「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」がすごいよかった話。
今回はストーリーを振り返りながらの感想になります。
(※ネタバレ多分に含みます。)
先に言っておきます。
今回長くなります。
映画も長けりゃ感想も長くなる。
それじゃあ、ゆっくりしていってね。
マーティン・スコセッシ監督。
レオナルドディカプリオ主演。
ロバート・デ・ニーロ出演。
まずこれだけでもう大好物なんですが、
過去のスコセッシ作品を彷彿とさせる演出だったりと個人的に興奮する要素満載で大歓喜でした。
ありがとうスコセッシ。
この映画なんですが、なんと上映時間が3時間半もあってびっくり。
昼過ぎに観に行って観終わって映画館出たら外がもう真っ暗になってました。
そして間違いなくそれ程の時間が経過してるだろうというのはわかるくらいに体感でも長い。
しかし、展開がダレることもなく全てのシーン必要だったとちゃんと思える構成で嫌な長さには感じなかった。
ここから本題。
ストーリーとしてはFBI設立のきっかけとなった実際に起こったインディアン連続怪死事件で、
史実に基づいた話でありほぼノンフィクション。
それもあってか序盤の時点でかなり嫌な予感がプンプンします。
舞台はオクラハマ。オセージ族と呼ばれる先住民たちが石油を掘り当てたことで巨額の富を得る。そこに金に目の眩んだ白人たちがやってきて次第に町ごと白人の管理下に置かれ財産をむしり取られていくといったようなあらすじ。
ディカプリオ演じる主人公のアーネストは戦争帰りで職もない為、デ・ニーロ演じる叔父のウィリアム・ヘイルを頼りにオセージへと訪れてくる。
このアーネストという男、こいつがまあまあのクズ。
強盗したりこすい手を使って金を得ようとしたり。とにかく金に汚い。
自分が観たディカプリオ史上トップクラスにクズ。
しかし、この町の白人はだいたいがそういう人間ばかり。
そんな中での、
デ・ニーロがもうめちゃくちゃデ・ニーロでした。
ジジイになったので、かつての観てる側もヒリヒリするような役ではなく、穏やかな爺さんなんじゃないかと変な期待をしていたのですが。
全く以てそんなこともなく、序盤からきな臭さのハンパじゃないジジイでした。
自分のことはキングと呼べとか、もう、ね。
ただスコセッシだし、
「そうそうこれこれ。このヒリヒリした感じこそスコセッシの妙だよなあ。」とさえ思えてくる。
(史実に基づいている話なのでこのテンションはめっちゃ不謹慎なんですが。)
そこからはもうあれよあれよと3時間ずっと嫌な方向に話が進んでいく。
どんどん暗殺されていくオセージ族。
もう明らかに白人たちの手によって犯されている。
もちろん狙いは油田によってもたらされたオセージ族の莫大な遺産。
全ての暗殺はその遺産を狙った計画によるもので、その元締こそがキング。
もうやってることは完全にギャング。
しかし、それでも平然と"親愛なる隣人"面していて全然悪いことしてる自覚がないという怖さ。
やはりそういう役がとことんハマるのがデ・ニーロ。
デ・ニーロとディカプリオの演技もさすがといった感じなんですが、
今回特に良かったのが、アーネストの妻であるモリーを演じるリリー・グラッドストーンの怪演。
中でも、モリーが心の内では白人を軽蔑し、
「口を開けば殺してやりたいと叫んでしまいそうになるので、ずっと黙っているようにしている。」とモノローグで語るシーンなんかは凄く印象的でした。
モリーは家族の仇をとるために探偵を雇って積極的に事件を解決するために行動に出たりと、無口だが意志の強い女性でありながらも軽蔑する白人ではあるが愛する夫でもあるアーネストのことを信じたいと思う気持ちもある。
ここの葛藤がすごく良かった。
対してアーネストは、妻であるモリーに糖尿病の治療だと言ってインスリンの注射を受けさせるのだけれど、
これがどう考えてもインスリンじゃない。
毒を少しずつ長い時間をかけて注入させ衰弱させていく。これもキングの指示。
