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伊川津貝塚 有髯土偶 55:底生魚は居るか

愛知県田原市高松町と大草町(おおくさちょう)の町境となっている無名橋4(仮名)から北岸を川下に向かってさらにたどると、450m以内でガードレールを流用した鉄板だけで構成された欄干を持つ西野橋前に出ました。

MAP1 愛知県田原市大草町 汐川
MAP2  田原市大草町 汐川 西野橋/坪井橋

西野橋の南岸(下記写真奥側)は登りになっている。

MAP2内① 愛知県田原市大草町 汐川 西野橋

西野橋上から上流側を見下ろすと、ここまででもっとも落差の大きな床止めが橋の上流11mほどの場所とそのさらに6mほど上流の短い距離で2つ重なって設けられていた。

MAP2内② 田原市大草町 汐川 床止め 〈上流方向〉

つまり、河床が3段に分かれているのだが、上記写真最も奥の段の水面は静かだが、次の段、最も手前の段と、水面は下るに従って、より騒がしく変化している。

しかし、河床は2段降りた西野橋の真下では水深が深くなっていることから、水面が騒がしいのは下記写真手前側の床止めから4m以内の部分だけで、西野橋に向かって水面は静かになっている。

MAP2内③ 大草町 汐川 西野橋 〈上流方向〉

そして、少しだけ汐川の透明度は上がってきているようだ。

一方、西野橋の下流側の欄干には超音波水位計が設置されていた。

MAP2内④ 大草町 汐川 西野橋 超音波水位計 〈下流方向〉

おそらく水位を管理している事務所に自動的に水位情報を飛ばしている可能性のある超音波水位計ではないかと思われる。
汐川では台風や前線の通過に伴い、これまでに何度も洪水・高潮被害を受け、農地の浸水被害が生じてきているという。
平時よりも、災害の恐れが出てきた時のための超音波水位計設置だと思われる。
現場に来てみると、堤防内に水位計を立てたとしても、洪水・高潮の危険生のある時にその水位計をチェックするために汐川に近づくのは非常に危険な行為になることが分る。
西野橋にだけ超音波水位計が設置されているのも、実際に水位をチェックしに来る人が危険な目に遭遇したことがあるからなのかもしれない。

汐川の堤防内土手には背の高い雑草が生い茂っていた。
もう一つ、気づいたのは西野橋の上流側まで高圧線鉄塔が南岸に並んでいたのが、北岸に移っていることだ。
西野橋のすぐ上流までほぼ東に向かって流れてきた汐川が東北東に折れている場所があり、汐川の方が方向転換したことで、高圧鉄塔の存在する岸が反対側に転換したのだ。

西野橋下流側の汐川の河床を見下ろすと、透明度が出てきたものの、美しいとまでは言えない状況になっている。
魚が生息している気配がまったく存在しない。
護岸壁を見ると、コンクリートではなく、角礫岩(かくれきがん)を積んだ石積みになっていた。

MAP2内⑤ 大草町 汐川 西野橋 〈下流方向〉

汐川で見る初めての石積みだ。
石積みが使用されている場合は河床もコンクリートでない可能性が高い。

●石積みと底生魚

この石積みが現れるまでの汐川は水源直後からU字面がコンクリートで構成された部分がほとんどで、魚類の棲みやすい環境は存在しなかった。
ここまでの汐川は一貫して水田型区間であり、一般には湿生・抽水植物、沈水植物被覆率の高い地域なのだが、唯一、抽水植物と思われる植物が水面の80%を覆っていたのは以下の汐川の水源となっている貯水池のみだった。

ただ、この貯水池も2面を大きな飼育厩舎に囲われている。
多かれ少なかれ、飼育厩舎で使用された用水が貯水池に流れ込んでいるだろうから、魚類が生息できる環境になっているのかは不明だ。
それはともかく、西野橋下流部のような石積みがあれば、その隙間を棲家とする魚類が現れる可能性が出てくる。
ここまでの汐川のような水田型区間では遊泳魚より、底生魚(水底にもぐって生活する魚)が主になる。
橋の上から汐川を見下ろしているので、距離感がまったく掴めず、石積みの1コの石の大きさが確認できないのだが、石の大きさで、その隙間で生息できる遊泳魚の割合は自然共生センターが2005年12月から翌年6月まで行われた実験河川に3種類の大きさの礫岩を敷き積んだ調査では以下のように確認されているが、中礫以下ではほとんど底生魚が独占していると、みられる。

遊泳魚の割合
巨礫
(径256mm以上)=48%
大礫(径64〜256mm)=10%
中礫(径4〜61mm)=ほぼ0%
細礫(径2〜4mm)=ほぼ0%

『自然共生センター』2005年12月〜2004年6月調査

西野橋下流の石積みの石は巨礫に相当すると思われるが、遊泳魚は礫岩を敷いた場所では生息可能だが、石積みの隙間では無理そうだ。
西野橋下流で生息できそうな底生魚は複数種のドジョウ類やヨシノボリ(ハゼ科)が中心となるが、その餌となるのが以下だ。

      《餌》
ドジョウ類
=アカムシ(ユスリカの幼虫) イトミミズ 水生昆虫 生物遺体  
      付着藻類
ヨシノボリ(ハゼ科)=水生昆虫 ミミズ エビ 魚の卵 稚魚

