拙は大地性を重んじました。
西洋哲学でもカント以降の相関主義でなく、脱人間中心としてモノの存在そのものを扱う哲学が2007年以降隆盛してきました。これらは思弁的実在論と呼ばれます。
大地性が想定した具体物を拡張し、マリオのような創作物や、仏陀のような超越的なものまで含めた思弁的実在論の流れにオブジェクト指向存在論があります。このオブジェクトには勿論、NFTなどのトークンも含まれるでしょう。
今まで仮想と呼ばれる空間であったインターネット空間は、ブロックチェーン技術によって生まれたWEB3の登場により大地性を獲得し始めています。
WEB2とは、関係性により記述され、理性により分析される世界でした。
WEB3とは、オブジェクトにより記述され、悟りにより直観される世界です。
そしてKawaii QRは、世界を詠んだ俳句として存在します。
最後に、ウクライナで起きた戦争について
難民の方々への支援のために
このKawaii QRを詠んで頂けると幸いです。
最後まで読んで頂き、ありがとうございます。 面白いと思って頂けたら、コメントやサポートをよろしくおねがいします。 感想をいただけると、とても励みになります。