
疲労感は運動不足というよりがん治療の影響!?がん治療により持久力が20-30年分落ちる
がん治療を受けられた方は、口を揃えて
「体力が落ちた」
「駅から歩くだけで息が切れる」
とおっしゃいます。
抗がん剤治療は持久力・筋力を落とすことが科学的に証明されていますが、どの程度落ちているのか、科学的な論文報告を参考に具体的に見ていきましょう。
このnoteはこんな方におすすめです。
・がん治療後に持久力が低下した理由を知りたい方
・がん治療後にどのぐらい持久力が落ちるか知りたい方
このnoteで得られる知識をスライド1枚で!

1. 40歳の乳がん患者は60歳の運動不足の一般女性と同程度の持久力であった。
まず、衝撃的な論文を紹介します。世界で最もインパクトのある医学雑誌であるJournal of Clinical Oncologyの報告です。
・乳がん患者と運動不足の健康な女性の持久力を年齢別に比較した研究(アメリカ, 2012)
Jones LW. J Clin Oncol. 2012;30(20):2530-2537.
まずはこのグラフをご覧ください。

青色の乳がん患者さんは抗がん剤治療中、転移再発の方など色々な状態の方が含まれていますが、おそらく最も持久力が低下している転移再発のグループを除いても
40歳の乳がん患者さんは60歳の運動不足の一般女性
50歳の乳がん患者さんは70歳の運動不足の一般女性
と持久力がおおよそ同程度であったことが示されています。
想定していたより持久力が低下していることに私は衝撃を受けました。
また、同じ論文内で、特に化学療法後と転移再発の患者さんは健康な女性と比較して明らかに持久力が低下していたことが示されています。
2. 術後化学療法後の乳がん患者は同年代・同じ体格の健康な人と比較して持久力が60%程度しかなかった。
・非転移性乳がんの抗がん剤治療前・中・後の心肺機能を検証したランダム化比較試験(ドイツ, 2014)
Klassen O. Acta Oncol. 2014;53(10):1356-1365.

グラフを見ると、一番右のグループが抗がん剤治療後の状態の持久力が最も低下していることがわかると思います。 補助化学療法を受けた患者は、年齢と BMI のカテゴリーで期待される本来のVO2 peakレベル(持久力レベル)のわずか 63%程度しか有していませんでした。
上記二つは乳がんに関する研究です。
乳がんは患者数が多く、生存期間が長いがんであることから運動研究の対象になることが多いです。運動介入や筋トレによる体力向上についての研究も乳がんの臨床試験が圧倒的に多いです。
しかしながら、体力低下についての他のがん種の研究もあります。
食道がん・胃がんの術前化学療法は持久力を有意に低下させていた。
・食道がんまたは胃がんの術前化学療法が持久力に及ぼす影響を検証した研究(イギリス, 2014)
Jack S. Eur J Surg Oncol. 2014;40(10):1313-1320.
食道がん・胃がんに対する術前化学療法を受けた患者さんは化学療法前と比較して有意に持久力が低下していました。
また、この報告では、抗がん剤による体力低下が生存率低下とも関連していることが示されています。
まとめ
抗がん剤治療を中心にしたがん治療がいかに持久力低下を起こすか、ご理解いただけたと思います。
がん治療後、倦怠感を感じておられる方は、運動不足によるものではなく、治療に伴う持久力・筋力の低下によるものであることを私はお伝えしたいです。
治療によって体力が低下することはある意味防ぎ得ないことであり、大事なことは下がってしまった体力をいかに元に戻していくか、という前向きな姿勢だと思っています。
これらの報告が出た時代から10年が経ち、がん治療における抗がん剤の役割は大きくなっています。抗がん剤の進歩により寿命が長くなる、生存の可能性が上がることはもちろん素晴らしいことですが、これらがいかに体力を落としているのかは今後より重要な課題になってくるでしょう。
Xでも情報発信しております。フォローをお願いします!