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『春のような陽気と、「個人の判断」』。2023.3.11.

 あれから12年、という言葉を、ここ何日かで、何回も聞いた。

 今年も3月11日になった。

マフラー

 朝の空気は、暖かかった。

 マフラーはいらないぐらい、と妻に言われたのだけど、やっぱり、寒くなったら、と思って、怖くてマフラーを持った

 12年前は、資格を取るために、学校に通っていた。
 ずっと介護を続けていて、昼夜逆転の生活だった。

サングラス

 午前9時前に家を出る。
 天気がいい。

 駅までの道を歩く。人通りが少ない。

 向こうから、スポーティーな格好をした夫婦らしき男女が、二人ともサングラスをして、マスクはしないで、歩いてきて、すれ違った。

上着

 駅に着いて、電車がきて、電車に乗った。

 人が少なくて、空いている。

 駅が進んで、人が増える。

 乗客たちの上着は、明らかに、軽くなっているように見える。

 終点に着いて、乗り換えるとき、改札そばのアルコール除菌ポンプは、今日も、私一人だけが使っている。

くしゃみ

 次の電車に乗り換える。

 車内は、それなりに空いている。
 窓が少し開いている。

 スーツケースや、キャリーケース、なんだかわからないけれど大きな荷物。
 そんな姿の乗客が、結構目につく。

 くしゃみや、せきの声が、あちこちから聞こえてくる。 
 鼻水をすする音も、かなり多く、花粉症の季節でもあると思い出す。

マスク

 目的の駅に着いて、ホームに降りて、階段を登って、改札を出て、また階段を降りて、線路ぎわの道を歩く。

 電車の通るそばに、枯れていても、うっそうとしていた雑草のかたまりがあったのに、全体的に刈られたせいか、かなりすっきりとして、視界が開けるような気がする。

 並木の枝に、花のツボミが、ほんの少しだけ、ふくらんできたように見える。

 ここまで道路や駅やあちこちで、明らかにマスクをしていない人が増えてきたように思った。


個人の判断

政府は13日から、新型コロナウイルス対策として呼びかけてきたマスクの着用を個人の判断に委ねる。屋内では原則推奨していた方針を変え、社会経済活動の一段の正常化を促す。医療機関や高齢者施設など重症化リスクの高い人が多い場所や、混んだ電車やバスでは引き続き推奨する。

加藤勝信厚生労働相は10日の記者会見で「個人の主体的な判断が尊重されるようお願いする」と述べた。

 自分が若くもなく、体も強くないし、家族にも持病があるで、これからも、コロナに感染するのはなるべく避けたい。

 コロナに感染した場合、他の病気と同様に、誰でも、いつでも、素早く、適切な治療を受けられるようになるまでは、自分のためにも、家族や、コロナに感染した場合に重症化しやすい人のことも想像し、人がいる場所ではマスクをつけ続けると思う。 

 今でもコロナ禍は収束していないのだけど、こうした記事↑を読むと、健康な人間にとっては、コロナ禍は終わっているようだし、マスク着用について、怒りのようなものも感じるので、私のように、マスクをつけ続けることが、個人の判断として、本当に尊重されるのだろうか、と不安になる。


夕方

 午後4時過ぎに、いつもの土曜日よりも少し遅くに用事が終わって、朝降りた駅へ、再び、向かう。

 まだ明るい。

 空気に温かさのある夕方だと思う。

ホーム

 駅に着き、ホームで電車を待っていた。

 ここは、2路線が走っている。

 4歳くらいの男の子が、ずっと、私が乗ろうとして、待っている路線名を叫んで、「見たーい」と、叫んで、小さくジャンプを続けている。おそらくは、若い父親と母親と、ベビーカーと一緒にいるから、家族で出かけているのだろうけど、それだけ見たいと言ってくれていると、いつも乗っている人間は、ちょっとうれしい。

 少し時間が経って、ホームの反対側に、「彼」が見たいと言っていた路線とは違う電車が到着して、そのファミリーで、車両に乗っていく。

 その電車がドアが閉まる前に、ホームの反対側に、「彼」が見たかった電車が来て、私は、その車両に乗り込みながら、「彼」は、この電車を見たのだろうか、と思う。

 電車が発車する。

ニュース

 ドアの上の小さい画面にニュースが流れる。

 習近平 中国国家主席 三選
 植田日銀総裁 就任
 照ノ富士 休場
 大量の菌検出 旅館 福岡
 イトーヨーカ堂 衣料品 撤退
 非正規社員ら、10社でストへ

 電車の窓から、空に、飛行機が見える。

 思ったよりも大きく、ゆっくりと着陸へ向かっていくように視界から消えていく。

 車内には、スーツケースを持っている人が、やっぱり多い。

 窓が開いている。
 入ってくる風は、少しあたたかい。
 ちょっと気持ちいい。

改札

 目的の駅について、また違う路線の電車に乗り換える。

 改札へ向かって歩くと、その改札から、一斉に人がたくさん出てきて、なかなか前へ進めない。

 隣にベビーカーを押した若い男女のカップルがいて、同じように、大量の人の流れで、進めなかったみたいで、「なんだ、これ」とつぶやいていた。

会話

 人波が途切れたので、改札に入った。
 止まっている電車に乗ったら、空いていたので、座る。

 少し遠くの座席から、会話が聞こえる。若い男性と、年配の女性。どうやら孫と祖母の関係のようだけど、男性は、ずっと楽しそうに話をしている。

「BGSが…」
「BG Sって?」
「バッググラウンドストーリー。それが、しっかりしていると…」。

 そんな会話が聞こえてくるのは、若い男性の声が、大きいわけでもないのに、不思議に通る響きで、その上で、熱のこもり具合と、冷静さのバランスがよく、耳に入ってきやすいからだった。

 その会話は、どうやら東京ディズニーリゾートと関係あるらしいことを、あとで知った。

ゲーム

 駅が進むと、隣に座っている小学生くらいの男の子が、もたれかかってきた。

 寝ているのかと思ったら、手元にあるゲームの世界が傾いていて、それと同期しているようで、しばらく経ったら、逆側に体を倒していった。

 その集中力は、ちょっとうらやましかった。

看板

 自宅の最寄り駅に着いて、降りる。

 駅前のタピオカ屋が閉店して、しばらく何もないままだったけれど、その窓に新しいポスターが貼られている。

 それは、おいしそうに見える洋菓子屋だった。
 まだ、何もわからないけれど、その開店が、ちょっと楽しみになっている。


 持っていったマフラーは、今日は一度も使わなかった。


 



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