『「日常」になってしまった緊急事態宣言』。2021.1.30.
寒い。
天気がいい。
青い空を見ると、反射的に気持ちがよくなってしまう。
午前9時前に家を出て、駅までの道に、歩いている人は少ない。
気温が低いけれど、駅前の1000円カットの前に一人だけ並んでいる。薬屋はもう開いている。
親子
駅のホームは、まだ10人も人がいない。
黄色と黒が市松模様のようになっているダウンジャケットを着て、黒いマスクに、パーマをかけた若い男性と、まだ幼い女の子の親子がいる。
男性はスマホを見ながら、相手をしていけれど、「かごめー、かごめー」と歌いながら、男性の周りを女の子がスキップするように回って、そのうちに、男性もそれに巻き込まれるように一緒に笑っていて、その会話と笑い声は、そのあたりに楽しさを振りまいていた。
ホームに立っている若い女性が素手の両手をさすっていて、それは寒さを改めて思わせる。
電車が来て、待っていた乗客は乗り込んで、黄色と黒のダウンを着た親子は、車両のすみっこの座席に、女の子だけを座らせて、男性はそのそばに立って、会話は笑顔で続けている。
窓は何ヵ所か開いている。
座席
座席はところどころ隙間がある。
小学生くらいの女の子が、そこに座る。
隣の若い男性が荷物を自分の横に置いて座っているので、一人分よりも、かなり狭くなっていて、そこに女の子は、身を縮めるように、だけど、狭くなったスペースにぴったりと収まるように座っているけれど、荷物を置いた男性は微動だにしない。
女の子は文句は言わないが、微妙に困ったような、怒ったような顔をしているように見える。それは正当な表情に思えた。
次の駅で、その男性が立ち上がった時に、座席に置いていた荷物がリュックだと分かったが、その男性がいなくなった場所に、女の子は寄って、ちゃんと一人分のスペースに座れるようになった。
アルコール除菌
駅に着いた。
乗り換える。
ターミナル駅でもあるけれど、人手も特に減ってもいない。
改札を出て、また新しい改札に入る。
そこにあるアルコールを使うのは、今日も私一人だったけれど、寒くて手袋をしていたから、それをとって、除菌をした。荷物を落としたりして、バタバタした。その後に、手袋を除菌したほうがいいのかと思ったが、何が正解かも、まだ知らないままだと思った。
ファッション
電車が来た。
窓は薄く開いている。
カジュアルで、オーバーサイズで、どちらかといえば、ヒップホップと言われるようなファンションの同じような背丈の男性が、ドアのところに二人並んでいる。一人はエビスジーンズを履いていた。その二人は知り合いかと思ったら、一人は、車両のこちら側に歩いてきて、セキをしている。
優先席に目をやったら、ムーミンのキャラクターの「ミー」が肩にある上着を着て、キラキラした星のマークのついている手袋をして、ルイヴィトンのバッグを持っている中年女性が座っている。
ドアの上の小さな画面にニュースが流れる。
伊豆の土肥桜見ごろ。
大坂なおみ、セリーヌと熱戦。
米GM 35年までに、電気自動車へ。
ANA 過去最大3095億円赤字。
元・栃の海 死去。
米 ワクチン 有効性 89パーセント。
髪色を薄いブラウンにした若い女性が、ピンクのコートや、靴の色や、持っている薄いページュの紙袋も含めて、全身で、とてもセンスのあるコーディネートをしているように見えた。
比較的、私の近くにきたエビスジーンズの男性が、最初、軽めだったのが、何度かセキをして、そのうちかなり重いセキをしたので、マスクはしているけれど、ちょっと怖くなって、静かに動いて、車両をかえた。
「ソーシャルディスタンス」を、なるべくとろうという習慣は続けているけれど、自分だけが一生懸命やっているような気もしてくる。
次の車両
うつった車両は、静かな中に、鼻水をすする音が、あちこちからさざなみのように聞こえてくる。
ここもちょっと怖かった。
女子高校生が座席に座って、メモ帳に何かを一生懸命書いている。目を描いていた。それも少女マンガの登場する人物のような、たぶん、左目だけを描いて、結構完成度が高いと思っていたら、次に見た時は、その目を塗りつぶしていた。
ドアの側に立っていて、その光景が目に入っていたのだけど、座席に座っているすぐそばの若い男性が、マスクを下げて、ティッシュで鼻をかみ始めた。
それで、そこから遠ざかった時、さっきの女子高生は、また何かを描き始めていた。
目的の駅で降りた。階段をのぼって、改札へ向かう。先に歩いている中年男性が、少し立ち止まった。構内の中にあるアルコールで除菌している人を、ここ何ヶ月かで自分以外で初めて見た。
夕方の電車
午後4時過ぎに用事が終わり、また駅に着いたら、ほぼ小走りの若い男性の4人くらいのグループに、追い抜かれた。1人はマスクはしているけれど、アゴに下げているのが見えて、なんだか元気に会話をしている。
さらに、その先のホームへ降る階段では、「来てる、来てる」と言いながら、さらにスピードをあげて、ホームから出発しようとする電車に乗り込んでいったのが見えた。
それだけで、その場所に活気が起こって、少しの間、漂っていた。それは、以前と変わらない駅の光景のように感じた。
私は、隣のホームに、その後に来た電車に乗った。
いくつ目かの駅で人の出入りが多く、中年の短髪の男性が乗り込んでくる。持っている荷物を、私のカバンに当てながら、全く気がつかないように車内を真っ直ぐ歩いて、ドアの側で立っていた。周囲の様子は目に入らないようだった。
窓は少し開いている。
電車の上の画面にニュースが流れる。
ドイツのワクチンの許可に関すること。
W H O中国武漢調査。
それらは朝にはない内容だった。隣の画面には、人身事故で止まっている路線の情報が表示されている。
乗り換え
もうすぐ自分も降りる駅で、同じように降りる客の中に、少し小柄な男女のカップルが、もうドアの前で並んで電車の外側を向いて立って、イヤホンを片耳ずつさして、手をしっかりと、いわゆる「恋人つなぎ」をして、男性は体を横に揺すって踊って、二人で笑っている。かなりカジュアルな格好で、統一感のあるファッションだった。
楽しい空気が、周囲にまで伝わる。
電車を降りたら、ホームにアナウンスが流れる。
踏切で非常ボタンが押されました。しばらく停車いたします。遅れまして、申し訳ありません。
改札を出る前にアルコールで除菌をしたが、ここでは私一人だけだった。
次の改札に向かうときに、電車の発車時刻を示す電光掲示板の下には、人身事故による現在止まっている路線の名前が流れている。
そのそばには、コマーシャル映像が流れる画面が2つ並んでいるけれど、ここ1ヶ月くらい、ここを通るたびに、長友のリフティングからのボレーの映像を毎回目にしていたことを、改めて思い出した。
ニュースを見たら、さらに緊急事態宣言が延長されるらしいけれど、ただ飲食業も含めてダメージが大きくなるだけで、感染拡大防止に、本当に意味があるのかどうか、という気持ちになる。
それだけ、緊急事態宣言の日々が、「日常」になってしまったように思った。
(他にもいろいろと書いています↓。よろしかったら、読んでいただければ、ありがたく思います)。