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「戦争の法則」が発見されれば、「日常のすべて」が見直される、と思う。

 2022年は、コロナ禍が終息しない中、戦争が始まってしまった年にもなった。

 戦争が始まると、何もできない気持ちになる。
 そんなことを、実際に戦地になっていない場所で思うだけで、偽善的だと感じながらも、終わってくれるように願うしかない。



 戦争が始まり、何ヶ月も経つと、勝手なものだけど、その関心すら薄れていることを感じる。

ヒトはなぜ戦争をするのか? 

 最近になって、アインシュタインとフロイトの往復書簡を読んだ。それも、1932年、国際連盟の発案によるものだった。それは、第二次世界大戦に突入する頃のことだ。手紙は、アインシュタインから始まる。

 国際連盟(パリの知的協力国際委員会)から提案があり、誰でも好きな方を選び、今の文明でもっとも大切な問いと思える事柄について意見を交換できることになりました。このようなまたとない機会に恵まれ、嬉しいかぎりです。
「人間を戦争というくびきから解き放つことはできるのか?」― これが私の選んだテーマです。
 国際的な平和を実現しようとすれば、各国が主権の一部を完全に放棄し、自らの活動に一定の枠をはめなければならない。
 他の方法では、国際的な平和を望めないのではないでしょうか。

 それが、当時の国際連盟の目標の一つだったはずだ。

人間の心自体に問題があるのだ。人間の心の中に、平和への努力に抗う種々の力が働いているのだ。
 そうした悪しき力の中には、誰もが知っているものもあります。
 第一に、権力欲。いつの時代でも、国家の指導的な地位にいる者たちは、自分たちの権限が制限されることに強く反対します。

 その頃、アイシュタインは、ドイツにいた。ユダヤ人でもあるアインシュタインにとって、ナチスの台頭は、本当に脅威だったはずだ。こうした言葉↓も、後の時代から見ると、本当に意味合いが重いように思う。

「教養のない人」よりも「知識人」こそ、大衆操作による暗示にかかり、致命的な行動に走りやすいのです。なぜでしょうか?彼らは現実を、生の現実を自分の目と自分の耳で捉えないからです。紙の上の文字、それを頼りに複雑に練り上げられた現実を安直に捉えようとするのです。

フロイトからの返信

 そのアインシュタインからの手紙にフロイトが返信して、この往復書簡は一往復で終わる。ただ、それは、どちらかと言えば、絶望に近い答えにも思える。

人間が小さな集団を形作っていた頃は、腕力がすべてを決しました。
どのようにして法(権利)による支配へ変わっていったのでしょうか?答えは一つしか考えられません。多くの弱い人間が結集し、一人の権力者の強大な力に対抗したに違いありません。
暴力の支配から新しい法(権利)の支配へ移るにあたっては、人間の心のほうにも新たなものが芽生えていなければならないのです。多数の人間たちの意見の一致と協力、それが安定したもので、長く続かなければならないのです。 

 しかし、人間にはもともと、生きようとする衝動と共に、死への衝動の両方があって、だから、その片方だけを取り除くのは難しい。

今述べた二つの衝動は、あまねく知られている愛と憎しみという対立を理論的に昇華させたものにすぎません。(中略)
 ただし、気をつけねばならないことがあります。ともすれば、こうした対立物の一方を「善」、他方を「悪」と決めつけがちなのですが、そう簡単に「善」と「悪」を決めることはできないのです。どちらの衝動も人間にはなくてはならないものです。
過去の残酷な行為を見ると、理想を求めるという動機は、残虐な欲望を満たすための口実に過ぎないのではないという印象を拭い切れません。
「死への衝動」が外の対象に向けられると、「破壊の衝動」になるのです。(中略)精神分析学者の目から見れば、人間の良心すら攻撃性の内面化ということから生まれているはずなのです。 
 当面のテーマとの関連で言えば、こういう結論です。
「人間から攻撃的な性質を取り除くなど、できそうにもない!

 それでも、かろうじて希望のようなことを絞り出すように、手紙の最後の方で書いている。

 しかし、今の私たちにもこう言うことは許されていると思うのです。
 文化の発展を促せば、戦争の終焉へ向けて歩み出すことができる!

