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〇〇と僕『い』~異邦人と僕~

子供たちが〜空に向かい〜♪
両手を~ひ~ろ~げ〜♪

皆さんご存じ、久保田早紀さんの名曲『異邦人-シルクロードのテーマ-』である。
ミステリアスな雰囲気と幻想的なメロディーライン。
限りなく透明なのに、どこか奥底に影を感じる美しい歌声。
眼前が開けた感じのブリッジからコーラスに戻る瞬間、突如胸の奥をつかまれる感覚。
最高。

僕はこの曲を聞くと必ずある出来事を思い出す。
それは小学5年生の学芸会。
僕がまだ可愛かった頃のお話。

「今年の学芸会で5年生が演奏する曲は『異邦人』です!」
「はーい!」
「じゃあパート決めまーす。」
「はーい!」

出来ればトライアングルかカスタネットが良い。
タンバリンも良いね。
一度も吹かなくて良いのならリコーダーでも構わんよ。
兎にも角にも、極力出番が少ないパートが良い。
しかし、残念ながらトライアングルもカスタネットもない。
そして楽譜を見てもどのパートが楽なのかがわからない。
困った。
どうしよう。
ってやっていると、隣に来た仲良しのフジ君。
「一緒に鉄琴やろう!」
「うん、いいよ!」
んで、鉄琴に決定。

さて、困った。
とりあえず、四苦八苦しながら音符にド・レ・ミを書き込む。
しかし、まず『異邦人』を深く知らない。
んで、メインのメロディーはアコーディオンの担当だから、鉄琴はいつどのタイミングで鳴らせば良いか全くわからん。
音符から出ているニョロってやつの意味も知らなければ、左に書いてある記号の意味も知らない。
途方に暮れる僕。
そして、その横で同じく途方に暮れるフジ君。
チーン。
そもそもなぜフジ君は鉄琴にしようと言い出したのか。

しかし、決まってしまったからには仕方ない。
本番までには何とかするとして、まずはやってるフリで誤魔化そう。
あんまり強く振ると、寸止めに失敗してとんでもない所でチーンと間抜けな音が鳴りかねない。
細心の注意を払いながら、先っちょの玉で鉄の鍵盤をそっと撫でる。
叙情的な表情で曲に入り込んでる雰囲気をかもし出しながら、撫でる、撫でる。
先生の指揮を凝視している風を装い、作りこんだ真剣な顔付きで、撫でる、撫でる、撫でる。

ってな感じで練習を誤魔化しながらやり過ごしていたら、あっという間に学芸会。

「次は5年生の合奏です。曲は『異邦人-シルクロードのテーマ-』!」
そしてゆっくりと上がる幕。
拍手で迎える父母と児童。

磨き込んだ叙情的な表情を振り撒き、練習した通りに鍵盤を撫でる。
隣りでフジ君も鍵盤を撫でる。
背中を流れる脂汗、細かく震える指先。
それでも僕たちは全力で鉄琴を撫で続けた。

そして音を1度も出すことなく演奏終了。
主旋律ではないため、鉄琴の音がなかったことに気付いた人はいないだろう。
作戦成功。
そして、拍手喝采。
僕とフジ君はなんとも言えない表情で、その拍手を浴びながら舞台を降りた。

んで、帰宅。
先に帰宅していた母ちゃん。
「ただいまー!」
「……。」
「あれ? ただいまー!」
「しゅんすけ、ちょっと来なさい。」
ヤバい。
これはヤバい。
完全に怒っている時の声のトーン。
「は、はい。……。なんでごさいましょ?」
「これを見なさい。」
って母ちゃんがビデオのスイッチをオン。
テレビに映し出されたのは『異邦人』を演奏する5年生。
一所懸命、必死な顔で演奏するクラスメイト。
一通り全体を映した後、カメラはその右奥にズーム。
そこには、すべての筋肉が緩みきった阿呆ヅラで、鉄琴をただただ撫でている僕。
世界阿呆ヅラ選手権があったら、ぶっちぎりで優勝間違いなし。

「しゅんすけ、これはなに?」
「た、ただの通りすがりです……。」
『異邦人』の歌詞を引用した小粋な返答が虚しく響く。そ
して、母ちゃんのゲンコツ炸裂。

ゴツンッ!!

僕は『異邦人』の歌い出しよろしく、両手を広げて天を仰いだ。

人生の割と早い段階でステージでの大失態を演じたわけだが、その10年後、僕は幾度となくステージに立ち人前で歌を歌うことになる。
本当に人生とはなにがあるかわからんもんだ。
ってことは、これからもなにがあるかわからんね。
とりあえず、いつドラフト1位指名がかかっても良いように、肩だけはつくっておこうと思う。

では、また。

『久保田早紀 / 異邦人-シルクロードのテーマ-』を聞きながら
FJALLRAVEN by 3NITY TOKYO  池守


『〇〇と僕』←過去の記事はこちらからお読みいただけます!是非!

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