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ショートショート:黒猫と人間
みもりさんは、泣きながら町を歩いていた。泣いて泣いて、もはや、どうして自分が泣いているのかわからない。別に良かった。わかったところで、何も解決しないだろうということは感じていたから。
街頭と道路を走る車のライトがみもりさんの涙を照らす。
「おや、あんたもかい」
しわがれた声がした。あたりを見渡すと、左の路地に黒猫が座っていた。
「あんたもなんだろう」
黒猫は夜空を見上げる。みもりさんもつられて顔をあげた。そして泣いている理由を思い出した。
夜空に浮かぶ、黒い雲のような靄のようなもの。それは、ハロウィンの見物を終え、帰路につく魔女の群れだとみもりさんはわかっていた。みもりさんは、こっそりあの群れに混ざって旅立つはずだったのだ。
「うまくいかなかったんだろ」
黒猫の意地悪い声で、また涙があふれてくる。うまくいかなかったのだ。魔女と一緒に飛び立つことは、できなかったのだ。
「泣くのはおよしよ。あんただけじゃないさ。そんなやつ、他にも見かけた」
あんただけじゃない、と言われても、何の慰めにもならない。もっとも、黒猫には慰めるつもりなんてなかったのかもしれないけれど。
「泣いたって、どうしようもない。泣いて魔女になれるってわけじゃないんだ」
癪だが、黒猫の言うこともわかる。みもりさんはようやく涙をふいた。
なぜこの黒猫は人間の言葉が話せるのだろう。ふと、みもりさんは思った。
「人間の言葉だって?」
みもりさんの心が読めるのだろうか。黒猫は声をあげた。
「どうしてこれが、人間の言葉だと思うんだね。あんたがおれの言葉を理解しているのかもしれないじゃないか」
みもりさんがびっくりして黒猫を見つめると、黒猫はクックッと笑った。
「冗談。おれが人間の言葉を話してるんだよ。でもあんた、それ以外の可能性を疑わなかったろ。ということは、あんたは自分が人間だと思ってるんじゃないか」
みもりさんは、何も答えなかった。
「軸が人間なんだよ。だからあんた、魔女より人間の方が向いてると思うぜ」
笑いながらそう言うと、黒猫はひらりと姿を消した。みもりさんは見失った黒猫を探そうともせず、夜空を見上げる。
魔女の群れは、もういなくなっていた。
みもりさんは瞬きをしてひとすじだけ涙を流すと、また歩き始めた。
※フィクションです。
ハロウィンお疲れ様でした。私は何もしていませんが。