  アインシュタインは、この7年後に大統領にも手紙を送っている。

一九三九年 核分裂を利用した爆弾の話を聞き、ルーズベルト大統領に手紙を送る。ドイツよりも先にアメリカが核兵器を開発するように促す。

 その後、第二次世界大戦に本格的に突入し、しかもアインシュタインの相対性理論をもとにして原子爆弾が作られ、日本に使用された歴史につながる。

ハインリッヒの法則

人類史上、最も被害総額の大きかった事故ワースト10(中略)当然この新しいトップに福島第一原発事故がくる。

 ワースト10の、それまでの1位はチェルノブイリ原発事故で、約20兆円の損害ということらしいけれど、このランキングを見ると、10位のタイタニック沈没以外は、1980年代以降に起こっていて、チェルノブイリ事故を、福島原発事故が上回るとすれば、これからも、もっと被害の大きい事故が起こる可能性がある。

 そして、大事故は、予想もしない要素が重なって「偶然」に起きてしまうようで、大事故そのものを防ぐことは、人類ではほぼ不可能ではないか、とも思う。


事故の発生についての経験則。1件の重大事故の背後には、重大事故に至らなかった29件の軽微な事故が隠れており、さらにその背後には事故寸前だった300件の異常、いわゆるヒヤリハット(ヒヤリとしたりハッとしたりする危険な状態)が隠れているというもの。「1:29:300の法則」とも呼ばれます。

 だから「重大事故」を直接防ぐ、というのではなく、日常的に起こり得る小さな事故を、いかに防ぐか、に集中する、ということを促すのが「ハインリッヒの法則」ではないだろうか。

 重大事故は、抽象的というか、自分には関係のないことのようにも思えてしまうが、「ヒヤリハット」として、毎日の小さな危機をどう防ぐか、ということなら可能だし、人類の能力では、それが限界のはずだ。

「戦争の法則」

 戦争も、これと似ている部分がないだろうか。

 「戦争に反対」をしても、直接、止めることはできない。始まってしまう時も、よく分からない偶然が重なって、人類では、どうしようもできないように思う。

 だから、戦争が起こるときは、その背後には、戦争まではいかないが危機的な状況があって、さらにその背後には、これが戦争につながるとは思えない日常的な無数の出来事がある。

 実は、そんな「戦争の法則」があって、それが発見され、戦争を起こさないために、個人としてできることは、「戦争の反対」への意思を表明するだけでなく、その日常的な「戦争抑止」の具体的な行動をする、もしくは「戦争促進」の行動をしないように意識する。

 そんな近未来が来ないだろうか。

危機的な状況

 ロシアは自由民主主義の代替モデルを現に提示しているが、このモデルは首尾一貫した政治イデオロギーではない。むしろそれは、少数の寡頭制支配者が国の富と権力の大半を独占し、それからマスメディアを統制して自らの活動を隠し、支配を強固にする政治的慣行だ。(中略)だが政府がマスメディアを統制すれば、リンカーンの論理が崩れる。国民が真実に気づけなくなるからだ。寡頭制政権はマスメディアの独占を通して、失態をすべて他者のせいにすることを繰り返し、外部の脅威(それが実在のものであれ架空のものであれ)へと注意を逸らすことができる。

 ウクライナへ攻撃を始める前のロシアの状況は、このように描写されている。

 そして、第二次世界大戦後も、世界各地の戦争に関わってきたアメリカの状況も、こう表現されている。

支配者たちは、さらに独占的となった経済の上層部から選ばれるようになりました。“経済の上層部”というのは、時には強奪も辞さない巨大な金融機関であり、国に保護された多国籍企業であり、さらに、これらの企業の利益を代弁する政治家たちです。

 この2国の状況で共通するのが「独占」という言葉だ。
 アメリカは2大政党制ということにはなっているものの、実質的には、本当に対立する2大政党ではない、ということなのだろうか。

 戦争に直接的につながる「危機的な状況」は、シンプルすぎるような気もするが、やはり「独占」という「権力の集中」だった。

格差是正

新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、世界の富裕層と貧困層の格差が広がったことがわかった。フランスの経済学者トマ・ピケティ氏らが運営する「世界不平等研究所」(本部・パリ)が発表した。世界の上位1%の超富裕層の資産は2021年、世界全体の個人資産の37.8%を占め、下位50%の資産は全体の2%にとどまった。

 「戦争の危機」を考えれば、「権力の集中」は避けなければならないことで、この「格差」の広がりは、いろいろな問題点が指摘されているものの、「戦争抑止」のためにも、「格差是正」が重要な要素なのは、明らかなように思える。

 もしも、「格差是正」は、戦争を起こさないために重要な要素になることが、科学的に証明されれば、この「格差是正」への取り組み方は、また意味合いが変わってくると思う。

マスメディアの役割

マスメディアを統制して自らの活動を隠し、支配を強固にする政治的慣行だ。(中略)だが政府がマスメディアを統制すれば、リンカーンの論理が崩れる。国民が真実に気づけなくなるからだ。寡頭制政権はマスメディアの独占を通して、失態をすべて他者のせいにすることを繰り返し、外部の脅威(それが実在のものであれ架空のものであれ)へと注意を逸らすことができる。

