そして激しさは“星”になる 『裸でも生きる――25歳女性起業家の号泣戦記』 #361
十年近く前のこと。友人と出かけた「谷根千散歩」の最後に立ち寄ったのが、「マザーハウス」との出会いでした。
布製のトートバッグのわりには、張り切った値段。でも縫製はしっかりしているし、なによりきれいなブルーの色が気に入って購入を決め、そこで初めて「マザーハウス」がフェアトレードのお店であることを知ったのです。
その「マザーハウス」を起ち上げた山口絵理子さんの自伝『裸でも生きる――25歳女性起業家の号泣戦記』には、想像を絶する激しい道のりが紹介されていました。
いじめられて学校に行けなくなってしまった小学生時代。柔道に目覚めて不良行為を卒業した中学時代。男子部員に混ざって柔道の練習に励んだ高校時代。
すべては一番になるため。自分に負けないため。努力すれば道は拓けるという信念のためです。
わたしはヘタレなので、「逃げてもいいんでは」「そこまで思い詰めなくても」と感じてしまう……。
政治家になりたいと一念発起して慶応大学に入学し、ワシントンでアシスタントの仕事をしたことで、世界の見え方が変わります。なぜなら。
ワシントンのスタッフは、誰も途上国に行ったことはなく、現状に興味もなかったから。
だったら自分の目で見てやろうと、世界一貧しい国バングラデシュへ。人に騙され、お金をたかられ、たくさんの恐ろしい思いをしながら大学院に通い、思い立ってジュートのバッグを制作。日本で売り出すまでの日々が、率直な言葉で綴られています。
貧しさが人間を傷つける武器となる国で、自分の存在意義を考え続けたとのこと。フェアトレードに対しても、「社会の底辺にいる人たちがつくった低品質なものをかわいそうだからという気持ちで買う」現状に疑問を感じていたそうです。
あ、まさにそれだったと思いました。
「フェアトレード製品」というと、ちょっと好みと違う、縫製が粗い、うーんと思いつつも、「かわいそうだから」という寄付の気持ちで買っていなかったか。
自分の傲慢さに気づかされたのです。
振り返って考えてみると、「マザーハウス」の商品は違ったんですよね。つくりに粗さや緩さがない。日本で通じるものとしてつくられていることを感じます。そのレベルまで現地のスタッフを引き上げるには、これだけ格闘しなければいけなかったのかと、あらためてバッグを見直しました。
ただただ「生きるために、生きている」バングラデシュの人々との交流を通して、山口さんの「激しさ」は形を変えていったように感じます。「丸くなった」のではなく、それこそ「星になった」ような。
自分は一体何をしてきたんだ。他人と比べて一番になるなんてそんなちっぽけなことに全力を注ぎ、泣いたり笑ったり。こんな幸運な星の下に生まれておいて、周りを気にして自分ができることにも挑戦せず、したいことも我慢して、色んな制約条件を自分自身の中だけでつくりだし、自分の心の声から無意識に耳を背け、時間と共に流れていく。
一番になるために、ボロボロになるまでがんばっていた頃からの大変化。読んでいて気持ちのいい一冊でした。
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