その人の存在を初めて知ったのが、ラジオ番組だった。
番組の中で、「電線愛好家」と初めて聞く肩書きを名乗っていたのが、「俳優」でもあると知って、それは、おそらく現代のリスナーの悪い癖なのだろうけど、無理にキャラを作っている人なのかもしれない、という警戒心が先に出てしまった。
だけど、話を聞いているうちに、この人は、本物なのではないかと感じ始め、その著作を読もうと思っていた。
『電線の恋人』 石山蓮華
冒頭に、「電線」との出会いが描かれている。
もっと「マニア」の話だと思っていた読者には、予想とは違う光景が広がっていた。
その15年後に、この書籍を書くことになったのだから、それは、その長い内省の時間によって、純度が高くなっているはずだ。同時に、これからの内容も、著者にとって「本当に大事なこと」が書かれていることを、きちんと前もって伝えてくれているように思えた。
電線地中化計画
これだけの年月、電線を見つめ続けてきたのだから、その電線の「生態」について、写真も添えて報告がされている部分もある。
いつも見ているはずの電線を、違う視点から見るようになるきっかけを与えてくれたり、さらには、電線の変わった「状態」までも見せてくれているから、「マニア本」に共通する楽しさも提供されている。
ただ、それだけでない「信念の強さ」のようなものを感じる部分も、当然ながらあって、その一つが「電線地中化計画」に対しての、著者のまっすぐな言葉だった。
まず、その計画に関して、「電線」に関する歴史的な事実を指摘する。
ロンドンは、ガスと電気が競合する事情があり、アメリカでは電線を外部化するには安全性が低い状況があった、という。
その上で、その「電線地中化計画」に関して、冷静な指摘を重ねていく。
そうしたフォトコンテストが行われたのは恥ずかしながら知らないままだったけれど、こうしたコンテスト自体は、あまり健全なイベントには思えない。さらに、電線がある光景に対して、「醜い」と断じる社会経済学者である松原隆一郎氏に対しても、こうした言葉を投げかけている。
読み進めるうちに、著者の「電線」への視点や思考は想像以上に深いものであると感じると同時に、もし、「電線地中化計画」を進めるのであれば、著者の指摘や思考よりも深められた「思想」を、提示する責任があるように思えてくる。
こうした言葉を支えているのは「うそのない情熱」だと思った。
電線の恋人
ここに至るまでの著者の道筋は、それこそ、とても曲がって、それでもかろうじてつながってきたことが、「おわりに」で読者にも、改めて明確にされる。
これだけの美しい表現ができるようになるまでは、20代後半で、自分の在り方に疑問を持ってから、さらに、繊細で注意深い内省を必要とするのだけど、そうした変化や、さらには、電線の先のことを考えてこないようにしてきたた後ろめたさなど、思った以上に幅の広いことが描かれていると思うので、ここまでで少しでも興味を持ってくださった方は、ぜひ、本書を手にとっていただきたいと思っています。
おすすめしたい人
何かを好きなのだけど、そのことに対して、迷いが生じることがある人。
いつもの生活に変化が欲しいと思うようになった人。
マニアックな人への理解をしたいと思う人。
毎日が同じことの繰り返しで、退屈だと感じている人。
そうした人たちにおすすめしたいと思っています。
さらに、この本を借りて、読んでいる期間中に、著者が、ラジオのメインパーソナリティになっていました。(こちらもおすすめです)。
(こちら↓は、電子書籍版です)。
(他にも、いろいろと書いています↓。よろしかったら、読んでもらえたら、うれしいです)。
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