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どくしょめも:與那覇 潤『平成史―昨日の世界のすべて』(2021年 文藝春秋社)

小泉純一郎から安室奈美恵まで――平成育ちによるはじめての決定版平成史が誕生した。気鋭の歴史学者として『中国化する日本』で脚光を浴び、その後、双極性障害による重度のうつの経験をもとにした『知性は死なない』で話題を集めた著者が、「歴史学者として著す最後の書物」と語る、渾身の一作。昭和天皇崩御から二つの大震災を経て、どんどん先行きが不透明になっていったこの国の三十年間を、政治、経済、思想、文化などあらゆる角度から振り返る。新型コロナウイルスによる政治・社会の機能不全の原因も、「昨日の世界」を知ることで見えてくる。

これまでの平成史がぼんやりとした『年表の文章化』の域を出なかったのに対して本書では、左右の「父」(昭和天皇・マルクス主義)の「死」という明確なターニングポイントからしっかりと年代ごとの特徴・思潮をえぐり出し、そして「歴史」が意味をなさなくなり、自由につまみ食いされるデータベースと堕す時代の「(最後の)通史」を描き出している。

また、興味深かったのが、平成期に新しい視点として出された戦後日本に対する疑義がおよそすべて70年安保終結後の昭和40年代には出尽くされていたという視点である。
あまりにも近い「歴史」を学ぶことを止めてしまった(「激動の戦後」に比べるとあまりにも平成が表面的には薄っぺらい消費史上での変化しかしていないからだろうか)ため、同じような(陳腐な)問いを出しては繰り返し挫折し、軽薄ながら相対主義など自由な思考の枠組みを生み出すことすらなくなり、安倍長期政権を経て末期に至ってついに身体的な戦争体験も「父」も失ってしまった「劣化戦後」の左右対立に収まってしまった虚しい時代。
コロナ禍を経て闘争の時代が幕を開けるのか、それとも分断された階級の中で分断の果実を得ることすらなく虚しい時代を生き続けるのか。


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