日本では4割強の人がサービス残業をしている
今回は少し、私自身の経験を書きたいと思います。
なぜ、日本人の働き方というテーマをライターとして選んだのか。
労働問題、特にサービス残業に問題意識を感じているのは、
私自身がブラック企業に勤めていたという体験があるからです。
まさかの残業代一切なし
私は大学を卒業した後、とある小さな出版社に就職しました。
編集者になるからには、ある程度の長時間労働や忙しさは、もちろん覚悟していました。
ところが、入社後に研修初日で言われたのは
「うちは残業代は出ません。払ってあげたいけど、君たちに出したら会社が潰れます」
ということ。
すべての残業に残業代がつくとは思っていなかったけれど、まさか0円とは予想していなかったのです。
社内で一番忙しい部署に配属されたのですが、9時に出社して、退社は23時。
残業は月平均80時間は超えていたと思います。
(ただ、業界的にこれはマシなほう)
残業代は出ないので、どんなに働いても月の手取りは10万円台。
賞与は出ましたが、雀の涙程度で、
正直なところ、バイトの方が稼げるな…と思ったものです。
先輩たちも「今日の時給は380円ぐらいだったよ〜」なんて言っていました。
住宅補助などもなかったので、都内で一人暮らしをするのはとてもきつかった。
ほとんど会社にいるので水道光熱費はかからないのですが、何が重いかというと食費。
会社は都内の一等地にあったので、周囲はランチが1,200円ぐらいするお店ばかりで、とてもではありませんが、そういうお店には行けませんでした。
お弁当を作る時間的余裕もなかったので、コンビニで適当に何か買って、デパートの屋上や公園で食べていました。
「マスコミに入っておいて『残業代よこせ』とかww」
「さすがにこれはおかしいのでは?」と思ってネットで調べると、
「編集者や記者は裁量労働制が採用されることが多く、その場合残業代がほとんど出ない」
「残業代は出ず、編集手当などに含まれる会社が多い」という記事が出てきたのです。
「うちの会社って裁量労働制だったっけ? 編集手当は出ていないと思う。確認したいけど、『岡本は仕事もできないのに、くだらないことばっかり調べてなんなんだ』と思われるのは嫌だなぁ…」と弱気になったのでした。
質問サイトなどを見ると、
「うちも残業代なんか出ません。出ると思ったんですか?」
「マスコミに入っておいて『残業代よこせ』とかww」
「稼ぎたいなら出版に入ってはダメです」
「やりがいのある仕事なんだから、仕方ないと思いましょう」
「そんなこと考える暇あったら、ヒット企画でも考えたら?」
というようなアンサーが並んでいて、まだ20代だった私は「うーん…」と思いつつ、きちんと調べることをやめてしまったのでした。
私が入社したのは2007年で、この年は割と景気が良かったのですが、翌年のリーマンショックで状況は一変しました。
何が辛かったかというと、スタッフが減らされてしまったので、大量の業務量が割り振られたこと。
3年目になっても4年目になっても、新人が担当する雑務をこなしながら自分の仕事をしなければならなかったので、当然ながら業務時間(始業・終業時間は一応決められていました)に終わらず、夜遅くまで残らざるを得なかったのです。
早く終わらせよう、と思って急ぐと「仕事が雑。なんでこんなに雑なの?」と言われ、丁寧にミスなくやろうとすると、終電までかかる。
しかも「なんで遅くまで残っているの? 残っているから偉いわけじゃないでしょう」と言われる始末…。
どうしていいかわかりませんでした。
ストレスが溜まってしまい、社会人になってから7キロ太ったことも辛かった。
しかも、「また肥えた?」と聞かれるわけです。
そんな辛い体験を、会社の誰にも相談できないのがさらに辛かった。
メンタルクリニックに通い始め、治療をしたけれど良くならず。
限界が来て会社を辞めたのが2012年7月でした。
その後は2か月ぐらいひたすら休んでいました。
9月末からフリーランスとして働き始めたところ、楽しく仕事ができるようになり、あっという間に元気になったのでした(そしてすぐ痩せた)。
日本人の4割は残業代をもらっていない
「私はヒドい会社に勤務してたんだな。アンラッキーだったな」とずっと思っていたのですが、実はそうではなかったことがわかりました。
4割強…。ただ個人的には、実際は残業代を支払っていない会社はもっと多いし、サービス残業時間ももっと多いと考えています。
会社は従業員にすべての残業代を払うべきだと言うと、
「我々はずっとこのスタイルでやってきた」
「法律が実態に即していない」
「どこもそういうもんじゃない?」
「残業代を満額払ったら、日本のほとんどの会社は潰れる」
と言う人がいます。
これは、
「車を飛ばさないと納期に間に合わないんだから、スピード違反をしても仕方がない」
と同じ。
こういう経営者は、
「どうしたらスピード違反をせずとも納期に間に合わせられるのか」
「そもそもその納期や受注金額は適正なのか」
を考えず、ただただスピード違反を繰り返すのです(しかも、日本ではなかなか免停を食らわない)。
違法行為をしないと儲からないような会社は、経営者を交代させるべきです。
よく考えてほしい。
我々が受け取るはずだった残業代が消えることで、日本経済からお金も消えるのです。
起こるはずだった消費活動が起こらなくなり、そのぶん経済は回らない。
サービス残業は、日本の社会全体にとっても損失です。
出版も、業界全体で意識を変えなければならないと思います。
雑誌、漫画、書籍…出版というのは、日本の文化を支えています。
本が売れない時代に、低賃金・長時間労働にサービス残業は当たり前、しかも業務量が多いとなれば、若手は入ってこないし、入ってきても潰れてしまう。
だからイノベーションは起こらないし、儲からない体質も変わらない。
「稼ぎたいなら出版に入ってはダメです」
→「稼ぎたい」から入ったわけではありません。毎日きちんと会社勤めしている人間が、マトモに一人暮らしができないような会社経営は異常という話です。法律違反が常態化しているなんておかしいです。
「やりがいのある仕事なんだから、仕方ないと思いましょう」
→これをやりがい搾取と言います。
次の記事では、
・裁量労働制がいかに間違って運用されているか
・ブラック企業から身を守る方法
について書きたいと思います。