地域で造った庭 漢陽寺6庭園を撮る
山口県周南市鹿野地域の町なかに建つ禅寺、鹿苑山漢陽寺。
臨済宗南禅寺派の大本山・南禅寺に属するお寺の中でも、特別な取り扱いを受ける別格地に定められたこのお寺の興りは、約650年前の1374年にまでさかのぼることができます。
本堂の裏には、江戸時代に掘りぬかれた用水路である潮音洞があり、境内にも水の音が響いています。
鹿野地域は台地という地形上にある町のため、川が低い位置を通っています。潮音洞は、鹿野の水田開作・生活用水の確保のために造られたものなんですよ。
自分の実家はこのお寺の檀家でもあり、自分も小さい頃から通っていたお寺さんです。小さい頃はそこまで気にしたことがなかったのですが、大人になり、その歴史を知るにつれ、とても由緒あるお寺なんだな……と驚くことばかりです。
6つの庭園が、国の登録記念物に
その漢陽寺にある6つの庭園は、令和3年に国の登録記念物として登録されました。
登録記念物とは、文化財保護法に基づいて文部科学大臣によって登録された、保存及び活用のための措置が特に必要とされる記念物のことで、遺跡・名勝地など、全国で127件(令和5年3月時点)が登録されています。
この6つの庭は、有名な作庭家であった重森三玲氏によって作庭され、さまざまな時代の様式を取り入れて造られたものなのだそうです。
漢陽寺の山門を正面に見て、右手側に曹源一滴の庭が参拝者を出迎えます。桃山時代の様式で作られた巨石立ち並ぶ庭の様子には、圧倒されるばかりです。
6つの庭園を代表する庭はどれか、と言われれば、おそらくこの庭でしょう。本堂前に広がる曲水の庭は、水を使わない枯山水の様式に、あえて水を通す曲水を取り入れた珍しいもので、写真のように秋の紅葉シーズンにはたくさんの方がこの庭を観に訪れるんですよ。
仏教における宇宙観を表現した九山八海の庭は、お寺の東側に位置する鎌倉時代様式の庭園です。
お寺の北部の山すそにある蓬莱山池庭も、鎌倉時代様式の庭園です。同じくお寺の北側にある潮音洞の水を分水させ、流水式の池庭となっています。
蓬莱山池庭の向かい側には、地蔵菩薩がこどもたちと遊ぶ様を表現した地蔵遊化の庭が広がります。ぐるりと四方を建物がかこっているため、四方どこからでも眺めることができるという造りになっています。
そして、通常は非公開のため見る機会が限られる瀟湘八景の庭は、モダンアートを思わせる斬新なデザインが目をひく、他の庭には見られない造りをしています。
重森氏と、鹿野の住民とが造った庭
これらの6庭園を作庭した重森氏と漢陽寺のご縁は、前住職の頃のこと。
前住職がぜひ重森氏に作庭をお願いしたいと頼みこみ、作庭の話がまとまったとき、重森氏は本堂裏山にある潮音洞の出水口から流れる水を見つめて「今まで日本にない庭を造りたい」と話されたそうです。
こうして造られたのが曲水の庭です。先にご説明したとおり、枯山水の中に、曲水様式を取り入れるという、他に類を見ない形に造られた曲水の庭をはじめ、6つの庭が造られました。
調査・設計から5年を費やして造られた6庭園には、作庭の材料にもこだわりが見られます。作庭の際は、業者が準備した石置き場から材料を選ぶのが一般的なのですが、漢陽寺の庭は現地で石を調達して造られたのだとか。
また、重森氏は全国を忙しく飛び回り、一カ所に留まらない生活をしていたそうですが、漢陽寺の作庭中は、寺内で寝泊りしていました。
作庭には鹿野の住民も加わって行われたようで、石を運び庭に設置する手伝いをする写真も残されています。
住民との交流は作庭だけにとどまらず、作業の合間をぬって、重森氏は鹿野の人に生け花などを教えることもあったそうです。
その様子は、さながら「重森塾」といった様相だったとか。
こうして地元の人と一緒に庭を造るということは、重森氏にしてはとても珍しいことだったのだとか。これも漢陽寺庭園が重森氏が造った他の庭と違うところなんです。
漢陽寺の住職である杉村さんは「漢陽寺庭園は鹿野の宝。登録を起爆剤にして、鹿野がもっと活性化してほしいです」と話してくださいました。
ふみぞうのお勧め 秋と冬
重森氏と鹿野の人たちが一緒に造り上げた6つの庭。
自分のお勧めは、紅葉の美しい秋と、そして真っ白な雪に包まれる冬です。
一度訪れた庭園たちも、季節を変えるとまた違った顔を見せてくれますよ。
鹿野地域は年中さまざまなイベントでにぎわう場所。ぜひ一緒に、庭園の様相を楽しんでほしいなと思います。
漢陽寺へのアクセス
住所 山口県周南市鹿野上2872
問合せ TEL 0834-68-2010(8時~20時)・FAX 0834-68-3308
公共交通機関
●JR山陽本線・徳山駅から
タクシー…約40分
バス…徳山駅から、鹿野停留所で下車後、徒歩約10分
●高速道路から
中国自動車道・鹿野ICから約1分
詳しくは、ホームページをご覧ください。
https://kanyouji.or.jp/