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この芥川賞受賞作品は凄いかも!【読んでみた】「サンショウウオの49日」by朝比奈秋

 物語の冒頭に登場するのは胎児内胎児という聞き慣れない現象。
生まれて一年経った乳児の体内から、遺伝子も同一で血液も共有する兄弟の胎児が取り出されるのだ。しかも一年遅れの出生届がちゃんと受理され、成人して結婚し子供まで授かる・・・・・その娘がこの物語の主人公。正確を記すならば「娘たち」だったのだ。

 作者は医療現場に従事する医師でほかのSF作品にありがちな医学的な矛盾もなく説明されており、さらに深い解説がされているところが空想的なSF作品とは一線を画している。
ベトくんドクくんに代表される結合双生児の多くは独立した大脳、視覚、顔、首、自意識を持っているけれども、これが左脳と右脳、視覚や多くの臓器、子宮をも共有したら自意識はどうなるのか?

 顕著な例を挙げるならば恋愛して一人の男を好きになった時、姉と妹の意識が反目せずに一つの行為を成し遂げることができるのか?「杏」がファーストキスをした時、「瞬」はどんな気持ち?・・・・・もっと言えば一人が合意した行為でも、もう一人にしてみればレイプに??・・・・・・といえば分かりやすいでしょうか?


 しかもこの物語の設定では、この二重双生児が一人の人間の体を共有し、二つの声色、2種類の髪質、戸籍上の二人の名前を持つことを既定の事実として社会が受け入れているところもユニーク。(そして出産一時金は二人分。但しお月謝も2倍払わなければならず・・・・・・)
 理系に明るい人ならば多少理屈っぽい記述にも充分ついていけると思うし、そのストレンジワールドにどんどん惹かれていくこと間違いなしです。観念論になると文系向き?

 何より映画化、ビジュアル化はとても難しい内面的な描写が多いだけに、まさしく文学作品だけに許されたエンターテイメントである、という評価は確かにその通りです。
でも昨今のCG技術を持ってすれば、少なくとも視覚的には映像作品を作ることも可能でしょう。問題は心の内面をどうやってビジュアライズするのか?

 決してドラマチックな展開や予想外の結末で終わる物語ではないものの、数回読み直してその複雑難解な仕組みを確かめてみたくなる一冊です。もう一回ゆっくり読まなきゃ!が率直な感想でした。

 タイトルのサンショウウオは一回だけ文中に登場しますがテーマとは距離を置いた存在。この表題でよかったのかな?と。
 納骨式や葬儀の場面は出てきますが49日も登場しません。タイトルの意味を考える読後時間も楽しみのうちか??

作家の個性、将来性も含めて(文系のみなさんにも)文句なしにおすすめしたい一冊です。

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