映画へGO!「CLOUD」 ★★★★☆
(※多少のネタバレあります)
引く手あまたのマルチ俳優である菅田将暉さん。
今回はどういう演技・役作りを見せてくれるのか?がメインの興味となって、鑑賞してまいりました。
なかなかのはまり役だったのではないかと思います。
序盤で菅田さん演じる吉井は、どこか社会に馴染めず、孤独に苛まれている「ヤバいやつ」、「闇が深い人物」として描かれ、まずその不気味さに惹きつけられます。
吉井が抱える圧倒的な孤独感と、何かに囚われているかのような重苦しい感情が、スクリーンを通して観る者に伝わり、どこまでも暗い人物像が映画の前半では際立っていました。
しかし、物語が進むにつれて、その印象は変わっていきます。
むしろ、他の登場人物たち、特に荒川良々さん、窪田正孝さん、岡山天音さんなどが演じる、社会をはみ出した癖のあるキャラクターたちが次第に危うさを露呈していき、そのアンバランスがどんどん顕在化。
最終的には菅田さん演じる吉井の方が、むしろまともであり、人間性を保っている存在かのように感じられて来るのです。
この転換の描き方と、その要求に応える役者陣の演技が非常に巧妙で、物語の進行に合わせてキャラクターの印象が変わっていく様が、この映画の大きな魅力だと感じました。
菅田さんに関して特筆すべきは、タレントとしての守るべきイメージのようなものは捨て去り、完全に主人公の吉井として存在していた気がします。
細かい表情や所作が、吉井の内面の温度をシーンごとに都度象徴しており、非常に印象的だったのでした。お見事。
あと、佐野役を演じた奥平大兼さんも、独特な存在感を披露していて素敵でした。
佐野は得体の知れない雰囲気を漂わせつつも、その裏に生き抜くための確かな知恵とスキルを感じさせる、実はスマートなキャラクターです。
とはいえ、佐野が吉井を守る強い動機は、はっきりとは明示されていなかったかとは思います。
私が抱いた解釈としては、佐野というキャラクターは、もちろん生身の人間ではあるのものの、吉井をどこまでも徹底的に支える存在として、AIエージェントのメタファーのようなものではないかということです。
理屈を超えて主人公に寄り添い、常に冷静で助けになるその姿は、まるで現代のテクノロジーでいうところのエージェントを極めてアナログに表現した感があります。そして究極的には心を通じ合わせている、吉井と佐野のエンディングの姿が印象的でした。(的外れでしたら、ゴメンなさい・・)
黒沢清監督は、本作を「アクション映画として撮りたかった」と語っているそうです。
個人的にはこの映画の魅力は、アクションそのものよりも、アクションの手前に存在する人間関係の歪みやひずみの捉え方にあると感じました。
登場人物たちの間で交わされるネガティブな緊張感や、微妙に噛み合わないコミュニケーションが、物語全体に不穏な空気を漂わせ、それが観客の心に深く蓄積されていきます。
本作品は、現代人が抱える孤独や不安と向き合う機会を与えてくれる映画ではありますが、観終われば不思議と絶望ではなく、希望を感じさせる後味がありました。
個人的評価:★★★★☆
古川琴音さんも、どこまでも正体のわからないミステリアスなムードをうまく作ってました。