家は“鎧”か、それとも“檻”か 『小さいおうち』 #331
自分を守る「鎧」にも、誰かを閉じ込める「檻」にもなってしまう「家」。わたしはむかしから間取りを見るのが好きで、自分にとって「鎧」となる空間に、隠し扉をつくりたいとか、インテリアはこんな感じにしたいとか、想像するのが好きでした。もちろん、外観も大事です。
『赤毛のアン』でアンが引き取られることになる「グリーンゲイブルズ」は何度もお絵かきした記憶があります。笑
上の画像はWikipediaのもので、モデルになったモンゴメリーのいとこの家だそうです。わたしのイメージでは、こんなにキレイじゃないんですけど。
中島京子さんの小説『小さいおうち』の舞台となる「おうち」には、赤い三角屋根があります。設定はかわいいけど、お話はなかなかにスリリングでした。
昭和初期、女中奉公で赤い三角屋根のおうちにやって来た少女タキ。戦前、戦中の暮らしぶりや空襲の恐怖について、彼女が綴ったノートが発見され、若奥様の秘密が明らかになる、というお話です。
戦争の影が迫り、物資も乏しくなっていく中、ご縁と知恵で乗り切るタキ。大好きな若奥様と、冷たい雰囲気の旦那様、そして夫の部下である板倉。彼らの三角関係に気づくのですが、彼女には守りたいものがありました。
小説を原作として映画にもなっています。
女中のタキを演じた黒木華は、第64回ベルリン国際映画祭最優秀女優賞(銀熊賞)を受賞。奥様を見つめる視線がとにかく熱かったです。
いくつかの小説を読んでいて気がつきました。『小さいおうち』の若奥様と板倉、村山由佳さんの小説『ラヴィアンローズ』の咲季子と年下の青年・堂本。クリント・イーストウッドとメリル・ストリープの映画「マディソン郡の橋」、イギリス文学の『チャタレイ夫人の恋人』。
妻の不倫を描いた小説は、「家」が舞台になるんですよね。
女性が自由に外を出歩くことが難しかったという時代背景もあると思いますが、閉塞感を感じているのかな。やっぱり、女性は家に縛られているのだなと感じました。もちろん、逢瀬の現場は家ではないですけどね。
『小さいおうち』の場合は、タキの目を通している分、ほのぼのと明るく、のんびりとした上品さがあります。ドロドロのサスペンス劇場にはならないけど、タキの秘めた想いに気づくと、せつなさ倍増です。
赤い三角屋根のおうちは、タキにとっては「鎧」だったでしょう。でも、若奥様にとっては「檻」。タイトルのかわいらしさに反して、繰り広げられる戦争下の恋。ラストシーンがとても心に残っています。
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