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(飲む前に)読んでみなはれ、(読む前に)山崎飲んでみなはれ
伊集院静の遺した名作には数々の人気作がある
サントリーを一代でトップ企業に成長させた鳥井信治郎の物語は事実を綿密に取材して描かれた近年の大作で日経に連載された「琥珀の夢(上・下)」。
物語は国産ワイン販売を軌道に乗せた頃の鳥井とパナソニックの因縁からスタートする。
現・サントリーの創設者でトリス・ウィスキーの語源にもなった有名な商人、さらに松下幸之助や阪急グループ創始者の小林一三との縁もあるお馴染みの人物です。史実に基づく小説です。
当時から羽振りの良かった鳥居の元へ修理のできた自転車を届けに来たのが鳥井より15歳下の丁稚奉公人、松下幸之助少年だった。
自転車店から納品を仰せつかった松下少年は鳥居商店の陳列棚にあるワインの商品群に見とれている
と、それを見つけた鳥井の大将は松下少年に商品を見る目、消費者目線の大切さを説いてくれた。松下少年の心に晩年まで印象深く残っていたワンシーンであるが、チラッと読んですぐさまレジへ
のちにパートナーシップを結ぶニッカの創始者=竹鶴政孝との出会いからのくだりはNHKドラマ「マッサン」でも描かれていて、まずはこのチャプターから読み始めます。
すでに赤玉ポートワインで成功を収めていた鳥井の元へ英国からウィスキーづくりのノウハウと金髪の新妻を得て帰国したばかりの竹鶴政孝が飛び込んできます。ふたりの共通の目的はただ一つ。日本では誰も手を出さなかった本格的な国産スコッチ・ウィスキーの量産、販売です。
NHKの朝ドラで実写化された2014−15当時には鳥井を堤真一が、竹鶴を玉山鉄二が熱演しており読み進めながら二人のイメージがありありと浮かんできます。そして大阪のスタジオで熱演する二人の傍で原稿用紙にペンを走らせる伊集院さんの姿があるかのような・・・・
ドラマの熱演さながらに活き活きと主人公らを描く筆致に知らぬ間にどんどん引き込まれていきます。
自伝やエッセイをベースにした伊集院作品も多い中、史実の綿密なリサーチをもとにドラマチックに構築していく作業はさぞ時間を要したことと想像しますが、大正から昭和にかけて世相も織り交ぜながら、この破天荒で人並み外れた商人の生き様を描いています。
参考までに日本で最初の本格ウィスキー工場(ブランドにもなっている山崎)の起工式から去年でちょうど100年を数えました。