最寄りの天国
今、最寄り駅のミスドにいる。身近な天国を見つけてしまったかもしれない。
なんだか家に居たくないなというとき、まっさきに思い浮かぶのはスタバなのだけど、最近はスタバに居心地の悪さを感じていた。わたしは人の多いところに1人で行くのが大の苦手だ。今日もダウンジャケットを買おうと思って心をつよくして渋谷に出かけたけれど、1時間も滞在したら全身がつかれてしまった。往復の移動時間の方が長かったかもしれない。
わたしの家から一番近いスタバは、人との距離が近くて、1人で行っても1人で行った気になれない。スタバのドリンクはどれも美味しいしたまに無性に飲みたくなるのだけれど、味の美味しさよりも人の存在に意識がひっぱられてしまいそうで、出かける前に想像しただけで疲れてしまうのだ。
だけどミスドは違った。
今日は街に出かけたあと、最寄駅に帰ってきた途端、あまくてふわふわのおいしいドーナツを食べたい衝動に駆られた。「こりゃミスドだ」。そう思って向かったのは徒歩30秒ほどの駅近ミスタードーナツ。
ここのミスドは入ってすぐのところにショーケースとレジがある。もし大混雑したら、お客さんは一体どこに並ぶんだろう?外かな?というくらいに、入り口からレジまでの距離が短い。今まで持ち帰りでしか利用したことがなかったのだけれど「あっドーナツ食べたい」というときにスピーディーに買える導線が便利だった。
だからまさか、その奥にこんなにスロウでチルな世界が広がっているだなんてことを、店員さんに「お持ち帰りですか?」と聞かれて反射的に「店内で」と言ってしまった今の今まで、知らなかったのだ。
お店全体の面積に対して、イートインのスペースがかなりの割合を占めている。他の店舗に行ったときはもっと狭かったこともあるので、この店舗だけなのかもしれないけれど、身も心もゆったりできる最高のカフェ空間だ。
はじめて注文したミスドのブレンドコーヒー、とっても美味しい。スタバの「今日は○○という豆でお作りしています」とおしえてくれるコーヒーも美味しいけれど、ミスドのコーヒーには名前のついていない美味しさがある。本当に疲れているときに飲みたいのはこういうコーヒーかもしれない。赤くて四角いマグカップもほっこりする可愛さでうれしかった。
ドーナツはフレンチクーラーとシュガーレイズドを食べた。フレンチクーラーは絶対に外せなくて、いつもならそこにポンデリングなのだけれど、ふっくらしていて雪がかかったような見た目に惹かれてシュガーレイズドを選んだ。
わたしのうしろに並んでいた小さい女の子がお父さんに「あの、まんなかの穴がちいさいドーナツは、どんなドーナツ?」と聞いていた。それはシュガーレイズドのことだとすぐに分かったけれど、その子がドーナツを生地のかたちではなく穴の特徴で説明していることにびっくりした。きみに見えているのはそっちなのか。
席に座って1時間半くらい経つけれど、いまだにこの空間にはゆったりとした空気が流れている。コンセントもWi-Fiもないのに、1人でこんなに長居したカフェはひさしぶりだ。スマホでテザリングをしながらこの文章を書いている。コンセントがあるカフェは大体混んでいるし、隣の人と取り合いになると気まずい。Wi-Fiは一定の時間で自動で切れてしまうところもあるから面倒。気づかぬまに、わたしは利便性に縛られていたのかもしれない。
人はぽつぽつと座っているけれど気にならない。渋谷から逃げ出したあと別の街で購入した、ダウンジャケットの入っためちゃくちゃ大きい紙袋を携えていたが、混雑していないおかげで4人がけのテーブル席の椅子に遠慮なく置けて安心した。
席に座っている人たちはどのドーナツを食べたんだろう。生地と穴、どっちのかたちに注目するんだろう。そんなことがすこし気になってしまうくらい、他人に興味をもつことができるこの「遠くて近い」距離感がちょうどいい。天国の成立条件はこれだったのかもしれない。
・・・
トイレから出たら、人の名前みたいな消毒液があった
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