「バーから自由になることで、バーの可能性を最大化する」- 新拠点チームメンバー INTERVEW② 野村空人[前編]
301新拠点プロジェクトのチームメンバーと、301代表の大谷によるインタビューシリーズです。第二弾は、カクテルをはじめとするドリンクのメニュー開発を行う野村空人さんです。
バーでカクテルを飲むという文化そのものがまだ一般化していない日本に、独自の考え方でカクテルの魅力と可能性を発信していこうとする野村さんに、どのようなビジョンを持って現場とコンサルティングを行き来しているのかを聞きました。
バーから自由になることで、バーの可能性を最大化する
大谷 バーに立ってお客さんにカクテルを提供するという従来のバーテンダーの働き方とは違う、コンサルティングやディレクションという道を選んだ一番の理由は何?
野村 自分が、飽き性だからかもしれない。だから場所を変えて動くことが好き。あとは良いものを作ることで、自分の好きな場所が増えていったらいいな、っていうこともある。自分がディレクションして、店にこういうカクテルあったら良いよね、っていう考えを共感してもらって。そういうことが、店単位でやっていけるのが良いところ。
大谷 フグレンでバーマネージャーとして活躍したキャリアがあるから、自分の店をつくって拠点を持ちつつコンサルティングの仕事をするっていう選択肢もあったと思うけど。それでもフリーでやっていこうと思ったのは何故?
野村 自分はロンドンにずっといたから、日本でのバーテンダーとしてのキャリア自体は少なかったこともあるし、コネクションも徐々に生まれてきてはいるけど、まだまだ広げられる。そういう意味では、店という範囲にとらわれずに、ディレクションとかフリーで動いた方が可能性を広げられると思ったし、実際に別業種の人との出会いがこの3年ですごく多かったのも楽しかった。
大谷 一つの店を通してだけではない、広いつながりを自分の中で求めていたということ。
野村 そう。フグレンにいた時から思っていたのは、自分が店に立つと外に出られなくなっちゃうのはすごく嫌だなということ。独立すると最初はどうしてもそうなってしまうんだけど、自分は両方できるようなスタンスが好きで。最近は、バーテンダーがカクテルコンペで優勝すると海外にゲストとして呼ばれることが多いんだけど、そういう時に店を閉めなきゃいけないとかも大変だなと思っていて。どっちも自由にできるような店づくりをしようとすると、きちんとしたチームをつくる必要がある。だから店をつくるより先に、コンサルの仕事の経験を積んでいくことで、どうやったら一から店が出来上がるのか見るのはすごく勉強にもなる。
大谷 自分の店を持つイメージは今はない?
野村 まだないかな。現実的な話、それなりの資金も必要になってくるし。自分がやりたいと思う規模の店を作るには、その前に大小色々なお店にコンサルとして関わってみて、それをブラッシュアップして自分の理想の店にしていきたいと思う。いろんなコンテンツやブランドを手掛けて、それらの課題と向き合っていくことで、自分の中にいろんなパターンが持てるのが、この働き方の良い面かな。仕事を通して、自分自身が学び、ステップアップしていける。
大谷 外に興味を持とうする考え方は、後藤さんも似ているよね(INTERVEW①参照)。
野村 開くん(「The OPEN BOOK」のオーナー)とかもそう。相談が来たらとりあえずYESって言う(笑)「やります!」「まだいけます!」って言って、実際どうやるかは後で考える(笑)
大谷 開くんらしい(笑)自分の可能性を広げていくために、やるということだけ先に決めちゃう、みたいなね。そういう感覚はうちも同じかも。今回の新拠点の物件も、収支計画つくるまえに契約しちゃったし(笑)
食をフックに日本のカクテルシーンを変える
大谷 今、空人くんはそういった自分なりの道を進んでいるわけだけれど、そのチャレンジの先にある理想のバーテンダー像とはどういうもの?そのロールモデルになるような人はいる?
野村 信吾さん(「The SG Club」のファウンダー)は自分の考え方に近いものがあって、ああいうブランドづくりは勉強になる。だから、今現場に立たせてもらってることは本当にありがたい。でも、彼は元々は海外で活躍してきた人だから、日本人で日本でやっている人で、自分が理想としている働き方をしている人は今はいないかな。
大谷 後閑さんとは違う方向性で自分がチャレンジしていきたいビジョンはある?
