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メメント・モリ


先週から、1匹のサワガニと同居している。
同居して1週間が経ち、サワガニが餌を食べなくなってきた。


──── まさか、こいつ、死ぬのか?



よく考えたら私は、死んだ生き物が苦手なのである。


生きていると思っていたコガネムシなどを、つついてみた時に、完全に干からびて死んでいたときの、ゾッとする感じが、本当に嫌である。
このことに関して、虫嫌いの友人に、「え、なんで?生きてる方が動くし死んでる方がましじゃん」と言われた。たしかに、同じオフィスにキモい上司がいたら嫌だとは思うが、私は、オフィスにキモい上司の死体がある方が、どちらかというと嫌なのである。



とにかく私は、サワガニを生きながらえさせる必要があった。そこで、情報収集を行っていたところ、ひとつの記事を見つけた。

「7日後に死ぬカニ」である。


「#ゆたかさって何だろう」の受賞作品であり、7000スキを超える人気記事である。

この記事のなかで筆者であるしまだあやさんは、「スーパーで22匹のサワガニを購入し、7日間育てたのち食べる」という経験について、カニたちとの7日間を情緒豊かに綴っている。ネタバレになるようなことはあまり書きたくないのだが、彼女はカニとの生活のなかで、カニの死と直面することとなる。



生きている限り、死は常に隣り合わせにあるということを、改めて思わされた。しかし、このサワガニには、うちで暮らす以上、ある程度は生きてもらわないと困るのである。ああ、一体なにがいけないのだろう。夏を超えられるかが鬼門、というが、まだそこまで気温も高くないはずである。


5日前、「サワガニは雑食で、米粒なども食べます」と書いてあったので、米粒を与えた。しかし、同居のサワガニは、微塵も米粒に触れず、割れた皿の下でじっとしていた。昨日餌を与えなかったので腹は減っていると思ったが、まだ腹が減らないのだろうか。


4日前、ゆでダコを近くに置いてみたが、端の方にどかされているのを、あとから発見した。拒絶されたゆでだこの気持ちを考えると、いたたまれなくなったが、回収して捨てた。海のものは受け付けないのだろうか。
初日にちくわを与えた時は、食べていたじゃないか。お前、変わっちまったよ。


3日前、石の上に卵の白身を置いて家を出た。
カニの甲羅は、胸筋に似ている。マッチョの後輩が、いつも卵の白身を食べていたのを思い出したのだ。
帰ってきて確認したが、結局、食べていなかった。口元にもっていくと、しゃーなし程度に数口かじって、それ以上はたべなかった。マッチョを目指してはいないようだ。


こうして、あまり餌を食べなくなって、4日が経過した。

なんだか、元気がないようにも見える。いつもなら、私が水槽を覗くと「ひぃぃ!」と割れた皿の陰に隠れるのに、いまは逃げ遅れて石の上に取り残されている。


それでも餌を与えないわけにはいかない。ふるさと納税で手に入れた牡蠣の端っこを、少し切って与えた。牡蠣は臭いからな。食べなかったら早めに取り除いて、水槽を清潔に保とう。そう思っていた。

しかし、サワガニは、牡蠣の存在に気づいた瞬間に、もりもりと食べ始め、小さなかけらは一瞬にしてなくなった。


まさか。好き嫌いだったのか?


念の為、翌日も牡蠣を与えてみたが、やはり一瞬にして食べ終えた。
ふざけるな。ちょっと心配しただろうが。


まったく、誰かと同居するのって、意識してなくても気を遣うし、ホント大変だよねー、と、その界隈の友人たちと愚痴をこぼし合いながら、晴れた日のテラス席で茶でもしばきたいくらいである。


そうしてサワガニとの共同生活はつづく。


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