セシボンといわせて(九日目)
〈九日目〉
今日も夕方、車庫を使う用事がある。猫アレルギーの友人が母を訪ねて来るので、夕べ母と約束した通り、朝のうちに車庫の外に猫のケージを出す作業をする。車庫の磨り硝子の引き戸とシャッターの間の軒下は、塩梅よくケージが収まる幅分だけあった。
セシボンが二段目の棚板に降りてきて寝床に香箱座りしてくれている。昨日は仕方なく座っている、という感じだったから、やっと正式に使ってもらえたようで少し嬉しい。お腹の具合も回復してきている様子で、便も平らな物もあるが、棒状の物もあった。
夕べ皿に入れた缶詰は手つかずで残っていた。この暑さで腐っているかもしれないので廃棄することにし、水を替え、水分代わりにちゅーるをあげた。
ケージを外へ出して暫くは、二段目から外界の様子を窺っていたがやがて上段へ隠れてしまった。
いったい日中、セシボンはどんな風に過ごしているんだろう。
どうしても知りたくて、ビデオカメラを据えて、2時間ほど録画してみた。
猫が怪しまないようにカメラを隠すようにして撮った映像を、すぐに見たくてその場で確認する。
セシボンが動き出したのは1時間15分程経ってからだった。画面が小さくて分かりにくいが、誰かに求めるみたいに鳴きながら床へ降りてきてウロウロしている。座って外を見たり、それから体を伸ばして段ボールをバリバリ。向きを変えてまたバリバリ。身体をうーんと伸ばして、アオーン、アオーン、と鳴きながら柵によじ登り、段ボールに爪を引っかけたまま、フラップ部分をかみ切っていく。それから一段目に戻って、ちょっと鳴いた。8分弱の出来事で、その後は途切れ途切れに鳴く声が小さく入っていたが、車の通る都度、静かになる。
ケージ横で再生していたが、音量最大にしていたのもあって、画像のセシボンの第一声はハッキリと聞こえた。途端、ケージ内のセシボンがでっかい声で鳴き始めた。ずっと、声が枯れそうなくらいに鳴いている。セシボンが映像の中の自分に助けを求めている。
昨日お会いした方に宛ててセシボンの写真を送信する。貴方が飼うの?と問われ、続けて「頑張って!命のために」と返信が来た。趣味じゃないという気持ちがどう伝わったかは分からずじまいだけれど、何にせよ励ましは嬉しかった。
何度か様子を見に行くうちに、どうもケージが小刻みにカタカタ揺れているのに気が付いた。ケージに被せてある段ボールのフラップの猫の背中側にあたる部分をそうっと持ち上げてみても身体を凭せかけているだけに見える。目だけはいつものように見据えていて、腹の辺りがふくふくと動いている。イライラして貧乏揺すりをしているようでもある。
ケージが収まっている軒下部分は極緩く斜めに下っている。平らじゃない上に外の空気の中にいて、自身の自由は効かず、落ち着かないのも当然か。
ミサが現れた。
5時頃、こちらを覗いていたが素知らぬ振りをする。
10分ほどしてまた庭に入って来た。私の姿を見つけると、そろり、そろり、と歩いてくる。おっかさん一家がいないかどうか、気を払っているのだろう。
茶やら黒やら混ざり合った毛並みをサビ色というのだとは、ミサと出会って知った事柄だが、発色が強く濃く、色の混ざり具合は贔屓目に見てみても美しいとは言い難いのがミサの特徴だ。威圧的にさえ見える。そのいかつい容姿に反して、女の子っぽい高音の甘えた声で、にゃあにゃあ、にゃあにゃあ、といつものように来訪を告げる。
ごめん。
取りあえずエサをやる。食べる様子を見ながら、庭継さんのところでご飯をもらえなかったのかな、と思う。
客人が帰ったので、ケージを車庫へ入れようとすると、母はこのままでいい、と言う。明日も車庫を使うので朝には再び出さなければならないからだ。内心セシボンが可哀相だったけれど、母に言い切られては逆らえない。薄っすらした不安に蓋をしてもカタカタ、カタカタ小さな音が聞こえている。
※※※1つ前のお話はこちら↓ です※※※
セシボンをまとめました。目次もありますので日にちでも選べます😊🐈⬛🐈⬛↓↓
☆☆☆見出し画像はみんなのフォトギャラリーより、にきもとと様の作品『 。 』を拝借しております。いつもありがとうございます😊☆☆☆☆☆