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〇〇と僕『せ』~先生と僕~

先生。
知識も経験も浅い子どもにとっては、親と並ぶ絶対的存在。
しかし時は経ち、いつしか僕も大人になった。
なった?
う、うん、なったよ……。

嫌々ながらも勉強をして知識を身につけ、社会に飛び出して様々なことを経験した。
そうするとだ、あの頃絶対的存在であった先生の見方も変わってくる。
なんの情熱もなく職業としてやっていたんだなぁと思い返す先生もいれば、なんであんな阿保が先生になれたんだかって思ってしまう先生もいる。

しかし、中には、未だに尊敬して止まない先生もいる。


1人は高校のバスケットボール部の顧問、鬼のケンジ先生である。
授業中はいたって普通の良い先生。
物腰が柔らかく、笑顔を絶やさない。
時折冗談を挟みながら、飽きさせることなく上手に授業をする先生だった。
しかし、ひとたび部活の時間になれば、眉毛を吊り上げ怒号をまき散らす鬼と化す。
授業中の様子しか知らない同級生は信じられないと言っていた。
しかし僕たちバスケ部からは、授業中のケンジは羊の皮を着た狼ならぬ、教師の面をかぶった悪魔にしか見えなかった。

シュートを外せば怒る。
シュートを入れると真面目に走れと怒られる。
真面目に走れば声が小さいと怒られる。
挨拶は立ってしろ。
目上の人の前で腕を組むな。
道具を大事にしろ。
バスケ以外のことも怒られる。
毎日毎日怒鳴られ続け、一度も褒められることなく、高校最後の試合が終了。
なんだかんだで楽しかったなぁなんてやりながら、コートの隅で片付けをしていると、近寄ってきたケンジ先生。
お、怒られる!と思った瞬間、握手を求めてきたケンジ先生。
戸惑いながら握手。
「お前がキャプテンだったおかげでいいチームになった。ありがとう。」
と、目を潤ませながらケンジ先生。
そりゃぁズルいぜ。

社会に出てから、ケンジ先生にがみがみ言われ続けた言葉たちを思い出すことが何度もあった。
意味もなくただ怒鳴っていた訳ではないことに気付いたのは大分後だったが、その教えは今もしっかり僕の中にある。
そして、今も先生として尊敬している。


もう一人は、ヤストモさんである。
学校の先生ではなく、中学生の頃通っていた英語塾の先生だ。
夫婦でやっている小さな英語塾だが、とにかく評判が良く、毎日多くの中学生が通っていた。
しかし、ヤストモさんからまともに英語を教わった記憶がない。
90分授業のうち、60分はヤストモさんとみんなで雑談。
『テレビっ子の話』、『読書は大事だって話』、『町議会議員だった話』、『間違って万引きした話』、とにかく色んな話をした。
ヤストモさんが話しを始め、僕たちは必死に揚げ足をとる。
それに対してヤストモさんがやり返す。
くだらな過ぎて全員馬鹿笑いで終わる時もあれば、真剣な議論に展開することもあった。
中でも1番覚えているのは、『遊べない子どもの話』。
「ゲーム、テレビ、おもちゃ、絵本なんてものを小さい頃から与えられ続けた結果、遊びを作り出せないガキが増えた。お前らもゲームなんてやってないで本気で遊べ。本気で遊べないやつは本気で勉強出来ないし、本気で仕事も出来ない。」

なるほど。
じゃあ、とことんやってやろうじゃない。
ってことで、その次の授業の日。
始まる1時間前に集合し、塾の目の前の公園で雪合戦。
やがて公園を飛び出し市中戦に発展。
家の屋根にも飛び乗り雪玉を投げ合う。
もちろん塾の屋上にも登り暴れる。
命懸けの雪合戦。
そして、外に出てきてブチ切れるヤストモさん。
雪合戦強制終了。

「なにやってんだ、バカタレ!」
「本気で遊んでました。」
「それは構わん。でも俺の家の屋根ではなく違う人の家の屋根でやれ!」

そんな無茶苦茶なヤストモさん、塾を卒業する時もカッコよかった。
「これからは町で会っても先生ではなくヤストモさんと呼べ。俺はみんなをさん付けで呼ぶ。今後は先生と教え子ではなく、人間と人間で付き合っていこう。」
ってな訳で、高校に入っても定期的に交流は続いた。
30歳の時、銀髪で訪問した際も温かく向かい入れてくれた。
帰省した際には、また必ず会いに行こうと思っている。


若い頃に、大人になっても尊敬出来る先生に出会えた僕は幸せだと思う。
今日もその教えを大切にしながら、挨拶をしっかりして、本気で遊び、本気で仕事に臨もうと思う。


今回の1曲は、ケンジが愛して止まなかった長渕剛。
遠征へ向かう車中で流れるのはいつも長渕剛。
しかも、筋肉ムキムキ、なにを言っているか分からなくなってからの長渕剛。
ケンジ先生、ごめんよ。
僕は声が透き通っていた頃の長渕剛が大好きなのだ。


『長渕剛 / 俺らの旅はハイウェイ』を聞きながら
FJALLRAVEN by 3NITY TOKYO 池守


『〇〇と僕』←過去の記事はこちらからお読みいただけます!是非!

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