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コンパウンドスタートアップにおけるケイパビリティ・マネジメント
0. はじめに
どうも、すべての経済活動をデジタル化したい、LayerXの牧迫(@35_mki)です。「バクラク」シリーズを提供しているバクラク事業部で事業部長を務めております。
今年の年末が近づいてきたということで、ふるさと納税で地元鹿児島の焼酎と鳥刺しを嗜んでおります。いやー、うまい。(毎年食べてる)
カタカナが多い記事のタイトルになっていますが、LayerX/バクラクはコンパウンドスタートアップとして、複数の事業・プロダクトを展開しており、バクラク事業においてはサービス開始から2.5年で6つのサービスをリリースしています。
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ありがたいことに利用社数は7,000社を超え、伴って全社の従業員数は200名を超えてきたところです。
事業としてもSaaSの成長モデルである「T2D3」を大きく超える成長率で拡大を続けており、また法人カード事業も年初比10倍の成長を遂げております。
このように、短期間で複数のサービスを投入しつづけていることが事業成長に直結しておりますが、コンパウンドスタートアップならではのイシューと向き合う日々です。
今回はそのイシューをどう考え、どう向き合っているのかについて整理していきます。
1. (そもそも)コンパウンドスタートアップとは
説明が長くなるため、ここでは当社の代表福島が纏めている記事を引用します。
・創業時から単一プロダクトではなく、複数プロダクトを意図的に提供
・部署でサービスを区切るのではなく、データを中心にサービスを統合する
・プロダクト間の連携の良さそのものがプロダクトである
・複数のプロダクトを管理、ローンチするケイパビリティを持つ
詳細は上記の記事に譲りますが、ここではざっくり「滑らかにデータで体験が繋がるプロダクト群を継続的にリリースしていく」スタートアップと捉えていただけると良いかと思います。
より当社の事例として具体的に表現すると、
①プロダクト間のクロスセル率の極めて高い新プロダクトを、
②半年に1つのペースで投入し続ける
という状態です。
「滑らかにデータで体験が繋がるプロダクト群」は、言い換えると「複数のサービスを同時に利用することで、システム間でのデータの分断のないシームレスな体験が可能になる」ため、複数サービスを同時に利用すればするほど効用が上がる(≒クロスセル率の高いプロダクト群)となります。
2. コンパウンドスタートアップのイシュー
事業成果を最大化するためには、新しいサービスを高速でリリースすることに起因するイシューを解決する必要があります。
コンパウンドスタートアップの醍醐味でもあり、面白さでもあり、複雑でもあるのが、「様々なフェーズのサービスが入り乱れ」、かつ「サービスの組み合わせごとにターゲットや売り方が異なる」という点です。
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より具体的には以下のようなイシューに頭を悩ませていることがほとんどです。
プロダクトリリースからPMFを最速で実現するにはどうすべきか
特定領域でのPMF (Product Market Fit) 後に、SAM (Serviceable Addressable Market)を広げ、GTM/Growthを加速させるための製品・組織・ディストリビューションのケイパビリティを上げていくにはどうすべきか
これらを解決するためには、事業全体のケイパビリティとその進捗・時間軸を意識して設計する必要があります。これが「ケイパビリティ・マネジメント」です。
3. ケイパビリティ・マネジメントとは
最近「ケイパビリティ」が口癖になっており、「何でこんなにケイパビリティって連呼してるんだっけ?」と考えた時に、要は事業上の重要イシューはケイパビリティをどうマネージするかに帰着しているということであると理解しました。
■ ケイパビリティとは
ケイパビリティ(capability)は、「能力」「才能」「可能性」などを意味する言葉です。
技術力や開発力などの単体資産ではなく、資産を活かして強みにする「バリューチェーン全体の組織的な能力」と定義されています。競争が激しい市場で企業が生き抜くためには、自社のケイパビリティを正確に把握し、刷新し続ける必要性が高まっています。
事業におけるケイパビリティを分解すると、(狭義には)以下の3つがあると考えています。
プロダクト
ディストリビューション
組織
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これらのケイパビリティについて分解していきます。
※ ファイナンス、オペレーションなどのその他のケイパビリティもありますが本記事では割愛します。
3.1. プロダクト(製品)のケイパビリティ
製品ケイパビリティは、その製品が解決できる課題においての「対応できるユースケースのカバレッジ」と考えています。
※ ユースケースは、当社の場合「インダストリ × 従業員規模」でグルーピングできるケースが多いです。
当社の新製品ローンチ時は、初期はSMB領域に対して検証とプロダクトの磨き込みを行い、徐々にミッド〜エンタープライズといった領域や、より広いインダストリに展開する活動を基本としています。(例外もありますが!)