野村 信吾さんもフードをやってるけど、自分は100席くらいのレストランバーをずっとやりたいと思っていたんだよね。ちゃんとしたカクテルと料理が出せるような。それをきちんと流行らせることができたら、日本では誰もやったことのないものになるんじゃないかな。SGは上海で「Sober Company」をやっていたり、他にもいろんなレストランバーはあるけど、どこも自分がイメージしている店より席数は少ない。ロンドンの「Hawksmoor」みたいに、規模は大きいけどバーがちゃんと回っているのが理想。
大谷 席数が多いことが重要なのは何故?小さければ頑張ればできちゃうから?
野村 そうだね。あとは単純に最近はいい店で席数多いところがあんまりないよね。自分が好きな場所は結構席数少ないイメージ。
大谷 席数が多いことが、ちゃんとビジネスとしても成立しているっていう証明にもなるのかもね。
野村 レストランバーはあっても、カクテルはやってないところがほとんどだし。銀座は「MASQ」とかあるけど、バーのイメージのほうが強い。だから、きちんとレストランバーという括りでやれたら面白いと思う。
大谷 なんでフードに面白みを感じているの?
野村 ただ単純に自分が食べるのが好きで、興味があるから。あとはロンドンでそういう文化を見てきてからかな。日本には素晴らしいシェフもいるし。最近だと京都にできる「LURRA」とか、オーナーの宮下拓己くんは感じているところは似ているけど、コースとペアリングっていうスペシャル体験をやるみたい。自分は、もうちょっとカジュアルなスタイルでめちゃめちゃ美味しいフードとかっこいいカクテルが楽しめる場所が作りたい。
大谷 でも現状の日本のバーシーンを考えると、まずカクテルを日常的に飲むような状況をつくって、そこからレストランに広げていくって考えると、なかなか先の話にはなりそう。
野村 いや逆かな、と思っていて。フードの人気をうまく使って、カクテルの知名度も上げるっていうイメージ。食事があるだけで、飲んでくれる確率が上がるっていう日本人の気質は、フグレンにいた時から感じていて。実際SGで昼にカレーを出し始めてから、店の認知度も変わった印象がある。食をフックに入ってもらって、夜はバーらしいよっていう流れ。食だけじゃなくて、いろんなフックを作っておいて、最終的にお客さんがカクテルに興味を持ってくれたらいい。
大谷 なるほど。そこで重要なのは、カクテルのクオリティをちゃんと高めておくってことだよね。興味持った人が、それをもっと深く知りたいと思ってくれる奥行きをきちんとつくっておくこと。
野村 そう。だから色んな人のお店に関わって、その中で俺の考えも入れ込みながら、良いお店をたくさん作りたい。そして、それがみんなのロールモデルになってくれたら良いと思ってる。
静と動の往復がアイディアを連鎖させる
大谷 SGに立つ現場の仕事と、個人で受け持つコンサルティングの仕事を両立させるコツはある?現場は身体的な瞬発力を使うし、コンサルでは頭を使って集中することが多いと思うけれど、そのモードを切り替える上で大事にしていることは?
野村 自分はもともと現場気質で、やっぱりカクテルをバンバン出しているときは気持ちいい。一方で、新しいカクテルをしっかり自分で考えるときは、そういうモードに切り替える。動いているときと止まってるときのアイディアは違うから。動いてるときはいろんな味に触れるから、この味とこの味の組み合わせできるじゃん!っていう偶然の発見があったり。それをストックしておいて、止まっている時にその要素を引っ張り出して考えて、動いてるときにそれをまた試作してみる。そういう切り替え方かな。
大谷 切り替えてるからこそ良い点っていうのは、そうやってアイディアが連鎖していくこと?
