「有名であることの正しい利用法」-----星野源
音楽は幅が広く、量も圧倒的だから、興味を持ち始めると、キリがなさそうな印象はある。
それに、耳の良さ、といったことも関係してきそうだから、幼い頃から音楽にあふれる環境でもなかったし、電機メーカーのモニターのバイトをした時には、音を聞き分ける能力を問われる仕事は減っていったし、若い時にはおしゃれな同世代が聞いている音楽のことを知らなかったから、なんとなく、音楽に対しては、ずっと気持ちの距離があった。
だから、音楽産業から見たら、あまりいいお客ではない自覚はある。
それでも、時々、もう少し知りたくなる音楽関係者はいる。最近は、これだけ人気になったら、誰でも知っている存在になったのだけど、私でもやはり星野源が気になっている。
作品
そんなに熱心なファンでもないのだけど、ある映画で流れていたのが星野源の「季節」だと知り、そのアルバムも聴いた。
音楽に詳しくない人間でも、その内省的な要素と、多くに届く感じのバランスが良くて、魅力的に聞こえた。しばらく繰り返し聴いていたと思う。
同時に、その著作も気になって、読んだ。
そこには、本当に命に関わる病気になり、回復したあとに、もう一度、命の危険がある手術を受けなくてはいけなくなった経験まで書かれていた。それは、本人にしか分からない言葉にできにくい恐怖のはずだけど、それをなるべく伝わるように、日常は、エロなど他のこともあるように、きちんと伝えていることがすごいと思った。
話す言葉と、歌声と、文章が、それほど変わりなく感じる人は、とても稀な存在だと感じた。
人気への覚悟
その後、「イエローダンサー」というタイトルだから、そこに明らかに色々な主張もあるようなアルバムを出した。
2015年の年末には紅白歌合戦にも初めて出演し、「こんばんはー。星野源です」と言い、その翌年には、「逃げるは恥だが役にたつ」というドラマの主演をつとめ、主題曲も担当し、さらにそのダンスまで踊り、おそらくは、星野源本人が思った以上に、人気が高まってしまったように見えていた。
考えたら、「逃げ恥」も、恋愛コメディーでもあるのだけど、現代の、特に結婚に関わる大事なテーマを、かなり先鋭的に扱っている作品だから、星野源との相性がいいはずだと、あとになって思った。
「イエロー」をタイトルに掲げたあとに「ポップ」という広がりを持たせるアルバムを2018年に発売していて、このあたりから、視聴者の勝手な印象として、国民的歌手というような立場を背負う。そんな覚悟を本格的に持ったように見えていた。
もちろん、ただメディアなどを通じて見ることしかできない人間の勝手な印象ではあるけれど。
有名であることの利用
さらには、実作や表現だけではなく、作品の紹介の仕事も手がけている。
2019年には、細野晴臣の曲を、星野源が選んでアルバムを発売している。
私のように、細野晴臣といえば、まずYMOしか思い浮かばないような人間にとっても、さらに幅が広い音楽を制作してきたことは少なくとも伝わるし、こうして、自分が感じてきた凄さを形にすることで、その人への正当な評価を確立させようとしている利他的な行為に思えていた。
さらに、NHKで「おげんさんといっしょ」というバラエティーは、国民的人気のようなものを意識しているようにも思えたのだけど、2022年に始まった「おんがくこうろん」は、私のような音楽に詳しくない人間にとっては、その番組で扱う音楽家が、知らない人ばかりだけど、実は音楽史的には重要な存在を紹介してくれていて、これは今の「人気のある」星野源だから可能になった企画だと感じた。
それは、星野源という一人のミュージシャンだけのためではなく、さらには「ポップミュージック」にとどまらず、音楽そのものへの啓蒙に見え、これは、有名であることの正しい利用法だと思えた。
さらには、音楽を、自分のセンスや知識のマウンティングなどではなく、好きな音楽を聴く、という楽しさや、自分がいいと思った楽曲を好きな相手に紹介する、という日常的でありながら、特別な感覚そのものを伝えようとする番組まで始め、2024年にはレギュラー放送になった。
これも、音楽ファンそのものを増やすような、山下達郎や草野正宗が、ラジオで行っていることと近い印象はある。それも、テレビという、下り坂とはいっても、まだより多くの人間が接しているメディアで星野源は行っているから、公共的な意味合いに近い行為や、使命という言葉を思い出すようなことだし、あまり因果関係のように語るのは失礼だと思うものの、命の危険に二度もさらされたことを、今も忘れていないのかもしれない。
こうした様々な星野源の行動は、有名になったことの正しい利用法だと、再確認できた気持ちになっている。
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