「感染拡大の土曜日」。2021.1.16.
感染拡大。
重症者。
死亡者。
医療壊滅。
なるべくテレビを見ないようにしていたのに、そんな強くて、怖い言葉を嫌でも、何度も聞いた1週間だったように思う。
いつもと同じような駅のまわり
午前9時少し前に家を出る。
天気が良くて、気持ちがいいけれど、いつもの土曜日よりも、明らかに人通りが少ない。通学路になっている道路を歩いて駅に向かっているのに、学生と一人もすれ違わなかった。
珍しいことだった。
駅前の1000円カットの店の前にも、誰も並んでいなかった。
これもあまりないことだった。
駅のホームには、10人くらい人がいる。
いつもより少し少ない。
たぶん3歳くらいの小さい女の子が、ホームの一番端の日がさしている場所まで、弾むように、少しジグザグに走っていく。父親らしき若い男性が追いかける。女の子はホームの突き当たりまで行って、戻ってくる。笑顔のまま、走っていく先は、後から歩いていく、若い母親だった。
気がついたらホームは20人ほどになっていて、電車が来た。
冷たい風
車内は、これまでと、ほとんど変わらないような人の密度だった。
土曜日の朝だから、それほど混んでいないのだろうけど、座席はほぼびっしりと埋まっている。
私もそうだけど、立っている人もそれなりにいる。
窓は少し開いている。感染拡大予防、という目的のために、暖房が入りながらも、外の空気が入ってくる。
冬に乗り物の窓を開ける習慣がついてきていて、それが常識になっている。
電車の中で、冷たく硬い風を感じられるようになるとは思わなかった。
実は、そんな冬は初めてなのかもしれない。
駅に止まるたびに、乗客が増える。だんだん人口密度が増えてきて、体がくっつきそうな感じになってくる。途中の駅で乗ってきたダンディーな中年男性が真っ直ぐにこちらに向かってきて、距離をつめてきて、ここに人がいないような歩き方をするので、ちょっと怖い。人に囲まれたような形になり、気休めだけど、背中を向けてみる。
受験の季節
電車を乗り換える。
改札に入ったところのアルコールを使ったのは、その時も、私だけだった。
今度の車両も窓が少し開いている。
冷たい空気が流れ込んでくる。
座席はうまっていて、人が立っていて、そして、普通の土曜日にしか見えないまま、電車が走っていく。
あちこちで、会話が聞こえてくる。学生同士の話題は、どうやら受験に関することだった。コロナ禍でも受験のシーズンはやってきて、受験会場に人が集まって、どうなるのか?は受験生に罪はないけど、やっぱり不安はある。
受験をリモートで実施するのは、本当に無理なのだろうか。と詳細は、自分には分からないけど、ぼんやりと考えたりもする。
駅に着いたら、背の高い若い男がスピーディーに乗り込んできて、周囲への「距離」は全く気にしてないように歩いてくる。また、人に囲まれたような感じになって、少し怖いけど、そんなことを思っているのは、自分だけかもしれない、というようなことを思うと、よけいに不安にもなる。
窓の外は、天気がよく、空が青い。
いつもの夕方
午後4時過ぎに、帰りの電車に乗る。
いつもと同じ夕方。
それでも、東京の感染拡大に対しての恐れが、広がっているような言葉を、少しずつ聞くようになった。
今日も、東京都内の感染者数は、1800人を超えたニュースも耳に入ってきた。
電車内のドアの上の小さな画面は、珍しく、ずっと止まっている。今日は、ニュースもCMも流れていない。
隣の画面では、当面の間、深夜便を減らします。というお知らせが繰り返し伝えられているが、その理由として、緊急事態宣言により、国土交通省と、東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県の「要請」があったから、という文字を見て、そんな流れがあったことを、初めて知った。
目的の駅に着く。
エスカレーターは、混み合っているから、人との「ソーシャルディスタンス」が保てるまで待っていたら、数分はかかった。
駅の構内の隅に、手書きのようなポスターが並んでいた。
それは、ここの駅名を「あいうえお作文」にして、「受験生」と「新成人」に向けてのメッセージのようだった。そこには、負けるな。がんばれ、というような言葉と、それに近い前向きな文章ばかりが並んでいた。
申し訳ないのだけど、戦時中のスローガンと似ているように感じた。
アスリート
電車を乗り換える。
人の密度は、いつもの土曜日の夕暮れ時と変わらない。
出発間際に、体にピッタリとしたアスリートのような格好をしたピンクが目立って、口元はバンダナを改良したような、マスクよりもっとゆったりしたもので覆っている女性が二人、同じコーヒーと、小ぶりな紙袋を下げて、乗り込んできた。
何かの大会があったのかと思ってよく見たら、その二人は、意外と年配だった。それでも、目立って薄着だし、話し声も元気だった。寒がりで、体が弱い私から見たら、なんだか、うらやましい気持ちになった。
図書館のカード
最寄りの駅よりも一つ先の駅で降りた。
そこから、いつも行っている図書館へ向かう。
1度目の緊急事態宣言の時は、突然、閉まってしまった図書館だったけれど、今回の宣言では、それほどの変化はないようだった。
駅を降りてから、約5分ほど歩く。
その途中に黄色いカードが落ちていた。
自分も持っているけれど、図書館で使う「共通かしだしカード」だった。
拾って、名前を見たら、どうやら子供が書いたような文字に思えた。
これから図書館に行くから、持っていこうと思ったけれど、もしも、そういう用事がなかったら、届けるかどうかは、まだ微妙に遠い距離だった。
図書館に着く。
緊急事態宣言が出ても、今回は開いてくれていて、ありがたい。
あちこちに「ソーシャルディスタンス」をキープさせる目印や、空間を十分以上に空けた机やイスの配置は相変わらずで、それは当初はとても「異様」に思えたのだけど、気がついたら、この風景に慣れてしまっている。
入館して、アルコールで除菌をしてから、カウンターへ向かう。
ほとんど並んでいなくて、すぐに呼ばれた。
「これ、落とし物です」と、落ちていた「共通かしだしカード」をビニール越しに渡したら、すぐにバーコードを読み取っていたので、「あ、すみません。それ、落とし物で、拾いました」と伝えたら、こちらを向いて、「あ、そうですか、すみません…ありがとうございます」と答えてくれたけれど、この状況で、黄色いカードを渡したら、反射的に読み取るのは当たり前なので、「渡し方が悪いというか、もっとはっきり言えばよかったですね、すみません」と、また伝えた。
2冊を返して、予約して取り寄せてもらった2冊を借りた。
除菌のボックスに列ができている一方で、入館してもアルコールには手を出さずに真っ直ぐにカウンターへ向かう人もいる。
外はもう暗くなりつつあって、今日は三日月だった。
(他にもいろいろと書いています↓。読んでいただければ、うれしいです)。