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読書感想 『辛酸なめ子の独断!流行大全』 「2014から2021までの記憶のアルバム」
本当に、いろいろなことが起こって、うそのように、ほとんどすべてを忘れていく。
それは、おそらく私個人だけでなく、今を生きている人ならば、ある程度以上、同意してくれるように思う。
本当は、自分のことでなく、遠い場所で起こっていますよ、という報告が多いから、その出来事が身に染みていないだけなのかも、と思いながらも、それでも忘れてしまうことが多すぎるのではないか、とも感じる。
ただ、この本は、目次のタイトルだけでも、不思議なくらい、その忘れていたこと自体を、思い出した。
「辛酸なめ子の独断!流行大全」 辛酸なめ子
読者の皆様におかれましても、この本を手に取ってくださり、本当にありがとうございます。重量感があって恐れ入りますが、同時代に生きる同士として共感を抱いていただけましたら光栄です。
そんな「まえがき」で始まる本書は、250の項目で出来上がっている。
おそらくは、人によって違うはずだけど、懐かしさを覚えたり、そのことに関わる場面を思い出したり、さらには、全く知らないこともあったりするはずだ。しかも、それぞれの反応が起こる項目が、人によって、違うと思う。
例えば、私自身は、「2014年」でも、知らなかったこと。または、すっかり忘れていたけれど、その文章を目にした時に、かなり強めに思い出したこともある。
011 輪ゴムアクセサリー
アメリカで大ヒットした、輪ゴム編みキットが日本に上陸。
おそらくはかなりの人が知っていたから、ここであげられているのだろうけど、私にとっては全く知らないことで、知らないままに時間が経つことは、ちょっと不思議な気持ちだった。
014 アイス・バケツ・チャレンジ
これは、この文字を見た瞬間に、自分が確実にそのことを知っていたのを強く思い出して、そして、こんなにすっかり忘れていたことに、ちょっと驚き、すっかり忘れてしまうことに少し怖さを感じるが、普段は、その記憶にまつわることまで忘れてしまっていたのに、気がつく。
そして、時には、未来につながる過去まである。
004 伊達マスク
日本人のマスク率は高く、海外から来た人が驚くレベルです。
これは、6年後には、伊達ではなくなる。
選ぶこと
タイトルには「独断」とあるけれど、その選ぶ項目が「独特」だと、読み進むたびに、思った。
2015年
035 クヤクション
現代の錬金術と言えるでしょうか。財政的に厳しい東京都豊島区が国の補助金や住戸販売の収入などを得て財政支出ゼロで立派な区役所を建設。49階建ての1〜10階は商業施設と豊島区本庁舎、11階から上はマンションという合体方式で「クヤクション」と呼ばれています。
043 無
通販サイト、アマゾンで「無」が出品されていて、売れているらしいです。(中略)何も入っていない球体のプラスチックがパッケージに入れられています。
説明文には「全てを持っている誰かのための贈り物にいかがでしょう?」と書かれていました。
2016年
081 ペンパイナッポーアッポーペン
多額の予算をかけて世界的ヒットを目指したけれど失敗した数多のミュージシャンたちの嫉妬の念がうずまいていそうです。
こんな夢物語があるとは。
085 iPhone7に改名
前代未聞のキャンペーンを実施。姓名をiPhone7に改名したら、iPhone7を無料でもらえるというものです。オレクサンダーさんは家族に呆れられながらも、迷うことなく名前をiPhone、名字はSevenを、ウクライナ表記にした名前に変えたそうです。
さらに、「2017年」「2018年」「2019年」「2020年」「2021年」と続いていく。そして、その「選んだこと」から、揺るぎない視点のようなものを感じる。
冷静と情熱。インテリとミーハー。近さと遠さ。親密さと皮肉。複雑で、とても絶妙な視点から項目が選ばれていて、それは、作るのでなく選ぶことそのものがアートである、といった主張をしたマルセル・デュシャンと、どこか遠くでつながっているような気さえしてくる。
記憶のアルバム
それでいて、あくまでも著者の主観と結びついているので、その記憶に触れると、アルバムを開くように、読者にとっても、意外なほど、立体的なイメージになってくる。
2021年
227 Clubhouse
夢や野望が渦巻く「Clubhouseは、意識高い系が集まっている印象。(中略)
一方、日本では、何も話さずお互いフォローし合うだけの「無音部屋」という特有のカルチャーが発生しています。
230 高級ホテルの定額プラン
244 UFOレポート
ある調査では、人類の6割が地球外生命体の存在を信じており、接触したいと考えているそうです。
247 大江戸温泉物語の閉館
248 新宿の3D巨大猫
昨年、「2021年」でも、すでに記憶から薄れかかっているような出来事もあって、それは、年々、個人が接する情報が、どんどん多くなっているせいなのかもしれないが、こうした「記憶のアルバム」のような著書があることで、すべてを忘れる怖さからは免れられるかもしれない、とも思った。
おすすめしたい人
誰でも、今は膨大な写真を撮影し、映像の記憶は蓄積されているかもしれませんが、例えば、この7年くらいの「社会的な出来事」の記憶を、(効率よく)振り返りたい人には、おすすめしたい作品です。
おそらくは、どんな人でも、こんなことがあった、という微妙な高揚感と、こんなことがあったんだ、というような小さな驚きが起こりやすいですし、人によって、そのポイントが違うので、読み終えた人同士で、思った以上に話が弾むような気もします。
(他にも、いろいろと書いています↓。よろしかったら、読んでいただけると、うれしいです)。
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