ショートショート:親切な暗殺
その若い俳優には、親切なファンがいた。
彼がラジオやSNSで欲しいものを呟こうものなら、すぐにそのファンから送られてくる。
『○○が欲しいと聞いたので』
という手紙と共に。
顔も知らぬそのファンに、ある種の狂気や不気味さを感じつつも物欲には抗えぬ。俳優はそのファンのことを放置していた。
ある夜。
俳優は自宅でうなだれていた。テレビにはアイドルグループを卒業したばかりの女が映っている。
先日、とある週刊誌にて彼とその女の熱愛報道がすっぱぬかれた。嘘の情報である。俳優とその女は一度ドラマで共演しただけ。載せられた写真も打ち上げの様子を切り取られたものである。
しかし、その女はこの報道を売名のチャンスとしたらしい。彼との交際を匂わせる発言を繰り返した。彼は女の炎上商法に巻き込まれたのだ。
「消えてくれないかな…」
俳優はため息混じりに呟いた。
その三日後。
女が何者かに殺された。
そして俳優のもとには一通の手紙。
『消えて欲しいと聞いたので』
(410字)
※フィクションです。もちろん。
今回も田原にか(たらはかに)様の企画『毎週ショートショートnote』に参加いたしました。結構ベタなやつになっちゃった。
マスコミには正しい情報を扱ってほしいものですね~。