Wikipedia

つまり、上記の餌が生存できる条件が汐川に存在することも底生魚の生息条件となる。 

西野橋から下流1.5km以内に位置する坪井橋に向かった。

衛星写真 ヌートリア⑧ 大草町 汐川 坪井橋

坪井橋を抜ける汐川は上記衛星写真のように水路がくの字形に折れ曲がっている。
そのために坪井橋の橋長は汐川に架っているほかの橋の倍以上の長さの約30mとなっていた。
上記写真を見た限りでは、汐川を真っ直ぐ通せない理由は北岸側に巨石が埋まっていることしか思いつかない。
ほかにわざわざ川筋を折れ曲がったままにするとすれば、汐川の傾斜が急になり過ぎ、河床の処理で流速を落とすのにコストがかかり過ぎることから、川筋を曲がっていたのを利用して水速を落としていることくらいしか思いつかない。

愛車を坪井橋の袂に駐めて橋の中央まで出て上流側を見下ろすと、上記衛星写真と違い、折れ曲がった場所の河床には砂が大きく堆積していた。

MAP2内⑦ 大草町 汐川 坪井橋 〈上流方向〉

水速が落ちたことから、砂が堆積しているのだ。
これを見ると、さっき見てきた西野橋下流の石積み部分の河床も砂地になっていた可能性が高いことになる。
砂の堆積の始まる上流には2ヶ所の床止めが見える。

坪井橋の真下を見下ろすと北岸の砂地部分の川床に入って何かを一生懸命洗っている毛皮の小動物がいた。

衛星写真内 Photoヌートリア⑧ 〈上流方向〉

その作業からは当初はアライグマかと思ったのだが形態はたぬき型のアライグマとは異なり、太ったネズミタイプだった。
橋上から太ったネズミまでは距離がかなりあるので、彼(彼女?)は辺りをまったく警戒していない。
真上からでは正体が不明なので、顔面を観ようと、南岸寄りに坪井橋上を移動して撮影しようとしたら太ったネズミはこちらに向かって泳ぎ出した。

衛星写真内 Photoヌートリア⑧ 〈上流方向〉

●ヌートリアと人間の都合
この太ったネズミの鼻下の毛が全部純白で、髭も真っ白なのはヌートリアの特徴と一致した。
ヌートリアは南アメリカ原産の外来種だ。
主食はホテイアオイなどの水生植物の葉や地下茎、淡水産の巻貝で、農作物を食害することもあるという。
どうやら、坪井橋下の砂地に生えている水生植物の茎と葉を洗いながらかじっていたらしい。
ヌートリアは水かきを持っており、泳ぎも得意で、5分以上潜水することもあるという。
縄張りを持つ生物なので、水生植物の生えるこのあたりを縄張りとしている個体なのかもしれない。
ヌートリアは上記坪井橋の衛星写真内に矢印で示したように、こちらに向かって来たかと思ったら急に方向転嫁して、上流の南岸に向かって遠ざかって行った。

MAP2内⑩ 大草町 汐川 坪井橋 ヌートリア 〈上流方向〉

水から出る気配が無いので、その時にアライグマではないと思った。
ヌートリアが日本に入ってきたのは戦前にドイツから上野動物園に輸入されたのが最初だが、戦争前になってフランス(米国説もある)から軍服の毛皮の材料として150頭が輸入され、飼育が奨励されたという。
中国では食用にされているように戦時中に食糧不足となった日本でも食用になっていたが、終戦を迎えると1950年代の毛皮ブームでヌートリア飼育が再流行した。
その後、毛皮の価格が暴落すると、飼育に値しなくなって放逐され、その子孫たちがアライグマのように分布が日本列島に拡大しつつあるという。

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ヌートリアの日本語別名に「沼狸(ぬまたぬき)」がありますが、見たイメージは狸ではなく、あくまでも太った鼠です。中国では「海狸鼠」と名付けられ、広州動物園内にあった料理店では「糖醋海狸鼠」という料理が出されていたそうです。展示されている動物の料理を同じ場所で出すとは日本人なら驚く発想です。「海狸」は形容詞としても結論(名称末尾)は「鼠」です。なので、さすがに中国でも「鼠」を食用としていることには羞恥心が働くようで、「海龍」という美名(?)もあります。中国にはほかに「三吱児」(調理して口に入れるまで子鼠が3回鳴くの意)という料理もあります。生まれたばかりの子鼠を刺身などで食べるもので、さすがに中国でも「三吱児」は「度胸試し」の暗喩となっているようです。中国人が鼠を食べる文化に羞恥心があるのは経済大国になるまでの中国の住居に鼠が多かった(家畜のようなものなので「家鼠」という言葉もある)ことが関係しているようです。Wikipediaにはネズミを食べる文化が「鼠食文化(そしょくぶんか)」の項目として立てられているのですが、不思議なことに、中国人の鼠食文化に関しては一切、触れられていません。中国にとって不利益な情報はWikipediaからは削除される傾向があるようなのですが、それくらい、中国人にとって鼠食文化は恥ずかしいことのようです。

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