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記事一覧
二次会デミグラスソース #毎週ショートショートnote
1月の第三日曜日は、商店街の新年会だな。そう言えば去年は大変だったなあ。二次会では、酔って必ず揉めるんだが、去年は果物屋の親父が洋食屋の味に難癖をつけて「テメェんとこの煮込みハンバーグはデミグラスにコクがたりねえんだよ。俺んとこのマンゴーでも隠し味にいれてみろ。格段に味がよくならぁ」などと言ったものだから、しまいには取っ組みあいの大喧嘩さ。でもさ、洋食屋の親父があの後実際にやってみたら確かに美味
もっとみるかあちゃんの若いころは…(ショートショート)
「若い頃F1が好きだったんだよ。」と父ちゃん。「F1て何?M1なら知ってるけど…」とボク。「M1じゃないよ、F1。カーレースだよ。」横からかあちゃんが口を出す。「アンタが好きだったのは、レースじゃなくて、レースクイーンでしょ。車そっちのけで女の子ばっかりカメラで追ってたくせに。」
「レースクイーンって女のひと?何してるの?」とボク。「若い女の子がね、ハイレグのコスチュームで、ビール会社の傘とか持っ
チャリンチャリン太郎【毎週ショートショートnote】
4月のある日、転校生がやってきた。「茶林太郎です」耳慣れない苗字にどよめきがおこった。「チャバヤシって言いにくい。あだ名はないの?」「前はチャーリーって言われてたけど…」「チャーリーはかっこよすぎや…」
俺たちの住む地区では巨大団地を造成中で、茶林太郎は土建会社の社員寮にオカンと住んでいた。遊びに行くといつもオカンがヤカンでカルピスを出してくれる。いつしか仲間の溜まり場になってしまった。夏の
フシギドライバー #毎週ショートショートnote
助手席の相棒は表を確認して言った。「次の届け先は公園ですね。そこで少年に手渡します」
公園に到着すると、5歳ぐらいの男の子が砂場で遊んでいる。俺が近寄ると、少年は真っ直ぐな視線を向けてきた。
「ボク、この箱をあげる」
少年は受け取るとすぐにフタをあけた。出てきたものは木の枝で、先端に楕円形の膨らみが付いている。するとそれは見る間にムクムクと膨らみ、真ん中から少しずつ裂け始め、やがて美しい模様が
初めての鬼 #毎週ショートショートnote
その島は豊かな森と白浜がある美しい島であった。森には果樹が数多くあり、誰もがその実を手にする事ができた。浜では海藻や貝が拾え、一度網を打てば多くの魚を獲る事もできた。島民たちは、穏やかな暮らしを享受していた。
島の存在は徐々に世に知られるところとなり、島民を脅かすよそ者が侵入することが多くなった。「不逞な奴らから島を守らねば」島民たちは話し合ったが、武術の心得がある者もいない。やがて
タイムスリップコップ #毎週ショートショートnote
「ウケると思うんだよなー。
タイムスリップコップ待望の続編!」…またその話か。
「みちるさん。パート3が終わってから30年経ってるんすよ」度々聞かされる話に、マネージャーの俺は辟易していた。「そうかなぁ。この間もCSで放送されて話題になったんだぜ。タイムスリップー、コップ!」松下みちるはそう叫ぶとタイムスリップコップ・ジョーのポーズをキメている。人気なのは30年前のアンタだよ。そう言いたくなるのを
株式会社のおと #毎週ショートショートnote
俺の会社「株式会社のおと」では、世の中のあらゆる音を再現し提供している。今回の依頼は老舗洋食屋の音。厨房の音、客の会話など店の音全てを再現して提供する。
程なく我々の技術の粋を集めた音源は完成、俺は依頼者と共にある病院の一室を訪ねた。病室に洋食屋の音が流れ出すと、依頼者の女性は、ベッドの男性に話しかける。
