【短編A】カーテンに絡まる朝が来る
【企画】誰でもない誰かの話
絶対に誰も興味がない話だ。
昨日見た夢とか。
明日見る夢とか。
今日見る夢だって基本どうだって良い。
なのに
「さっき寝言で、
まあ、どっちかといえばそうですよ
って言ってたよ。
ねえ、どんな夢見てたの?」
なぜ、興味を持つんだ。
「…忘れたよ。」
「うそうそ、覚えてるはずだよ。
私なんか、1週間前の夢覚えてるんだから。
1週間前の夢は、バーゲンで買った服が
全然サイズが合わなくて
オーマイガーって言いながら目が覚めた。」
「話、盛ってるよな。」
「盛ってない。本当だよ。」
面倒だ。
なんでいちいちこんな話
聞かされないといけないんだ。
「ねえ、水取って。」
「自分で取って来いよ。」
ホテルに泊まると大体、
朝が来る前に起こされる。
この女の寝相が悪くて、
鈍い痛みとともに目が覚める。
スマホは1:05を表示していて、
全然眠ってないことに気づく。
一度ベッドから出て
水を女に渡す。
「どんな夢だったの?」
しつこい。
「覚えてない。」
別に好きでもない女だから冷たい態度をとる。
女は細くて、綺麗な顔をしているけど
まともな恋はしたくなくて
体の相性さえ良い相手がいればそれで良い。
俺はその相手だ。
俺は俺で人に対して興味がなくて
恋愛なんかどうでも良いから
適当にこの女と遊んでいる。
「どうしよう、あんたのこと好きになったら」
「知らねーよ。」
お酒もタバコも口にしない俺は、
テーブルに置かれたラッキーストライクと
ビールの空き缶を見て
この女の日常を想像して
遊びでおしまいだと思っている。
「お腹すいた」
「カップヌードルでも食ってろ」
「…乱暴だね。」
「優しいこと言う必要ある?」
ティファールのポットに水を入れてお湯を沸かす。
シーフード味しかないけど、腹の足しにはなる。
「君は言葉は乱暴だけど、優しいよね」
お湯が沸いたから、
カップヌードルにお湯を入れてあげた。
「お風呂入るから、適当に食べて」
割り箸を蓋の上に乗せておいた。
シャワーを頭から浴びる。
俺はいつからこんな人間になったんだろう。
ねじ曲がった感情のやり場がどこにもない。
体の汚れと一緒に俺の
汚いとこ全部流してくれたら良いのに。
恋をしたことも
愛を感じたこともあったけど
どうでも良くなってしまった。
確かに好きだったあの人にはもう会えない。
台風の日に増水した川に
わざと飲まれた。
なぜなのか分からない。
あの人に俺の心も連れていかれたんだ。
”誰かと付き合う気はもうないの?”
あの人が問いかけてきた。
俺を置いていったくせに。
”まあ、どちらかと言えばそうですよ”
それがさっきの夢だ。
シャワーを顔にかける。
涙が流れるのを感じたくない。
お風呂から出ると、
カップヌードルは、空になっていて
女は歯を磨いていた。
口を濯ぎ終わった女が言う。
「もう一回しよう」
絡み付いてくる。
誘いを断らないのが約束だから
眠くても我慢する。
何も考えない。
不思議な夢を見た
どんな夢かは言わないけれど。
女よりも早く目が覚めて
外の見えない窓にかかるカーテンに
一筋朝の光が絡みつくのを見る。
俺は何がしたいんだろう。
隣に寝ている女はトモコって言う名前だ。
それしか知らない。
好きですか?嫌いですか?
問われても出る答えはない。
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