野村 そうだね。頭で考えているものとは違ったものが現場に偶然あったりして、そこからアイディアが派生したり。家では頭の中で味を考えてるから、どうなるのかな?という想像の時間のほうが長い。
大谷 そう考えると、コンサルをやるとしても現場を持っていることは結構重要なのかもね。
野村 そうそう。お金があるならラボ作っちゃうという選択もあるんだけど、でも店という現場で作るとお客さんと対面する臨場感が一緒になるから、そこによりリアリティが出るし、俺はそれを重要視してる。
日本のバーシーンに多様性を
大谷 今の日本のカクテルシーンを、空人くん自身はどう見ている?そこに対して、自分はどうアプローチしていきたいと思っている?
野村 SGみたいな、内装とかにもしっかりお金を掛けているバーがもっとあってもいいと思う。日本って土地が高いし場所もないから、お金がそこだけでもすごく掛かってきて、さらに人件費もあるから回収するのが大変なんだけど。信吾さんみたいなモデルケースが出てきたから、チャレンジするバーがもっと増えていって欲しいという思いはある。あとは最近、どうしても行きたい、と思えるバーが少なくなってきているかな。
大谷 なんでなんだろうね。バー好きじゃない人でも行ける店という視点で見ると、TRENCHがこれまでの日本のバーと違うスタイルで人気店になって、フグレンがカジュアルな中でちゃんとしたカクテルを提供できるようなチャレンジをしてきて、SGが海外のクオリティで本気のバーをつくって。でもそれくらいしか、日本のバーで一般の人も巻き込むようなインパクトが起きていないというか。
野村 純粋に、それができるようなスタープレイヤーがいないということじゃないかな。
大谷 SGとか鹿山さんの店(「Bar BenFiddich」)とかって、体験としてスペシャルな方向性だよね。例えば、SGがもっともっと盛り上がったとして、それでどこまで日本人が日常的にバーに行くようになるかっていうとわからない気がする。もっと日常的な日本のバーシーンをこうしていこう、っていうビジョンを持った人が出てきたら面白いのに。
野村 ただ、入口としてバーだけだとやっぱり日本では大変だから、食とかコーヒーとか、他のフックをたくさん持っている人のほうが強いと思う。例えば、ジェラートもやってる四谷の「TIGRATO」とかは、ジェラートっていう入口をつくっているし、さらにカクテルのジェラートも作れたりっていう入口としてだけじゃない展開を考えていくのも面白い。
大谷 日本のバーシーン全体として、みんながどういう方向に向かえばいいのかっていう明確な考えが今はないのかな。みんなが模索してるような感じ?
野村 そうだね。模索はしていると思う。
大谷 じゃあそんな中で、日本のバーテンダーがこれからどうなっていくのが面白いと思う?
野村 多種多様でいいと思う。ただ、いろんなことに興味を持っていくことは大切で。特にこれからは、若い世代でも世界でいろんな経験をしてきている人たちがいるし、いい素材も揃っているから、それを利用する価値は絶対ある。
大谷 その結果どの道に進むかはその人次第。
野村 そう。しっかりクラシックカクテルやりたいと思ったら、素晴らしいバーテンダーは日本にいっぱいいるからそこで学べばいい。ただ他の可能性もあって、いろんなことに興味を持ったり経験したりすることで、その選択肢が広がっていく。その多様性が大事だと思う。
後編に続く。
野村 空人 Soran Nomura
21歳で単身渡英、7年間ロンドンのバーでバーテンダーとしてのキャリアを積んだ後、帰国。「Fuglen Tokyo」にてバーマネージャーとして活躍しながら、数々の賞を受賞。バーテンダーとしての新しい働き方を示すべく独立し、ドリンクのコンサルティングを手掛ける「ABV+」を立ち上げる。現在は、Finlandの「Kyrö distillery company」のJapan ambassadorの活動と並行して、「The SG Club」にてフリーランスのバーテンダーとして店に立ちながらも、カクテルやドリンクを起点として様々なプロジェクトのコンサルティングやディレクションを手掛けている。
301は、新拠点立ち上げに向けて飲食チームとして参画してもらえる仲間を募集しています。インタビューを読んでこのプロジェクトに興味を持っていただけた方は、HPのフォームから応募いただくか、301メンバーや飲食チームメンバーへ直接ご連絡ください。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?