「油のはねる音が聞こえる?あなたの好きなカツを揚げる音よ」
フライパンで何かを炒める音。ナ
革命前夜 #感想文部 #毎週ショートショートnote
ファルス共和国では、毎年青少年を対象に読書感想文コンクールを実施している。
課題作は毎年同じ「ファルス共和国ポコーチン大統領閣下自伝」。
生徒たちは、教師の指導により、大統領の人生をひたすら讃美する文章を書かされる。参加作品はどれも似たり寄ったりだ。
「ポコーチン閣下は、青春の全てをかけてご自分をしごかれました」「ポコーチン閣下の指導の下、我がファルス共和国は必ずや世界に膨らみ聳え立つことでしょ
遊園地にて #140字小説
「次はきっと乗れるよ」遊園地のジェットコースター乗り場前で、私は孫を宥めていた。孫は身長制限にかかり乗れなかったのだ。だが私は内心ホッとしていた。五歳児が乗るには、大人が同乗せねばならない。実はジェットコースターが大嫌いなのだ。「次は大丈夫」そう言い聞かせながらその場を後にした。
140字
拙作はツイッター向けに初めて考えたものです。いや、140字って短いですね。あるサイトさんに向けて書いたも
違法の健康 #毎週ショートショートnote
実家に帰ると、オヤジが激変していた。長髪に髭、ベルボトムジーンズ姿で現れた時は目を疑った。オヤジは役場を定年退職し、再雇用を断った事までは聴いていたのだが。
「ヘビメタだよ!」そう言うとオヤジは、昔子供部屋だった部屋へ俺を連れていった。そこにはドラムがフルセットで置いてあった。「俺は学生時代にヘビメタのドラムをやってたんだ。またバンドも作るぞ!バンド名はIllegal health。違法の健康と
二重人格ごっこ #毎週ショートショートnote
男は60歳を過ぎて若い女と結婚をした。数ヶ月が過ぎ、妻は男に提案した。「刺激が欲しいの。今日から二重人格になって私を楽しませて」普段は至っておとなしい男に、傲慢な男を演じてくれという。男は言われるまま演じた。「毎日つまらないだと!誰のおかげで暮らせているんだ。つべこべ言わず食事の支度をしろ!」
次の日妻は言った。「昨日は刺激的だったわ。今日は陰気で好色な男になって」男は暗い表情で女ににじり寄っ
日本ダイエット#毎週ショートショートnote
202X年○月、衆議院選挙は終盤に向かっていた。駅前広場の街宣車の上で、日本ダイエット党党首多部瑠奈は声を張り上げた。「日本人は太りすぎ!肥満者は恥を知れ!」
細身の多部瑠奈の脇にはのぼりがあり、そこには「日本よ!ダイエットせよ!」と書かれている。「肥満者が食事の量を減らせば食糧自給率は改善、医療費も削減可能!それにエアコンの設定温度は低すぎよ!」
広場の一画では、日本ダイエット党に反発する人
しゃべる画像 #毎週ショートショートnote
秋の彼岸の中日、兄と私は霊園の石段を息を切らしながら登っていた。その後を兄嫁と妻がゆっくり登ってくる。女二人は亡父の思い出を笑いながら語りあっている。
我が家の墓の前にたどり着き、掃除や花の支度を終える。線香を焚き、墓石に手を合わせた後、墓石の下部にあるボタンを押すと、墓石の一部がぼんやりと明るくなり、亡き父の肖像が浮かび上がった。そして父の声が流れてくる。「お父さんだよ…」
「13回忌か
ジュリエット釣り #毎週ショートショートnote
ジュリエット島田は、浅草ストリップ界に現れた久しぶりのスターだった。彼女の流し目は「ジュリエット釣り」と呼ばれ、触れれば誰もがファンとなってしまう。劇場は連日大入り満員となった。
そんな中、支配人は感謝の意を込めて常連客に席を用意した。最高齢は85歳のジイさん。ストリップが生き甲斐で久々の観劇にいつにも増して興奮状態。鼻息も荒く席に陣取った。
やがて公演は始まり、トリを務めるジュリエット島田