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「人面魚ブーム」は、難しい。

 今、思い出しても、どうしてあんなに人が集まっていたのか。不思議に思う出来事の一つに「人面魚ブーム」がある。

1990(平成2)年、写真週刊誌「フライデー」が掲載してブームになった山形県鶴岡市「善宝寺」の“人面魚”も、その類い。境内の「貝喰の池」にすむという伝説の龍神の使いといわれている。最盛期は1日1万人が押し寄せた。

 個人的には、そのブームはテレビなどで見ているに過ぎなかったけれど、どうして、あんなに人が集まるのか、は分からなかった。確かに、珍しいかもしれないけれど、頭の部分が、「人の顔」=人面に見えるだけで、あれだけの集客力があるのが、不思議だった。

 ただ、前出の記事は2019年だから、そのブームから30年経っている。

寺は現在も、「人面魚のいる貝喰の池まで徒歩2分」「名所案内 人面魚」と看板でPR。貝喰の池の裏にある、龍王尊を祭る社には鯉をあしらった彫刻がある。神様として鯉が大切にされているのが分かるというものだ。

 記者が訪ねた2月は、残念ながら、「池の底で冬眠していらっしゃいます」(善宝寺の担当者)とのこと。水が凍っていて、様子を見ることもできなかったが、週末には、今でも「人面魚」を見に来る観光客がいるそうで、細々とブームは続いている。

「当時、話題になった『人面魚』はいまも元気にいらっしゃいます。30年ほど生きていますかね。4月から秋にかけては、そこそこの確率で会えます。顔はあのままなので、見ればすぐ分かりますよ」(前出の担当者)

 そんなに長生きだということ、今も人が来る、というのは、なんだかすごい。

テレビ画面

 普段は忘れていても、こうした一時期は毎日のように放送していたブームは、どこか記憶の底に意外としっかりと刻まれているようで、何かのきっかけで浮上する。

 昼間の平和なお散歩バラエティ。
 それを録画して見ていたら、妻が急に言った。

 「あ、人面魚」

 お店などを回るような番組で、そんな気配も全くなかったので、何を言っているのかと思って、だけど、確認のために巻き戻して、もう一度見た。

 確かに「人面魚」に見えた。

 あの、金色っぽい鯉で、おそらく種類は一緒だと思う。

 画面の片隅に、水の中を泳いでいたのを、妻は、よく見つけたと思ったけれど、それは、あのブームを知っていると、もしかしたら、自動的に発動してしまう記憶なのかもしれない。

 そして、この番組を制作している人たちは、こんな小さなことは気にしていられないだろうけど、もしかしたら何人かの視聴者は気がついているはずだ、と思う。(ただ、自分たちも気がついたから、実際は、思った以上の大勢の人がわかった可能性もある)。

 その場所は、六郷用水と言われる場所で、確か、江戸時代の農業用水を復活させたもので、自分たちの住んでいる大田区にあった。

 しかも、その用水の場所は、何度か歩いて通っているはずなのに、そこに「人面魚」らしき鯉がいることに一度も気がつかなかった。

「人面魚」撮影は難しい。

 放送から1ヶ月以上経ってから、その用水の場所を通る機会があった。

 私は、「人面魚」のことを、しつこく覚えていたが、一緒に歩いていた「発見者」の妻は忘れていた。

 その用水路を、いつもよりも集中力を高めて、見て、歩いたら、比較的、すぐに「人面魚」らしき鯉は見つかった。

 カメラを構える。なかなか、「人面」がはっきりと見える角度になってくれない。その上、その角度になったとしても、シャッターが追いつかない。

 それに、撮れた、と思っても、水の流れが乱れると、水面だけが映り込んでしまう。

 こういうときに、動物を撮影する難しさが、少しだけわかり、あの「人面魚ブーム」の時も、あんなにしっかりと「人の顔」に見えるように撮影するのは、大変だったのだろう、と改めて思う。

 そして、実は、この用水路には「人面魚」らしき鯉が、確認できた限りでは、2匹いて、この鯉の種類は、頭の模様が、場合によっては「人の顔」に見えやすいのではないか、ということもわかってきた。

 そして、何度もチャレンジして、なんとか、うっすらと、とても好意的な集中力を持ってもらえたら、「人面魚」に見えるかもしれない、くらいの写真を撮影するのが精一杯で、それが見出しの写真です。

「人面魚ブーム」は、難しい。

 もとの「人面」が薄めな上に、撮影技術がないので、おそらくはこれが限界なので申し訳ないのですが、やはり、「人面魚ブーム」の、あの魚のように、彫りが深いくっきりとした人面になっているのは稀なことで、その上で、それに対して、楽しめて、人が集まる。というのは、まだバブル期と言っていい1990年だから、可能なことだったのではないか、とも思う。

 今、同じようなことがあったとしても、もちろん人の注目はSNSなどで一気に集められるかもしれないが、おそらくは1日や2日、もしかしたら、もっと短い時間で、次の話題にうつってしまうのだろう。

 だから、今、「人面魚」が「発見」されても、あっという間に忘れられてしまうかもしれない。

 「人命魚ブーム」は、ちょうど(まだ)バブル期で、もしかしたら、何かしらの余裕があったせいで、毎日のようにワイドショーで、繰り返し報道していたから、そこに触れた人にとっては、忘れたくても忘れられないのでは、と思った。

 だから、ああいう「人面魚ブーム」を再び起こそうとしたら、それは、とても難しいのだとも思う。





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