 これは、前出したロシアの内情だが、こうならないためには、マスメディアの役割が、建前とかきれい事ではなく、過度な「権力の集中」を防ぐために「権力の監視」としての機能が必要で、それは「戦争」を防ぐために必要なのではないだろうか。

 そうであれば、「マスメディアは第四の権力」という言い方もあるけれど、実は、それは「権力の集中」を防ぐためにも必要なことで、「戦争抑止」に必要ということになれば、マスメディアへの見方も変わってくるように思う。

選挙

 「権力」を選ぶためにも、「選挙」は重要で、その際に「投票」に参加する人間が少ない場合は、「権力の集中」を招きやすい。

 だから、投票率を上げることは、もしかしたら「戦争抑止」のためにも必要かもしれないけれど、ただ、その投票が適切な判断なしに行われるとすれば、それは、投票率が上がったとしても、不適切な「権力の集中」を招いてしまい、結局は戦争に近づくことになるはずだ。

 その前に、何しろ「政治への無関心」が、「戦争促進」につながる行為であることが証明されるかもしれない。

 そうなれば、投票率の低下というものが、もっと深刻な問題として語られ、だからこそ、その改善について、さらに真摯に取り組まれる可能性がある。

日常的な「戦争抑止行為」と「戦争促進行為」

 「ハインリッヒの法則」から言えば、日常的な事故につながりそうな「ヒヤリハット」にあたる部分。日常的な「戦争促進」と「戦争抑止」の両方の行為が、もし明らかになれば、微力でありながらも「戦争抑止」について、確実に協力できることが科学的に証明されるだろうから、社会が変わってくることさえあり得る。

 それは、フロイトが「文化の発展」と表現した部分であり、極端に言えば、仮に「権力が集中」したとしても、戦争につながりにくいような社会にしていく、ということになるはずだ。
 
 そのためには、(可能であれば)「戦争促進」行為を明らかにし、それを意識的に減少させることが一つの大事な方法になる。

 まだ何の根拠もないが、おそらく、すべてのハラスメント行為は「戦争促進行為」であり、もちろん、いじめも「戦争促進行為」になりそうだ。そうした行為が積み重なっていけば、遠く「戦争」につながっていくかもしれない。

(例えば、いじめを受けた側の発言で明らかになった、過去にいじめをした人間上の、現在の言動も、戦争促進につながるような気がする)

「久しぶり。いじめのやつ記事で見たんだけど、いじめてる側に俺って入ってる?」
確認の連絡だった。中心となっていじめていた人物だった。
「家族ができたから、名前を出さないでくれ」
謝ることは一切なかった。

 

 心身がすり減るような長時間労働も、弱った状態にある人を切り捨てるような政策も、その時は、危機を乗り切ったとしても、「戦争促進」につながっている。もちろん、男女不平等であることも「戦争促進」に近づく。

 それが「戦争の法則」の発見によって明らかにならないだろうか。

 その上で、こうした行為を「戦争促進行為」として明確に意識することで、それだけで、その減少に少しでもつながりそうな気がする。

「戦争抑止」行為

 「戦争抑止」行為は、どのようなことになるのだろうか。

  人に優しいこと。困った人に手を差し伸べること。
 
  そうした行為は、おそらくは「戦争抑止行為」になりそうだ。

 これまでも実は多くの人が、薄々と気がついていたような、人が住みやすい社会にすることは、「戦争抑止」につながりそうだ。そうなれば、正直者がバカを見ることは少なくなるし、本当に優しいことが、もっと価値が高くなると思う。

 こうした行為が蓄積すれば、一つ一つは微力であっても、「戦争抑止」に確実につながることが分かれば、世の中は変わっていくと思う。

資本主義

 ただ、もしも、「戦争抑止」につながる行為が、科学的に明らかになったとして、さらにその研究が進んだ場合には、人類が大きな決断をする時が来るような予感もある。

 進歩することは、実は「戦争促進」につながる。
 本当は、資本主義というシステムは、戦争との親和性が高い。

 もし、そんなことまでが明らかになってしまったときは、人類はどうするのだろうか。


 ただ、ここまでの話が、すべてが仮定であり、粗い考えであり、ある種の妄想に近いのだけれども、世の中には、優秀な人も多いので、少なくとも「ハインリッヒの法則」のような、日常的な行為にまで言及するような「戦争の法則」を提唱する人が出てきてもいいのではないか、という気持ちがある。

 それは、勝手な願望なのは分かっているのだけど、誰かが考えて、明らかにしてくれないだろうか、と改めて思う。






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おちまこと
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