特にSaaSという事業においてはリリースして終わりではなく、むしろそこからの継続的なアップデートが本番です。ホリゾンタルSaaSであっても、上述の通りPMFは1回で終わりではなく何度も何度も何度もユースケースごとにPMFを重ねる必要があります。
コンパウンドスタートアップにおけるイシューは、サービス毎に製品ケイパビリティが異なるため、どういう時間軸で拡張していくべきかという点になります。
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より具体的な例としては、
・顧客の解決したい課題の領域は製品Aと製品Bを組み合わせたもの
・製品Aはケイパビリティを満たしているが、製品Bは足りておらずKOF(ノックアウトファクター)が多い
といった状態で、製品Bをどのように拡張していくのか、という点です。
ビジネス組織とプロダクト開発組織間で、目指したい領域と登り方・時間軸をすりあわせながら、拡張戦略をアップデートし続けています。
3.2. ディストリビューションのケイパビリティ
ディストリビューションのケイパビリティは、その事業体が製品を届けることができるマーケットのカバレッジです。
マーケティング・チャネル戦略においては、プロモーションを重視した立ち上げを行ってきました。チャネルは全張りするような形で、それぞれのチャネル内で改善を重ね、ROAS(広告の費用対効果)を意識した運用を行ってきました。
一方、増え続ける製品に対し一貫性のあるブランドが必要になフェーズに差し掛かっています。例えば、「バクラクとはなにか?」という問いに対して、製品軸で切り取ってしまうと、様々な顔が生まれるため、一貫性のあるメッセージが難しくなってきます。
より広いマーケットに一貫性のあるコミュニケーションしていくために再設計が必要になります。
また、パートナー戦略やエリア開拓にも力を入れています。これはデジタルマーケティングなどの「オンラインチャネルを経由してIT製品を購入しないお客様」が多くいらっしゃる為です。アーリーアダプター以降の層にケイパビリティを広げていく上ではこういったチャネル・パートナー戦略も重要になってきます。
ディストリビューションにおいては、製品ケイパビリティと組織ケイパビリティを組み合わせ、「お客様に届けきる仕組みを構築するか」が重要です。
具体的には、上述の最速のPMFとSAM拡大という命題に対して部門横断で仮説検証を行う体制をつくり、精度と速度をあげることを型として行っています。
インダストリーやユースケースカットで特定セグメントの顧客に対し、ファンクション型の部門を横断した「マトリクス型」のプロジェクト組織を組成し、どう型を作るか、初期検証するか、最速で立ち上げきるか・届けられるようにするかを意識したチーム組成を行っています。(※ 以下イメージ。「The PODs」に近い概念かもしれません。)
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※ 新サービスの立上げやGTMを部門横断で戦略策定〜実行〜ブラッシュアップまで行うことに積極的に関与できることがLayerX/バクラクで働く楽しみの一つでもあるかと思います。
3.3. 組織ケイパビリティ
組織のケイパビリティは、製品ケイパビリティとディストリビューションケイパビリティの基盤となるものです。
組織ケイパビリティが向上することで、製品やディストリビューションの向上に繋がり、結果として収益の向上だけではなく、SAM (Serviceable Addressable Market)の拡大に繋がるという考え方です。
組織ケイパビリティの向上に必要な要素は、
1. 採用力(同じ船に乗っていただく)
2. イネーブルメント力(乗っていただいた方に活躍していただく)
3. その前提となる企業文化
と考えています。
LayerXでは、事業づくりは組織づくりということで、「全員採用」のカルチャーで採用への積極的な関与を推奨しています。
また、イネーブルメントについては、Tech / ビジネス両面に専門チームを組成し、働きやすい・成果を出しやすい環境を仕組みとして準備することに投資しています。(まだまだこれからのフェーズですが)
ビジネスサイドのイネーブルメントにおいては、継続的にリリース・アップデートされる製品について、オンボーディング期間の最適化や、どうキャッチアップし続けるか、それをどう施策に連動させるかという点が大きなテーマです。
特に複数製品を組み合わせでご利用いただくケースが非常に多く、単一製品のユースケース理解では成果が最大化されないため、事業インパクト(クロスセル率、NRRに大きな影響が出る)に直結する重要イシューです。
コンパウンドスタートアップの肝はイネーブルメント。テックもそうだし、セールスのイネーブルメントも大事。複数プロダクト、複数セールスマーケに耐え、それを支えるイネーブルメントにもはやめに投資する決断が必要。それを支える人材の層の厚さ(採用、育成力)、資金調達能力も。総合戦です
— 福島良典 | LayerX (@fukkyy) October 1, 2023
具体施策としてはまだまだ発展途上ではありますが、顧客業務フローとペインの理解のために「経理実務研修」など、プロトコルの理解のところから整備することで、自分ごと化して学習しやすい仕組みの整備を行っています。
現状は横断的な底上げを「ビジネスイネーブリング」チームが推進していますが、各チームレベルでの推進(Sales Enabling等)はまさにこれから、というフェーズです。
既視感ある写真.. (1ヶ月経つの早い)
— Maya |LayerX |Biz Enabling (@MayaLayerx) October 3, 2023
今日はbiz共通オンボ研修2日目の経理実務研修。
8月末にリリースされた顧客向けインボイス制度対応体験キットの内容を取り入れて、今回の研修は大幅アップデート!
緊張ゆえ1時間前から会議室でスタンバイし、リハーサル🙂 pic.twitter.com/8Qxoks1uUH
企業文化については「LayerXでは事業戦略と同じレベル、もしくはそれ以上に企業文化に投資していく」という考えを前提としています。
詳細はこちらの記事をご参照ください。
4. ケイパビリティ・マネジメントの根幹とこれから
上述の通り触れている部分ではありますが、結局のところ組織が製品をつくり、ディストリビューションをつくります。ですので、仕組みとして如何にイネーブルメント(社内ではイネーブリングと呼んでいます)を整え、人材の層を厚くするか、すなわち人が育っていく組織にしていくかが重要と考えています。
またその大前提としての考え方は、以前記事にした「企業文化でオペレーショナル・エクセレンスを生み出す」の内容と全く変わりありません。
LayarXは引き続き文化と人に投資し、最高の製品とディストリビューションを構築することで、ミッションでもある「すべての経済活動のデジタル化」に邁進していきたいと考えています。
5. おわりに
いかがでしたでしょうか。
実際のところ、ケイパビリティ・マネジメントはコンパウンドスタートアップ特有のものというより、経営戦略一般のテーマかと思いますが、今回は特に現在進行系でLayerX・バクラク事業の目線で整理してみました。
より具体的に話したい方はカジュアル面談も開いてますのでこちらもどうぞ
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まだまだ課題は山積していますし、こういった課題を一緒に解きながら事業成長を加速いただける方を募集しております。