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セシボンといわせて(二日目~三日目にかけて)

〈二日目〜三日目にかけて〉

 深夜。うたた寝していて目が覚めると時計の針は天辺を過ぎている。

 車庫の電灯のスイッチを入れた途端、ケージの周りに段ボールの屑がボロボロと落ちている様が目に入る。それから におい。独特な違和感のある臭い。 

 あ!

 トイレ代わりのバスケットの一角を越えた所で砂がこんもりと山になっている。バスケットを覗くとその中にも2~2.5cmくらいの黒い排泄物が幾つもあり、砂の塊もできている。
 おぉ~、よかった、やっと排泄したんだ。
 上手に出来たねぇ、と声を掛けながら、ケージの隙間から箸を突っ込み、塊を少しずつ取り除く。こんもりこぼれて山になった砂は箸では取れないので後回しだ。犬猫センターの人が、トイレについては心配しなくても大丈夫、と言っていたが、その通りで感心する。


 段ボールの屑はケージ床やトイレの中にも落ちている。
 この段ボールは元々この組立用ケージが入っていた物で、天地をひっくり返せばケージをすっぽり覆えた。垂れ下がるフラップの部分が良い塩梅でケージの一段目を見えなくしてくれたからセツの目隠しにピッタリだった。ただ、一段目だけではセツにしたら心許ないかもしれないと、更に梱包材として使われていた段ボールの板をガムテープで各フラップ部分に継ぎ足して留めた。これで二段目まで隠れていた。このうちの一枚が三カ所ほど半円を描くように削られている。
 初めは、爪を研いだのかとも思った。それとも床から飛びついたのか、とも。
 この時点でも私はセツに寄り添えてなどいなかった。そもそも初日に捕獲器内の空のエサ入れを見て、私たちが来たから少しは安心して食べられたのかな、と呑気に思っていたくらいだ。 朝が早くてまだ頭が覚めきっていなかったとはいえ、よくよく考えれば今まで去勢の為に捕まえた猫も、捕獲器の中でパニックで皿をひっくり返していたのに。セツを「捕まえた」という事実に興奮していたんだろうか。


 まだ子猫の頃のセツ。毎朝早くからシンと二匹で物置代わりの古い犬小屋からそっくりな黒い顔を並べてひょこっと出して、満月みたいにまん丸で菜の花色のお目々も四つ並べてこっちを見ていたね。なのに私の我が儘のせいで、ごめん。


 でも今セツは自分が想像していたより、もうずっと体が大きくなっていて、とっくに大人になっていて、その真っ黒な身体を伸ばして段ボールの板を噛みちぎっていた。逃げる為に懸命に頑張った跡だった。



***1つ前のお話はこちらです…***

セシボンをまとめました。目次もあるので日にちを選んでいただけます…🐈‍⬛🐈‍⬛↓↓


☆☆☆☆見出し画像はみんなのフォトギャラリーより、にきもとと様の作品『空を見る。』を拝借しております。いつもありがとうございます😊☆☆☆☆☆



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