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【短編C】出入り口が大嫌い

【企画】誰でもない誰かの話

揺れる、光る、硬そうなやつ。
掴みたくなる。

顔から横に出た音聞くとこの
あ、耳だ。
その耳の
下の方についてるやつ。

掴みたい。

「何?」
じっと見てるから、
そりゃ気になるよね。
俺がこの世界で知ってるのは君と
鼻の奥がむずむずする匂いがするとこにいる
嫌なことばっかりしてくる”先生”ってのだけ。
俺と君が違うものだってのはよくわかってる。
ただ、俺は、君に
「また、変なこと考えてるよね、黒丸。」
黒丸って呼ばれてる。
よく四角いやつで、
黒い丸がついたとこを俺に向けて
なんかやってる。
君は四角いやつを見ながら
細くて長くてキラキラしたものがついた
指をいっぱい動かしてる。

あーあ、耳のやつ掴みたい。

「黒丸、君のご飯を買ってこようと思うから
お留守番よろしくね」

また、俺を置いてどこかに行こうとしてる。
もし、俺が君と同じことができたら
いっぱい、嫌だって言うのにな。
言えないから脚に首を擦り付けるんだけど
わかんないんだろうな。

嫌だってすりすりしたのに
あーあ、行っちゃったよ。
この重たそうな、出入り口。
嫌いなんだ。
俺がここに1人になるための出入り口。

俺は、一個特技があって。
ため息ができる。
鼻でいっぱい吸って
鼻で出す。
これがため息だ。

君が俺を1人にするたびに何回もやってるんだ。
知らないだろ。

なんで同じじゃないんだろうな。
君のことは好きなんだけど、
君の顔は、足元の地面よりずっと遠い。
遠いからよく見えないから
もっと近くで見たくて
高いとこに行くと怒られる。
なんで怒るのかな。
君の顔が好きなのに。

君がいない時間はつまんないよ。
においするのにいないなんて。
早く出入り口に来ないかな。
どうして1人にされちゃうんだろう。
もっと一緒にいたいよ。

あがっちゃダメって言われてる
ご飯作るとこ。
あがってみると俺がいつも歩いてる
地面が遠い。
こりゃいいや。
君と同じ世界にいる気分。
降りたくないけど、降りよう。
君が来たらガッカリさせたくない。

君といつも一緒に寝るふかふかの上。
においがいっぱいするから
君といるみたい。
でも、あったかくないよ。
やっぱりいないと嫌だね。

出入り口、早く開かないかな。
君を待ってる俺の身になって。

君は足が2つで、いっぱい動く手が2つ。
毛は長くて頭から伸びてる。
俺より大きいから
俺を地面から掬いあげてくれる。
あの瞬間が好き。

耳のキラキラ。
あれつけて行っちゃうとなかなか帰ってこない。

出入り口が、音を立ててる。
戻ってきた。

「ただいま、黒丸」
「同居人て?」
「うん、黒丸」
「猫か。俺、猫好きなんだよ」

何これ?
君より大きい君みたいな…
君が二つになったの?
全然違うよね?
”先生”じゃないよね。
嫌だ。嫌い。来るな。

俺の体がキューってなって、
体の毛がゾワゾワする。
体がどくどくしてくる。
嫌だ。

嫌だ。
知らないにおい。
嫌だ。

「あれ、黒丸?」

高くて暗いところに逃げた。
「本棚の上にいるみたい」
「そっか。びっくりしたのかな。
初めて人連れてきたから」
「ふーん」
早くいなくなれよ。
嫌いだ。低い音。
アイツが音を出すと空気がぶるぶるする。
俺の頭もぶるぶるする。

アイツが近くに来る。
「くろまるくん、おいで。」
嫌に決まってる!
「ダメだ、はるみちゃん。降りてこない。」
君は、コイツにはるみちゃんて
呼ばれてるの?
「黒丸、おいでよ。ご飯にしよう」
ご飯!?

君の方から降りよう
コイツに捕まらないように。
ぐっと体を掴まれた。
「おもしろい顔だな。真っ黒じゃないんだ」
体に感じるのはいつもの君だけど、
コイツの顔が嫌だ。
俺の顔を見るな。
誰なんだよ!
「黒丸、シャーってやっちゃダメ。」
だってここは
俺と君だけの場所じゃないの?
「この人は、いい人なんだよ。」
「ユージです。」
お前の呼び方なんかどうだっていいんだ!
目を合わされたから引っ掻きたくなる。
「黒丸、痛い!」
君の腕に俺の爪が食い込んでる。
そうしたいわけじゃなかったのに。
地面にゆっくり降ろされた。
椅子ってやつの下に逃げ込んで、君の腕を見た。
「大丈夫?血、出てるけど」
「初めて引っ掻かれた。
なんか、ごめんね。」
「帰るよ。お大事に」
「うん。」

出入り口に君とアイツが行くのが見えた。
また、出て行っちゃうの?
嫌だよ、俺といて。
爪のことは謝るから俺といて。

得意技のため息。
君には見せたことがない。
いっぱいできる。

「黒丸、おいで。」
君の顔が俺と同じ高さにある。
ごめんね。痛くしてごめんね。
君のそばに行くと頭を撫でられた。
君の爪のキラキラが俺は大好き。
俺の爪と違う君の爪が大好き。
もっと見せて欲しいんだ。

「ユージは悪い人じゃないよ。
今度は仲良くして欲しいな…」
君の腕に俺がつけた傷。
膨らんでる。痛いよね。ごめんね。
ぺろぺろしてあげるね。

「ううん、やっぱりいいや。」
ん?
腕にあったかい水が落ちる。
ごめん、痛いんだよね。
「黒丸、おなすいたね。ご飯にしようね。」

君の横で座って
君のとは違うご飯。
「おいしい?」
そう聞いてくれるけど
おいしいよって言えない。
だから、黙って少しずつ食べるんだ。
おいしいよ。おいしいよ。
君は何を食べてるの?
良いにおいしてるね。

「ねえ、黒丸。ずっと一緒にいようね。」

いるよ。
君のそばにずっといるよ。


【企画】広がれ世界
期間延長のため、企画作品追加しました!
ぜひぜひ広げてください!
あなたのnoteにお邪魔させてくださいね。

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#繋いで遊ぼう #みんなで作るお話
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#うちにいた子は女の子でしたよ

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