アーネストはそれに気づかないふりをしてモリーにこれは最先端の治療なんだと言い聞かせるが、
果たして本当に言い聞かせている相手はモリーになのか自分になのか。
家族も大事にしたいけどキングには逆らえず、わかっていながらも引き返せないところまで行ってしまうような、本当にどうしようもないやつ。
クライマックスでは、モリーの依頼で捜査を行っていた連邦捜査局のGメンたちにより一連の事件が計画的な殺人事件であることが発覚し逮捕されるアーネスト。
途中このままではいけないと思い、真実を告白しようとするアーネスト、キングを囲う白人たちの脅しに近い説得によって結局また嘘をつき続けることになる。
しかし、収監されている際に幼い愛娘の死を知らせれたことで、考えを改めてキングを裏切る決意をし裁判で真実を告白することになる。
全ての指示を行った犯人を指し示しなさいで、ゆっくりとキング(デ・ニーロ)を指すアーネスト。
ここがめちゃくちゃグッドフェローズなんです。
てか、全体を通してグッドフェローズに近い設定や展開が個人的にはここでかなり興奮しました。(史実をもとにしたところとかも。)
最後に妻であるモリーから自分に打っていたのは本当にインスリンなのか問われた際、
悩んだ結果、笑って「インスリンだよ」と答えたアーネスト。
それを聞き何も言わずに立ち去ってしまうモリー。
結局アーネストは最後の最後まで選択を間違い続ける。
観ていてずっと「アーネストお前もっとしっかりしろよー。」てなる。
ラスト、突如シーンが変わって朗読劇が始まる。
物語のその後の顛末が語られた後、語り部としてスコセッシ本人が現れこの物語のラストを語る。
この演出によってノンフィクションであることが強調されている感じになり、
忘れてはならないアメリカの黒歴史であることを明確に表しているように感じられました。
グッドフェローズの時は一種の清々しさを感じるようなラストだったけれど、
それとはもはや真逆のような印象を残すラストでした。
要所要所で宗教的な側面が見えるこの映画。
キング自身もクリスチャンであり何度も神がどうたら的なことをよく言うが。
自分こそ神だと言わんばかりの行動や発言がいくつも見られる。おそらくこの映画的にもそう位置づけられていると思われる。
全体を通してオセージ族の信仰する宗教とキリスト教との対比にもなっていて、
モリーがキリスト教へ改宗したことによって死の間際に見えるものが違っている描写がある。
改宗しなかった母は死後の世界で祖先らしきものに手を引かれていくという天国感のある描写になっているのに対して、
キリスト教へと改宗したモリーはキングの企みによって衰弱していくなか、
死が近づいたときに現れたのは祖先ではなくキングだった。
それはキング本人ではなく、モリーたちオセージ族から見たキリスト教の象徴こそがキングであったため、幻影として現れたということなのでは。
あくまでこれはキリスト教が悪いとかって話ではなく、宗教的な面でも白人がオセージ族を乗っ取っていったことを表しているということなのでしょう。
実は今回もともとディカプリオは捜査官役でオファーされていたようなんですが、ディカプリオ自身がそれじゃだめだと。
それではなんだか気持ちの悪いものになってしまう。
結局白人を英雄視するような映画にはしたくないという思いもあったようで、今回の役に自ら志願したらしい。
これは素晴らしい英断。
(これによって脚本もいちから書き直したとか。)
以上、今回とても長くなりましたが、とにかくおもしろかったです。
映画自体も長いのですが、それだけの内容があるので観ていて飽きることはありませんでした。
音楽もかっこよかったし、
良い意味でスコセッシっぽくないレイアウトがあったり。
あの年になっても新しいことを取り入れていくのも巨匠たる所以だと思いました。
まだ観ていない方は観るときはその日一日はこの映画に捧げる覚悟で観に行くことをおすすめします。
最後まで読んでいただきありがとうございました。