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どくしょめも:滝本竜彦『NHKにようこそ!』(2002 角川書店)

俺は気づいてしまった。俺が大学を中退したのも、無職なのも、今話題のひきこもりなのも、すべて悪の組織NHKの仕業なのだということを!…だからといって事態が変わるわけでもなく、ずるずるとひきこもる俺の前に現れた清楚な美少女、岬ちゃん。「あなたは私のプロジェクトに大抜擢されました」って、なにそれ?エロスとバイオレンスとドラッグに汚染された俺たちの未来を救うのは愛か勇気か、それとも友情か?驚愕のノンストップひきこもりアクション小説ここに誕生。

この小説にはどうしようもなく平成中期という時代、私自身が幼少期を過ごしたあのどうしようもない時代のある側面が色濃く表れている。
これは作者が自身の引きこもり経験を下地に当時社会問題として騒がれていた引きこもり小説を書いたからではないか。

また、この小説は初めとオチが綺麗にまとまってはいるものの、引きこもり小説らしく(?)中盤が終盤の展開に直接つながっているという感は特になかった。
いちおう話の主軸は佐藤が岬ちゃんと出会い、プロジェクトとやらを遂行することにあるのだけど、両者ともにダメ人間なのでこれ自体はダダ滑りする(ダダ滑りしたからこその終盤のNHKの再解釈と互いの存在のみを恃みとする救済法につながるとも言えるけど)だけで、終盤で父親の力で牧場主の地位と婚約者をあっさり手に入れた山崎とのエロゲ作りは最終盤で引用されたこと以外に直接的に話の主軸には関係してこないことが多い。

もちろんそれら『蛇足』にも見えるパートも読むと実に面白く、佐藤と山崎の合法ドラッグ癖のようにサクサク読んでサクサクおかしくなってくるのだが、それはそれほど分厚くない文庫本一冊ぶんの小説だから許されることであって、この小説そのものが広義の連載モノ(TV放送のアニメも含む)には向いていないストーリー展開ではないのだろうか。

だからこそアニメ版も漫画版も原作とはまるで違う展開となったのではないだろうか。
地味に珍しいメディアミックス形態で、この原作の持つキャラ・コンセプト・ふいんき(変換できない)・ノリが優れていればこそ可能だったのだろう。
機会があればアニメ版も漫画版も見てみたい。


(あと岬ちゃんが事前に想像していた「引きこもりの主人公を救いたがっている不思議ちゃん」のイメージに反して思った以上にダメダメな娘だったのがやや意外だった)

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